Mozart ピアノ・ソナタ第8/10/12/13番(グレン・グールド(p))Mozart
ピアノ・ソナタ グレン・グールド(p) SONY CLASSICAL 88697130942-40 80枚組28,340円にて購入 第10番ハ長調K.330は1958年とは別の再録音。グレン・グールドの80枚組ボックスを”おとな買い”したのは2009年初頭だけれど、かなりの比率で再購入となっていて、Mozart ピアノ・ソナタ全集もその例外ではありません。久々の再聴で、尋常ならざる衝撃を受けました、というか、鮮烈に再確認いたしました。ダイニングにて朝食時に音楽を聴くんだけれど、この一枚をスタートさせたら、あれ?ミニコンポ故障したかな。回転が異常かも、と(一瞬)思いつつ初体験の想い出がじょじょに蘇ってまいりました。 驚くべき超・快速。急いて前のめりのリズム。旋律の崩壊。世間には”爆演派”の方々はけっこう多くて、嗜好は人それぞれだからよろしいけれど、ワタシは基本、異形なるデフォルメ表現を嫌います。穏健派なんですよ。上質な出汁(だし)は、薄味でこそ引き立つんです。素材の鮮度を生かす料理であって欲しい。たまの激辛カレーも悪くないが、日常食ではない。だから、このグレン・グールドの”超・快速/俄に作品の元の姿を思い出せない”風演奏を、物珍しさで賞賛しているんじゃないんです。この演奏を尋常ならざる異常なテンポ設定、だけで聴いちゃうと、それは意味が異なる。 イ短調K.310はぎょっとするテンポで開始され、あれ?これが哀しみのMozart だっけ、CD間違ったっけ?と感じるほどの、ほとんどヤケクソ的切迫感。これは甘美な旋律を浪漫表現から遠ざけて、古典的Haydnへ戻していると聴きましょう。それにしても刺激的だ。第2楽章「アンダンテ」は常識的なテンポとなるが、微妙なタメやらリズムのノリがあって、この大きな呼吸は安寧の快感であります。ワタシがグールドのMozart を”ヴェリ・ベスト”と評価する点はここなんです。細部、明快なる描き込み、どんな快速テンポでも表現が粗くならない。終楽章「プレスト」迄到着すると、テンポ設定の必然性に納得できるはず。非情なまでのインテンポだけれど、流麗優雅なる世界を感じます。 第10番ハ長調K.330もテンポ速く開始させるが、愉悦に充ちて〜もう、嬉しくって走り出しちゃう感じ。第2楽章「アンダンテ」の弾むような歌の幸せなこと!終楽章のリズム感の良さも特筆べき個性でしょう。わざとおもちゃみたいに弾いている印象有。第12番ヘ長調K.332は素敵な3/4拍子が優雅に歌う旋律であり、グールドも(例の如し)一緒に歌っております。スタッカート気味に微妙に揺れながら、旋律は深い陰影を刻みました。まるでオルゴールの子守歌のような第2楽章「アダージョ」、ちょっぴり哀しみの影も差します。終楽章は破顔一笑!幸せ一杯の軽快なる快速疾走。なんという名曲中の名曲。 第13番変ロ長調K.333も、原曲を俄に思い出せないほど快速に加速が掛かっております。”Mozart は誰にでも弾けるが、誰にも弾けない”という言葉があったように記憶するが、演奏者の技量がモロ、誤魔化しなく表出するということでしょう。こんな滅茶苦茶なテンポ設定だと、音楽の造形が崩れると思うんだけれど・・・ほとんど別種の音楽として完成された表現に。流麗繊細なるタッチ、歌(グールドも一緒に)、息もつかせぬ集中力。第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」の安寧の表情が対比され、際立ちます。表情は常にヴィヴィッド。 終楽章、ほとんどご近所のお嬢さんのピアノの練習に聞こえます。ほんまは細部の磨き上げが凄いんですけどね。浪漫の残滓を一掃した、凄い、素晴らしき別世界を堪能・・・と、油断していたらラスト、思いっきりテンポを落として雄弁に歌って下さいました。ニクい演出也。 (2010年2月19日)
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