Vlado Perlemuter plays Ravel (1955)Ravel
夜のガスパール ヴラド・ペルルミュテール(p)/ヤッシャ・ホーレンシュタイン/コンセール・コロンヌ管弦楽団 VOXBOX CDX2 5507 1955年録音 2枚組1,850円 10年ぶりの再聴、というかあちこち”ちょろ聴き”しておりました。購入したのは1990年代初頭、既に20年を経、聴き手はやがて中年乗り越え引退間近になったけれど、CD寿命はたいしたもの〜収録作品の和訳メモが封入されていて、漢字も含めすべて半角!そうか・・・当時はまだパーソナル・ワープロ(文豪miniって11万円?凄いね)だったんだ。VOXはモノラル〜ステレオ中期迄の音源豊富、LP時代より音質いまいち、といった印象でしたね。たしかにレナ・キリアコウによるChabrierなど少々音質厳しく感じたけれど、現在の耳でもペルルミュテール1955年モノラル録音にさほどに不満を感じません*(10年前のコメント同様)。しっとり雰囲気充分。 仏蘭西音楽は大好き、その中でもRavel は別格なる旋律の美しさ、緻密なサウンド、繊細な作りこみ〜嗜好のツボ。破壊的暴力的サウンドも嫌いではないけれど、強靭マッチョ正しい独墺系音楽を苦手としていて、こんな小粋、淡々とした世界が好き・・・この2枚組は「ラ・ヴァルス」、他小品集が含まれぬだけ、逆にピアノ協奏曲が収録されるといった、お徳用盛り沢山収録であります。エエ買いもんやった・・・ ・・・というのが以上、数カ月前の執筆だっけ(しばらく書きかけ原稿放置)。やがて転勤転居、お仕事の質ガラリと変化してヒマでしゃあない毎日へ。オーディオ環境もちょっぴり変わりました。ゆっくり音楽を拝聴できる条件は整った、ということでっせ。以下、断続的に、行ったり来たり繰り返して聴いたもの。嗜好は揺れ動いております。結論からいうと、音質厳しいものはRavel には向いていないかも、といった安易なもの。 【♪ KechiKechi Classics ♪】的オーディオ改善は、所有音源ほとんど改善されて驚く毎日、しかしこれは少々(逆に)アラが目立ってしまいました*。あまり(かなり)音質はよろしくない。それよりなにより「夜のガスパール」〜第1曲「オンデォーヌ」が始まったら・・・指が回っていない、リズムがたどたどしい。現代のテクニック水準に耳慣れていると、これは相当厳しいんじゃないか、そんな不遜なことさえ考えてしまいました。話題は逸れて、例の幻の名盤!Mozart のソナタ全集をいくつか再確認したら、やはり技術的な仕上げは少々細部甘いかも、って、あかんなぁ、よろしくないなぁ、こんな拝聴態度。ちなみに後年のRavel ステレオ録音は、その後聴く機会を得ません。 でもね、第2曲「絞首台」(Le gibet)の気怠い雰囲気はかなりのもの。第3曲「スカルボ」(Scarbo)はそうとうな技巧を要求する作品とのこと、細部やはり弾けていない、リズムのキレがいまいち雰囲気で聴かせている、最終版がたがた・・・って、その雰囲気が貴重なんでしょう。この雰囲気風情に入り込めなければ、やや聴いていてツラい〜当時51歳、衰えには程遠い年齢と思いますよ。「水の戯れ」の味わいはなんとも云えぬ繊細なる感銘有。「ハイドンの名によるメヌエット」にも淡々と枯れたアンニュイを感じました。 「鏡」に至って曇った音質にも耳慣れ、自在な揺れを楽しめるように至ると”以前の称賛”はじょじょに蘇って参りました。よろよろと動く「蛾」、弱々しい「悲しげな鳥たち」、「海原の小舟」には幻想的な波の姿が浮かび、「道化師の朝の歌」はユーモラスなテイストに不足はない〜けど、ちょっと迫力やら突き抜けた凄み不足(なんせここも相当な技巧要求されそうだし)・・・かな。「鐘の谷」は谷間に住まう人々の生活情景が眼前に浮かびました。「古風なメヌエット」はやや、ちょっぴり情けない線の細さも悪くない、というか、ほとんど絶品。 ここからホーレンシュタインのバックによる協奏曲2曲。購入当時はこれしか聴いたことがなかったから、基準はこれでした。「左手」から。冒頭、バソンの鼻声がエッチですよね。1955年にしては音質少々苦しいけれど、雰囲気もあってソロも雄弁かつ繊細〜しかし、全体的に少々重く、ものものしい(仰々しい)のはホーレンシュタインのせい?その後、種々新しい録音を聴いていると、もっと軽妙軽快なテイストだったような・・・ト長調(両手)のほうは、軽快なオーケストラの出足さっそくアンサンブルが乱れてお仏蘭西らしい(だからどーの、という価値観は持ち合わせていない)。こちらは「のだめ」(イメージ)影響か、アルゲリッチ辺りの刷り込みか?躍動というか、ハジけかたに不足を感じるというか、鮮度もっと!的不満ないでもない。それでも、弱音の特異な、くぐもった音色は個性なんでしょう。まるで、往年の無声映画にてロマンスを見ているような、そんな感じ。 大好きな「クープランの墓」には不満なし、冒頭プレリュードのシンプルな音の繰り返しにはニュアンス有、テクニック云々の問題もほとんどなし(リゴードン、トッカータはやや苦しいかな?)。フォルラーヌはゆらゆら揺れ、とつとつとした、ちょっぴり退廃テイストはほとんど絶品。「パヴァーヌ」も同様、力んで雄弁であればこと足れり、ということにならぬ、つぶやくようなテイストがこれでっせ。「ソナチネ」も同様、ラスト「活き活きと (Anime )」快速パッセージ(+変速リズム)かなり頑張っておりました。 ラスト「上品かつセンチメンタルなワルツ」(高雅で感傷的なワルツ→悪訳と思う)は、タメもたっぷりに揺れたテンポ設定、粋な雰囲気充満するような、遠い目で回顧するような演奏であります。たしかにテクニックだけでは説明のつかぬ、かといってその辺りも曖昧にしたくない〜揺れ動いてCD2枚分、数週間拝聴しておりました。 (2013年7月7日)
このVOX盤は(c)(p)1992となっていて、出て即購入した記憶有。当時の印象ではとにかく「音がヨロしくないな」と、それだけ。10年経ってオーディオの条件も変わったし、なにより聴き手の感性が変化してますよ。正直、驚愕の連続。10年ぶりの邂逅〜瑞々しい感動横溢。 つい先日、モニク・アースのCD買いました。最近、つとにこういうタイプのピアノが好みでして。フツウであること、ムリがないこと、濃厚なるクセを感じさせないこと、聴き手に緊張を強要しないこと。ああ、Ravel って精密機械のような音楽だけど、こんなゆったりとした演奏もありなんだな、と・・・・最近、疲れているのかな? で、管弦楽版も大好きな「クープランの墓」〜これもなんやら余所行きじゃない演奏〜なんて、ペルルミュテール(質問!発音のアクセントはどこにあるんですか)を聴いちゃったら・・・・そうか、やっぱり音楽の密度ってこんなにあるもんなんだね、ひとつひとつの音がほっこり生きているよね、と。感慨深い。すっかり魅了されました。なにが「音質に問題有」だよ! 純録音技術的には評価されないと思うけど、低音の分離も悪くない自然さがあります。音に芯があるし、なにより暖かさがある。切れ味、ではなく包み込むような余裕も。音楽が今そこで生まれているという鮮度。たしかな温もり、感興の高まり(例えば「リゴードン」)に聴き手の額は汗ばみます。テンポは常に適正で、早過ぎもせず、遅くもない。壮年時代のペルルミュテールの技術に不足もありません。 淡々とした表情の中に漂う気品〜コレ「パヴァーヌ」ですね。ゆらゆらとした気まぐれさを期待すると、それは違うでしょう。もっとしっかりとした(おそらく)リズムが血肉化しているはず。それでも「ソナチネ」の自由な表情は「粋」そのもの〜これほど楽しく、切ない演奏には滅多にお目に掛かれない・・・・「アニメ」の変幻自在なる表情! 一番人気は「パヴァーヌ」でしょ。いろいろ注文付けるけど、やっぱり淡々サラリと仕上げて欲しい。この曲は、微細に表情を彫琢したり、くどいくらいの詠嘆の表情を付けることも可能だし、付けたくなる名曲でしょ。(そんな演奏も聴いたこともある)な〜んもしてないようでいて、じつはいつの間にやら音楽の渦に巻き込まれているような〜そんな演奏なんです。 協奏曲2曲〜これLP時代はこれだけで一枚に収まっていましたね。そうそうこのCD買ったときに「たくさん入っていて贅沢。しかもこんなに安くて!」と感慨があった記憶有。なんかね、従来のピアノ協奏曲の概念を一蹴する作品でしょ?自由でラプソディックで気儘(じつは微細なる計算が)で。久々に聴くと、これも音質はまったく気にならない。カタのチカラが抜けているし、”粋”だし。オーケストラは雄弁でピアノに負けない個性がある。コンセール・コロンヌの録音は珍しい。 自信ないけど、これプレイエルでしょうか。暖かくて、角が取れたま〜るい響き。計算され尽くした知的で緻密なRavel の音楽にピタリ。できれば後年のステレオ録音も聴く機会を持ちたいもの。
「場外乱闘〜和訳が気に食わない件」
* 「高雅で感傷的なワルツ」→「上品でセンチメンタルなる円舞曲」でどうだっ! * で、「夜のガスパール」っていうけど、「ガスパール」ってなに?人の名前か?おフランスには縁が薄いのでどなたかご教授を。(早速ご教授いただきました)(2003年8月22日)
【♪ KechiKechi Classics ♪】●愉しく、とことん味わって音楽を●To Top Page |