Mozart ヴァイオリン協奏曲第1〜5番+「ハフナー・セレナード」より
(パメラ・フランク(v)/ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団)


ARTE NOVA 74321 72104 2 Mozart

ヴァイオリン協奏曲第1〜5番
「ハフナー・セレナード」K.250より「アンダンテ」「メヌエット」「ロンド」

パメラ・フランク(v)/デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA 74321 72104 2 1997/99年録音 2枚組1,200円(相場より高く、義理ある店)で購入

 まず、収録について。ロンド(K.269とK.373)とアダージョ(K.261)が含まれないのは残念(いずれもお気に入りなので)だけれど、「ハフナー・セレナード」でソロ・ヴァイオリンが大活躍する楽章を配置したのが配慮でしょうか。カデンツァは、第5番がJoachim、残りはすべてジンマンによるもの。ジンマンはヘルマン・クレッバース(v)との第2番ニ長調K.211(1975年)でも、自作のカデンツァを使って録音していたから、以前からのこだわりなのでしょう。どれも、自在で即興的な味わい深い華やかさがあり、かなりの技術を要求されそうな旋律続きで、聴きもの。

 パメラ・フランクのヴァイオリンは軽快、クールに洗練され、旧来風粘着質的豊満表現を一掃したもの。正直、購入して数年間、「素っ気なさ過ぎて、表情が冷たくて、オモろくないか」みたいな印象があって敬遠(棚奥に仕舞い込んで・・・)していたけれど、やがてすっきり爽快、わずかなヴィヴラートも効果的な美音であることに確信を持ちました。あまりに正確なテクニックであり、”美しいサイボーグ”のようにも見え、もとよりワタシ完璧な美人は苦手だし(饅頭怖い!の世界か?)・・・そんな戯れ言さておき、どれも繊細かつ入念なる完成度を誇って、やがて圧倒されます。いかにも線が細い(音量が小さい?)が、これも個性でしょう。

 トーンハレ管は涼やかで、音の立ち上がりが軽快で、アンサンブルに集中力がある。20年前のオランダ室内管との比較では、オーケストラの力量問題にとどまらない、指揮者の表現成熟があるのでしょう。第1番 変ロ長調K.207の最終楽章「プレスト」の、一糸乱れぬ恐るべき快速のソロとオーケストラは、それだけで快感であり、驚愕でもあります。リズムにキレがあるのは全編に言えることです。そして”静かな”演奏でもある。

 ややHaydn的なテイストであり、あまり人気とは言えない第2番ニ長調K.211。ワタシはその素朴シンプルな旋律を愛しております。(20年程前、堀米ゆず子さんの演奏をテレビで見たのが刷り込み、というか作品との出会い。音楽の好みのキッカケなんて、そんなもんです)ややツン!と澄ましているような、清涼静謐な世界となっていて、この作品はもっと賑やかで表情にこやかであってもよろしいかも。第2楽章「アンダンテ」はジミジミとして、そっと囁くようにちょいと切なく、白眉。

 第3番ト長調K.216は有名な躍動作品ですね。ソロ冒頭の重音から、かなり骨太に演るのが主流なんだろうが、パメラ・フランクはずいぶんと素っ気なく、さらりと肌理細やかに描き込んでいきます。リズムあくまで軽妙であり、スピード感があってもたつかない。第1楽章〜例の如しの”暗転”があり、そして再び日が差すように明るい表情が戻ってくるが、微妙に(遠慮がちに)テンポが揺れます。エエですね。ふだん、クール・ビューティな女性がちょいとはにかんでいる風情か。(カデンツァは延々と続きます)

   素晴らしいテクニックに支えられた、快速楽章こそ効果的・・・に間違いないが、この人は緩徐楽章が切ないなぁ。この「アダージョ」も胸が痛むほど切実で、いつになくヴィヴラートも効果的。消え入るような高音の弱音もドキドキさせて下さいました。終楽章は、ジンマンが粗野なリズムを強調して、ソロは精気に満ちた表情たっぷり。途中、ガラリと雰囲気変わるでしょ?その変遷ぶりも鮮やか。

 先のヘンルマン・クレッバースとの1975年録音(PHILIPS 422 468-2)には第2番と並んで、第4番ニ長調K.218が収録されます。(カデンツァはJoachimだけれど)ここではジンマンの表現の深化(洗練・集中度)がはっきり聴き取れますね。ソロは第3番のノリを継続しているようであり、一見クールだけれどハズむような躍動であります。陰影を強調するのではなく、あくまで節度と抑制を旨として、響きを濁らせない。名曲ですね。楽しい旋律が続きます。(ここのカデンツァもずいぶんと雄弁!)

 毎度お馴染み緩徐楽章「アンダテ・カンタービレ」に(たっぷり)癒され、やがて、語りかけるように終楽章へ。一気にテンポ・アップして快いリズムの疾走続きます。でも、額に汗しない、佇まいを崩さない、髪型も乱れない、スタイルと姿勢の良いソロであります。

 さて、ラスト第5番イ長調K.219までやって参りました。ジンマンのオーケストラがエエですね。引き締まって、細部まで配慮の行き届いた、柔らかい(小編成)アンサンブル。

 ワタシは(多くのMozart 作品に感じることだけれど)このヴァイオリンに”声楽”を連想するんです。ちょうど、エマ・カークビーのような(あくまでイメージ。パメラ・フランクにはほのかなヴィヴラートがあるけれど)連想をして、軽快清涼なリズム感が快い。高音の抜き方は、まるでファルセット・ヴォイスを軽く響かせるような味わいなんです。表情が冷たいんじゃなくて、美人だからそう見えるんだろうな、きっと。第1楽章はウキウキしてますよ、ちゃんと。

 そっと詠嘆の溜息のような緩徐楽章(やっぱり、人の声に聞こえる)終えて、期待の「トルコ風」最終楽章へ。羽のようにふんわりとソロがそっと歌って、やがてテンポ一変〜快速のトルコ行進曲へ。(オーケストラのホルンが効果的)リズムのキレはあるけれど、抑制が主体であり、元の牧歌的な旋律が回帰するとほっとしたものです。

 オイストラフはもちろん、グリュミオーからも、ずいぶん遠くまで来ちゃったなぁ、そんな印象ありますね。ちょっと好き嫌いの別れる個性かも知れないが、ワタシは長く楽しむに値する存在と感じました。「ハフナー・セレナード」はアンコールと考えましょう。どれも目眩くスピード感に溢れるが、ワタシは原曲を全部聴きたい。

(2006年6月16日)

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written by wabisuke hayashi