中山庸子 「夢実現のための情報整理術」

講談社+α新書 2000年発行

 2005年4月の朝日新聞記事から、ワタシの音楽日誌で引用しております。

「戦後60年の透視図」は「新書」のこと・・・日常自分が考えていたことがピタリと重なって驚くばかり〜曰く、「大衆教養主義と共に浮沈、若者の志から老人文化へ」。

岩波新書の(発行部数)ピークは1970年だった、とのこと。まさにワタシの子供〜青春時代のことで、その頃の岩波新書は「当然知っておかなくてはいけない教養」でした。例えば「韓国からの通信」「ナチスの時代」であり「萬葉秀歌」であり、それは数十年前に執筆されたものであっても、ごく最近出版されたものであっても「身につけておかなければならない」ものだったとの記憶があります。ところが、ここ最近のものは「ノウハウ本」であり「初版売り切り」=「雑誌化」となっていると。

 中山さんは、売れっ子イレストレーターであり、実力ある文章家(エッセイスト、という言葉は恥ずかしいから止めましょうよ)です。元美術教師であり、主婦であり母親でもある、魅力的な女性である(お会いしたことはないが)と思います。(この一冊から類推)ほんわかしたイラストはとても可愛い。

 なんで冒頭長々と余計なる引用したかというと、これは「ノウハウ本」ではない、ということです。この本はおそらく売れたと思われるし、それはおそらく現状もやもやと悩んでいる女性が、「ノウハウを得よう」としたのだろうと思います。実際、ノウハウ満載だし、学んだ人も多いと思うけど、主眼はそこじゃないですよ、これ。

 美術教師からイラストレーター、文筆業、講演活動へと転身していく自分史であり、明快なる主張であり、哲学であり、実践であります。しかも、若い女性に一番興味のある「ダンナとの出会い」「結婚」「出産」「仕事と子育ての両立」が(ほぼ)出てこないんです。(別な書籍になっているのかもね)

 もっと知的な興味(具体例が豊富で多彩)、教師時代の人間関係、社会人としての自立、生徒へわかりやすく伝えること、イラスト(=アニメでもよろしい)の素晴らしさ、可能性、のイラストレーターへの道のり、文章を書く難しさ〜ワープロを使っての熟達へ・・・魅力的な”人生の達人”との出会い、学ぶべきこと。(中山さんの文書は出色の分かり易さ!)

 イラストもとても素敵だし、手書き文字が(ご本人は劣等感がある、とおっしゃっているけど)暖かいその人となりを物語りました。ご自分でも書いていらっしゃいますが、後半になると”文書が早口になる”んですね。(微笑ましい)正直なところ、読み手である中年男性(=ワタシ)が気恥ずかしくなるような”華やいだ雰囲気”があって、やはり女性向けでしょうか。

 2000年と言えば、ちょうと常時接続のインターネットが登場しつつある頃で、ちょうどこの本には「ワープロ→パソコン」そして「インターネット初接続」の様子が出てくる・・・少々記事的には旧聞で、現役の新書ではないかも知れませんね。でも、コレ「ノウハウ本」であり「初版売り切り」=「雑誌化」と評されるべき一冊ではないと思います。充分鮮度を保っておりましたよ。

(2005年5月8日)


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