Mozart レクイエム ニ短調K.626(Maunder版/
クリストファー・ホグウッド/アカデミー・オブ・エインシェント・ミュージック)


** Mozart

レクイエム ニ短調K.626(Maunder版)

クリストファー・ホグウッド/アカデミー・オブ・エインシェント・ミュージック/合唱団/ウェストミンスター大聖堂少年聖歌隊/エマ・カークビー(s)/キャロライン・ワトキンソン(con)/アントニー・ロルフ・ジョンソン(t)/デイヴィッド・トーマス(b)

L'oiseau-lyre 411 712-2 1983年録音

 昨年2014年は昔馴染みの名指揮者が多く亡くなって、クリストファー・ホグウッド(Christopher Jarvis Haley Hogwood, 1941-2014)は残念、もうちょっと長生きしていただきたかったもの。自分が若いころには高嶺の花だった L'oiseau-lyreレーベルも価格がこなれて、こうして気軽に聴けるようになりました。リチャード・モンダー(C.R.F.Maunder)による校訂詳細は、専門の方の詳細分析に委ね、こちらド・シロウトは屁理屈抜きで音楽にしっかり集中いたしましょう。愛するヴォルフガング最期の作品はこどもの頃にカール・リヒター(1960年)にて出会って以来のお気に入り(なんせレコードが1,000円当時激安!峻厳な演奏であった記憶有)、ここ最近のリファレンスはペーター・ノイマンかな?(ケルン室内合唱団/コレギウム・カルトゥジアヌム/1990年/声楽の充実が素晴らしい)

 オイゲン・ヨッフムによるシュテファン大聖堂でのモーツァルト追悼ミサ1955年ライヴは別格でしょう。不信心な聴き手(=ワシ)さえ、思わず襟を糺すべきミサの式典が収録されます。主役は美声の大聖堂助任司祭ペナル卿也。閑話休題(それはさておき)

 限られた楽器編成( バセットホルン2、ファゴット2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部、オルガン)から神秘的なサウンドを作り出す天才のワザ、その集大成。冒頭レクイエム・エテルナム(永遠の安息を)を初めて聴いた瞬間から、その敬虔なる哀しみに打ちのめされた記憶も鮮明です。イメージよりずっと”薄い”響きのオーケストラと合唱、例の如し詳細クレジットなど事前に確認せず拝聴開始、あれ?ソプラノ・ソロはボーイ・ソプラノだっけ。ずいぶんと上手い〜って、これエマ・カークビー(s)じゃん。まさに清廉透明な天使の声。少年合唱前面(おそらく女声パートを担当)のサウンドによう似合います。キリエ(憐れみの賛歌)は(ド・シロウトにも理解可能な)二重フーガ〜その劇的効果は清潔なサウンドに支えられて早くも感極まる・・・

   ・・・ところがディエス・イレー(怒りの日)は高揚した気分のまま、更にテンポと緊張感を高めて疾走します。合唱の精緻精密なこと!トゥーバ・ミルム(奇しきラッパの響き)のトローンボーンは雄弁、野太い存在感(古楽器故のサウンドか)、デイヴィッド・トーマス(b)はやや無頼、アントニー・ロルフ・ジョンソン(t)は端正生真面目な緊張感、キャロライン・ワトキンソン(con)はしっとり情感に充ち、そして(やはり少年にしか聴こえぬ)”天使の声”エマ・カークビー、彼女だけ唱法が異なって浮き立ちます。ノン・ヴィヴラートなんです。わずか4分弱、ここが一番好き。

 レックス・トレメンデ(恐るべき御稜威の王)〜「グラーヴェ(grave)」(重々しく、荘重に)指定は弟子のSusmayr指定だそうで、当然往年の巨匠たちは「重々しく、荘重に」演奏しておりました。ここはさっぱりと軽快なテイスト(旋律サウンドは緊張感たっぷりだけど)。レコルダーレ(思い出したまえ)も同様の風情継続、ここでもエマ・カークビーの清涼な存在感抜群です。美しい天国への旋律、たっぷり続きました。コンフターティス(呪われ退けられし者達が)って映画「アマデウス」にて、Salieriが死の床にあるMozart から口述筆記する場面ですよね(当然フィクション)。緊張感漲(みなぎ)る低弦リズムが凄いところ。ここも聴き馴染んだ風情からずいぶんと軽いもの。

 さて絶筆のラクリモーサ(涙の日)へ。いや、ほんま泣ける旋律、繊細清潔な合唱による”涙”〜この録音ではほんまに絶筆となって、アーメン・フーガ(1961年スケッチ発見)が挿入され、ここがMaunder版の白眉なんでしょう。慣れのせいもあるけど、弟子が頑張って完成させた元の版のほうが素敵に感じます。オッフェルトリウム(奉献文)〜第9曲 ドミネ・イエス(主イエス)/オスティアス(賛美の生け贄)は師匠のスケッチが残されたそうで、そのまま採用されております。但し、初めて聴いた大昔から違和感(Mozart らしくない)は拭えません。声楽の切迫したやりとり(主役はやはりカークビー!)は名曲に間違いないけど。

 サンクトゥス(聖なるかな)/ベネディクトゥス(祝福された者)は全カット、アニュス・デイ(神の小羊)は弟子作だけど温存(改訂有とのこと)、これはレクイエムとしても全体バランスを考慮したのでしょうか。ラストルックス・エテルナ(永遠の光)は冒頭の繰り返し+アルファを弟子筋が補筆完成さたものこのこと。名曲続きのMozart の締めくくりとして相応しいものでしょう。

 声楽は充実し、4人のソロは各々個性方向性は異なっても、その完成度に文句はありません。古楽器アンサンブルは控えめ、あくまで声楽を引き立てるために存在しておりました。

(2015年5月30日)


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written by wabisuke hayashi