Ravel 管弦楽曲集(ジャン・マルティノン/シカゴ交響楽団)


RCA  09026-63683-2 Ravel

スペイン狂詩曲
道化師の朝の歌
マ・メール・ロワ(管弦楽組曲版)
序奏とアレグロ 変ト長調
エドワード・ドルジンスキ(hp)/ドナルド・ペック(f)/クラーク・ブロディ(cl)
ダフニスとクロエ 第2組曲

ジャン・マルティノン/シカゴ交響楽団

RCA 09026-63683-2 1964/68年  1,000円で購入(贅沢購入したのが1999年)

 2009年、いくつか既存所有分処分してジャン・マルティノンのDebussy/Ravel 作品集8枚組(EMI)購入。で、ずいぶんと久々、8年ぶりに棚中からシカゴ響との旧録音を比較すべく取り出しました。他、ボレロとか逝ける女王のためのパヴァーヌの録音もあるらしいが未入手未聴(欲しいね、聴いてみたいね)。ま、前任のライナー、後任のショルティが大人気だったということは、シカゴではマルティノンの個性が受け入れられなかった(だけ)ということなんでしょう。音楽性の問題だけじゃなく、所謂”運営問題”もあったらしいけれど。

 まず、音質が良好なこと。EMI録音もワリとよろしいが、少々響きが薄いというか、低音が弱いといった印象もありました。スペイン狂詩曲はほんわかとしたサウンド+スペインの熱に浮かされたようなリズムが同居している名曲。強靱なメリハリのあるアンサンブルと迫力であり、一方でニュアンスたっぷりの雰囲気と粋が同居して出来上がった音楽は明快。物憂い霧が充満するような「夜への前奏曲」〜そしてスペインの怪しい熱気溢れる「マラゲーニャ」「ハバネラ」、そしてシカゴ響の実力大爆発の「祭り」のド迫力!色彩の快感。

 「道化師の朝の歌」もスペインのリズムをぷんぷん漂わせて、弱音のニュアンスと強烈で熱狂的リズムの対比、中間部ののんびりとした優しさも絶妙。カスタネットが素敵ですよ。いやぁ、オーケストラが滅茶苦茶上手いね。まさにメルヘン!な「マ・メール・ロワ」はできればバレエ全曲録音をして欲しかったところだけれど、無い物ねだりしてもしかたがない(1973/4年パリ管との録音は全曲版)。オーボエの音色などお仏蘭西していない(確執あったレイ・スティルか?きっと違うでしょ)が、味付けの指示は入念を極めて存分にデリケートであります。サウンドには芯があって、雰囲気たっぷりなんだけど、雰囲気で聴かせている訳じゃない。個人的な嗜好では、この作品はベストと薦められない・・・ちょっと固さが残っている感じ。

 「序奏とアレグロ 変ト長調」は、通常の名曲集には収録されないものでマルティノンのこだわりか。幻想的な旋律が極上の世界だけれど、ハープ協奏曲というより、ハープを含んだ室内楽といった風情でしょう。後のパリ管との録音には含まれないから、これは貴重な存在。淡いため息のような素敵な対話が続きます。

 ラストは「ダフニス」第2組曲であって、精緻精密なアンサンブルが香りを失わないというマジック(ジョージ・セルではこうはいかない)アメリカのオーケストラは、仏蘭西系の(良い意味での)薄っぺらい華やかな音色が出ないんだろうが、きらきらと明るく輝かしいサウンドを誇ります。「強靱なメリハリのあるアンサンブルと迫力」「ニュアンスたっぷりの雰囲気と粋が同居」と同じ賛辞を繰り返しておきましょう。この曲のみ1964年シカゴ・オーケストラ・ホールでの録音だけれど、前作品群(1968年メディナ・テンプル)との比較に於いて、そう気になるような音質問題はありませんでした。

 さて、これからパリ管との再録音に進みましょう。

(2008年11月21日)

 1,000円!高い。でも、欲しかったんですよ、このCD。嗚呼、こんなことだったら昔、新星堂の1,000円シリーズで買っておけば良かった・・・・と後悔しつつ10年、ついに大阪で発見・・・ってなんどか見かけたんですけどね、どうしても値段がね、1,500円とかバカヤロウ状態。で、この度ワタシの元に無事お嫁に来ました。

 「ダフニス」が1964年、ほかがシカゴ時代最末期の1968年録音。記憶では他にもシカゴ響とはフランスものを録音していたはず。ぜひ、手に入れたいもの。

 ま、オーケストラの組織問題で散々揉めたらしくって、後任ショルティの評判が高かったし(何故?きっと人間性が良かったのかな。音楽はどこがよいのか、さっぱり)、名手レイ・スティルの馘首問題で裁判になっちゃったらしいし(でも、彼のBach って全然似合っていないと思う〜レヴァインの「結婚カンタータ」)マスコミには散々。ワタシ如き東洋の片隅で、更にメジャーな都市とは言い難い岡山辺りのマンションの一室で音楽聴いているぶんには、マルティノンさんを密かに応援しちゃう。

 ここんとこ、ブーレーズの1993〜95年くらいのライヴ(フランス音楽)を沢山たくさん聴いちゃいましてね、精緻でクールで透明かつ官能的な世界にドップリ。マルティノンは評判良くなくて、インターネットで検索したがあまり話題に出てこない。評価高いフランス国立管との録音(EMI)はワタシ、聴いていないんですが、このシカゴ響との録音は(予想通り)手応え充分でした。ブーレーズに負けてまへんで。

 マルティノンとシカゴ響、というのは異質な組み合わせが魅力的なんです。アンサンブルは優れているし、粋な感じもちゃんとある。機能的なオーケストラだけれど、それがフランス音楽でマイナスに働いていなくて、音楽に「芯」を作っているし、思わぬチカラ強さを醸し出していて、もう圧倒的な魅力。Ravel は上手いオーケストラで聴くに限る。

 ま、ここら辺りの音楽は好きだから、たいていの録音に感動しちゃうけど、「明快な演奏」を前提としたい。いえいえ、ホンワカ雰囲気重視演奏も悪くないですよ、でも、細部まで明快で精密な演奏であることは基本です。「骨太」じゃマズいかな?そこはご配慮いただいて、結果、ちゃんとした色気=残り香が感じられる、そんな風であっていただきたい。

 このCD、選曲が出色。一見、有名どころを集めたようで、「ボレロ」とか「パヴァーヌ」「ラ・ヴァルス」など客受けしそうなのが抜けています。「序奏とアレグロ」というのが意外と珍しい(しかも美しい)選曲。

 「夜への前奏曲」「マラゲーニャ」のけだるくも、ずいぶんと抑制された繊細な雰囲気で、彼らの静的な力量を存分に見せつけ、「ハバネラ」「祭り」+「道化師」のキレのあるリズムで動的な魅力を振りまきます。ま、これほど「美しい」シカゴ響はかつて聴いたことはない。弱音でも「弱く」ならない。金管の爆発力は流石です。

 「マ・メール・ロワ」の木管の官能は、アメリカのオーケストラとは俄に信じがたい。ま、存分にホンワカとした曲ではあるが、細部の仕上げは明快で曖昧さはないんです。ほんまに上手いオーケストラだけれど、それが安易さにつながらない丁重な仕上げ振り。

 「序奏とアレグロ」は録音は少ないんです。ま、Debussyの「聖なる舞曲と世俗の舞曲」も多いとは言えないから、けっこう演奏条件が大変なのかも知れない。こんなに懐かしくて、またハープがくっきり・ドキドキするほど美しい曲。この曲では、やや木管が雄弁過ぎか?(もうすこし遠慮してね)

   「ダフニス」は、少々録音の印象が違いました。(シカゴ・オーケストラ・ホール。やや音が遠い感じ。他はメディナ・テンプル)信じられないほど細かい旋律が絡み合う、魔法のような名曲だけれど、もう完璧のアンサンブル。「縦線が合っている」とか「上手い」なんて言う水準じゃありません。指揮棒の呼吸が目に浮かぶような、肌理細かいニュアンスの連続です。雄弁な歌。「全員の踊り」は、全力でリズムを刻むオーケストラの爆発に心奪われます。興奮します。(2002年6月21日)


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written by wabisuke hayashi