Mahler 交響曲第10番嬰ヘ長調 (ウィン・モリス/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)
Mahler
交響曲第10番嬰ヘ長調(クック版第3稿第1版)
ウィン・モリス/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
LPよりDATへ録音(レーベル名失念。PHILIPSだったかな?でも原盤がわからない) 1973年録音
LP時代に、モリスのMahler は第2番(シンフォニカ・オブ・ロンドン)と、この第10番を所有しておりました。モリスはかつて「Mahler のスペシャリスト」と呼ばれたこともあって、第9番はたしかCD化されていた記憶もあるし、初稿の第1番、「嘆きの歌」の録音もあったはず。今思えば、第2番もDATに残しておけば良かったと後悔。(マイナー・レーベルの録音が多くて、CD化が望み薄)
LPのレーベル名も価格の記憶もないけれど、ワタシの性癖から類推して、絶対に2枚で2,000円に届かないはず。モリスはBeethoven の交響曲全集(第10番?含む)で、知っている方も多いと思います。(ワタシ未聴ながら、立派な演奏らしい)ウワサでは、既に引退したとのこと。
第10番のD.クック完成版も、だいぶ知名度が上がってきました。廉価盤ではザンデルリンク/ベルリン響(ドイツシャルプラッテン TKCC-15108)辺りがお勧めで、この曲普及に功績がありました。「アダージョのみこそ真のMahler 作品だ」みたいな、カタイこと言わず全部楽しみましょう。ワタシも好きな作品。80数分に及ぶ大作。多彩で美しい旋律がちりばめられた名曲。
この曲、ゆったりとした長大なアダージョで始まり、→スケルツォ→短い「煉獄」→第2スケルツォ→ゆったりとした長大なフィナーレ、という「シリメントリー構造」になっています。(それがどうした、といわれるとツライが。楽曲解説は柴田南雄先生の「グスタフ・マーラー」を参照のこと。これ以上ない詳細なもの)
第1楽章、なんともダルなヴィオラで始まります。演奏はいまひとつノリきれていないようであり、流れも弦の磨き上げ〜切々たる節回し〜もいまひとつ。これは、この楽章のみ、たくさん様々な録音を聴いていたせいでしょう。(評価が厳しくなる)でも、Mahler に不可欠な、怪しげな深淵は感じさせて、淡々としているが安っぽい演奏ではない。終わり頃の不協和音は、20世紀現代音楽の足音が聞こえてくる。
第2楽章以降は絶好調です。ニュー・フィルハーモニア管は、クレンペラーでMahler 演奏には鍛えられていたのでしょうか。明快で細部までていねいな彫琢。緻密で知的。じっくりとしたテンポ、スケールも存分に大きい。あわてず、騒がずの貫禄充分。バランスよく、どの楽器も過不足なく鳴っています。
もともと「諧謔曲」であったスケルツォも、Bruckner辺りではすっかり意味合いが違ってしまいました。「諧謔」ではなくて「パワーの爆裂」。ここでのMahler のスケルツォは、ある意味元々の「諧謔曲」に戻ってはいるが、馬鹿馬鹿しく巨大であり、シニカルでさえあります。素朴で明るい舞曲を大編成のオーケストラに乗せて、気持ちよく鳴らせています。オーケストラは明快で、アンサンブル充実。ホルンをはじめとする金管の上手さ。
「煉獄」(プルガトリオ、「地獄」=インフェルノ、とも呼ぶ)は4・5分の短い、不思議な楽章。木管のフワフワした絡み合いから、一気に金管が爆発します。弦の深遠な旋律も見え隠れして、いかにもMahler らしい魅力ある楽章。
第2スケルツォ「悪魔がわたしと一緒に踊る」。「大地の歌」第1楽章とそっくりで、ま、どこが「スケルツォ?」というくらい、堂々として切々と劇的な楽章。Mahler 特有の耽美的な旋律(優雅なレントラー)と、破壊的な爆発がバランスよく、余裕を持って表現されます。呼吸が深い。オーケストラは重くなりすぎない、明快な響きが魅力。こんな美しいフィルハーモニアは久々に聴いた気分。(やはりEMIのコシのない録音が問題なのでしょうか)
第4楽章ラスト、そして第5楽章には延々と「ズドン」と乾いた大太鼓の音が続きます。これは、Mahler がニューヨークで見た「殉死した消防士の葬列」だそう。そうとうに不気味で、第6交響曲のハンマーやコントラバスのピツィカートに負けないくらいドキリとさせられます。
第9交響曲や「大地の歌」のラストは、いかにも人生の最後を意識させるようで、名曲ながら、やや決まりすぎ。第10交響曲のラストは、くぐもった低音主体の金管が、いかにも作曲家自身の葬列のように聞こえます。人生を振り返るようなフルートの主題(例の低音のハープに乗って)、それが弦に引き継がれ、慰安の気分が広がります。それを中断するように入る大太鼓、不安げなトランペット、ホルン、チューバの絶叫。(ホルンが上手い!誰だろう?)最終版の弦の絡み合いは、圧倒的な美しさ。フィルハーモニア管のクセのない、透明な響きがもっとも生かされた楽章でしょう。
こういう完成度の高い演奏も眠ったままになっていて、CD化されません。原盤もわかりません。(「復活」はシンフォニカ・レーベルだった)音の状態は、作り物でない自然さがあってワタシ好み。アナログの味わいが生きていて、どこにも刺激的な響きはありません。
MDは2枚になりましたので、余白に収録したのが
Bach 〜Mahler 編 管弦楽組曲より序曲 大野和士/NHK交響楽団(1995年7月29日サントリー・ホール・ライヴ)
交響曲第10番「アダージョ」 ベルティーニ/ケルン放響(1991年11月16日サントリー・ホール・ライヴ)
を収録。「アダージョ」のみとしては、この演奏の完成度はモリスより高いと思います。
比較対象盤
ウィッグルスワース/BBCナショナル・ウェールズ管弦楽団(BBC MUSIC BBC MM124 1993年録音 $1.99)
イギリス期待の若手によるライヴ。世代的に、クック版も違和感はないようです。オーケストラの音色はやや地味ながら、すっきりとして若手らしい爽やかな演奏。(2000年10月6日更新)
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