Mendelssohn 劇音楽「真夏の夜の夢」/
交響曲第4番イ長調「イタリア」
(オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団)


TOCE-59025 Mendelssohn

劇音楽「真夏の夜の夢」(10曲)
序曲/スケルツォ/妖精たちの行進/妖精の歌/間奏曲/夜想曲/結婚行進曲/葬送行進曲/無骨者の舞/終曲

交響曲第4番イ長調 作品80「イタリア」

オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団/合唱団/ヘザー・ハーパー(s)/ジャネット・ベーカー(ms)

EMI 1960年録音(写真はTOCE-59025)

 前回恥ずかしい駅売海賊盤へのコメントから更に7年経過。CDも大部分断舎離して、怪しげCDもどうやって処分したのか記憶もありません。かつてMendelssohn(というか浪漫派一般)を苦手として、ここ数年宗旨変え、嗜好も変化しております。著名な交響曲も、このデリケートな劇音楽もすっかりお気に入り、最近、Documents 290762 DG録音フェレンツ・フリッチャイの硬派な演奏(1950年)が残念イマイチな印象であったことに関連して、懐かしいOtto Klemperer(1885ー1973独逸)を思い出しました。音質はかなり良好。劇音楽「真夏の夜の夢」収録は駅売海賊盤が序曲/スケルツォ/夜想曲/間奏曲/結婚行進曲5曲のみだったのに、10曲に増えました。

 耳元でそっと囁くような「序曲」が始まったらもう夢心地。重心が低く、着実な足取りでもオーケストラの清廉な響きが快いもの、木管の美しさ明晰さ味わいは屈指のもの。(13:01)それは「スケルツォ」の落ち着いて噛みしめるようなロマンティックな表現も変わらない。フルートを先頭に太い音色は魅惑。ガレス・モリスでしょうか。(5:35)「妖精たちの行進」の軽快な音楽も味が濃く、そしてデリケートでした。(1:21)

 「妖精の歌」に女声二人の掛け合い登場、そのしっとり気品ある声、存在感に心奪われます。伴奏に回る木管の美しさは際立ちます。(4:48)不安げな「間奏曲」はたっぷり憂愁、そして濃厚に不安であります。ここも木管大活躍。(4:03)「夜想曲」はホルンの力量が物を言う静謐深遠な場面、この深々とした音色はアラン・シヴィルかな?さわさわとした弦、木管への受け渡しもたっぷり浪漫を感じさせて最高。(7:10)

 一番有名な「結婚行進曲」はトランペットも賑々しく華やか、各種金管の音色の多彩さ、晴れやかな風情を堪能できます。(5:06)怪しくも暗い「葬送行進曲」はほんの短いクラリネットの歌(1:06)、「無骨者の舞」も短い序曲の再現(1:55)「終曲」も同様に+声楽が加わって劇の大団円を迎えます。しみじみ振り返るような名残惜しさも堪らぬ魅力。(5:03)新しい録音、技術的に優れた演奏もたくさんあるけれど、これは味の濃さ、浪漫風情が際立つ名演奏でしょう。

 交響曲第4番イ長調 作品80「イタリア」なんて、どこが良いの?なんて作品との出会いはジョージ・ショルティ/イスラエル・フィル(1958年)だっけ、やたらと力んでテンション高い演奏だったような?こちら御大75歳老巨匠の演奏は慌てず、騒がず、たっぷりと力感と躍動がバランスした横綱演奏でしょう。第1楽章「Allegro vivace」から明るく清潔なオーケストラのサウンドが際立ちます。印象は「真夏の夜の夢」と寸分違わぬ浪漫香ってスケールも大きい。(8:24)第2楽章「Andante con moto」の鬱蒼とした風情もウェットになり過ぎない緩徐楽章(ですか?)。弦の主旋律に絡む木管の美しさは相変わらずでしょう。(6:24)

 第3楽章「Con moto moderato」は優雅なメヌエット風。柔らかい弦の歌はクレンペラーの余裕でしょう。それを受けて応える木管、ホルンの深みは期待通り。(6:23)リズムが面白い終楽章「Saltarello: Presto」の躍動、疾走、ここはアンサンブルの力量が問われるところ。弦、木管とも細かい音形と厳しいリズムも刻んで、緊張感たっぷりな締めくくりでしょう。(6:12)

(2020年10月31日)

PIGEON DISC GX-230 PIGEON DISC GX-230 1960年録音(EMI) 中古250円

 以前のコメントから10年経過、光陰矢の如し。久々、聴き直し、読み直しても印象に変化なし。変わったのは聴き手、2度転勤転居して、草臥れてきたことのみ。駅売海賊盤は処分しようにもなかなか難しい状況に至り(これはケースの爪が欠けているし)、音源そのものはパブリック・ドメインに至ってネットより入手可能となりました。もとよりBOOK・OFF@250入手のCD、たっぷり堪能して元はとったとするべきでしょう。LP時代廉価盤音源として登場しなかった、という理由からかクレンペラーとはずっと疎遠でしたね。やがて21世紀CD価格暴落とともに彼と出会って、どれも立派な演奏に驚くばかり。相変わらずMendelssohn開眼!状態には至っていなくて、10年前言及バイエルン放送交響楽団との「スコットランド」(1969年ライヴ)のこともすっかり失念しておりました。(幸い棚中CD残存)

 音質良好(駅売海賊盤でも)。明るく清涼清潔なザ・フィルハーモニアは、クレンペラーとの相性よろしく、重量感と厚み、スケール、やや粘性とコクを加え、聴き応えたっぷりサウンドであります。「真夏の夜の夢」は(珍しく)お気に入りであって、クーベリック、ジョージ・セル(2種)、ギュンター・ヘルビッヒ、アンドレ・プレヴィン、フリッチャイとか、どれも大好き・・・しばらく聴いていないけど。刷り込みはLP時代、ピエール・デルヴォー/ハンブルク州立フィルだっけ(既に記憶の彼方)

 そっと耳元に囁くように開始される「序曲」〜やがて抑えきれぬ歓喜弾けて、夢見るような憧憬に至ります。響きは華やか、重すぎず、急ぎすぎず、歩みは着実であります。スケルツォのテンポは遅め、細部明晰に描き込んで雄弁、堂々たる足取りはいかにも巨匠然とした響き。(5:29/他の演奏より一割ほど長い)夜想曲のホルンは絶品(思わず聴き惚れます)、ここの深遠さもクレンペラーの面目躍如でしょう。表情豊か、不安げ、かつ牧歌的な間奏曲を経、誰でも知っている歌っている「結婚行進曲」へ。

 賑々しくも立派な「結婚行進曲」は、意外と渋いサウンドにて朗々と落ち着いた雰囲気は説得力充分。Chopin の葬送行進曲(ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調第2楽章)、Wagnerの「真心込めて先導いたします」とか定番作品は大好きですよ。

 いつまでも苦手意識が抜けぬMendelssohnの交響曲〜いろいろCD処分して、カラヤンを標準として棚中残したのに(お恥ずかしい限り)一度も聴いておりません。クレンペラーの「イタリア」始まりました。第1楽章「アレグロ・ヴィヴァーチェ」は湧き上がるような愉悦を感じつつ、足取りはしっかりと急がず、細部忽(ゆるが)せにせぬ落ち着きを感じさせます。テンポも気持ち遅め。第2楽章「アンダンテ」は暗鬱、しかし意外と淡々として大仰なる表情付けに非ず。

 第3楽章「コン・モート・モデラート」は悠々として余裕があり、オーケストラの淡彩な美しさが際立ちます。終楽章「プレスト」もリズムをしっかり刻んで、ノリを失わない(「真夏の夜」に於ける「スケルツォ」同様の印象)、そして急がない。こぶりな交響曲、みたいな印象はかなり変化して立派な風情漂いました。なんとかMendelssohn 苦手意識払拭しなくては。

(2013年8月30日)

 Mendelssohnは苦手、なんて常々公言しているけど「真夏の夜の夢」は好きだなぁ。有名なるヴァイオリン協奏曲も好きだし、無言歌も珠玉のような旋律が胸に染みます。ようはするに交響曲が苦手というだけのこと〜これも、最近、御大クレンペラー/バイエルン放響「スコットランド」の激暗壮大演奏ですっかり見直したところ。

 いい加減、海賊盤中古なんて、また叱られるかも知れないけど、これ音も悪くないし、なんていっても250円ですから。ヘルビッヒ盤でのシュターツカペレ・ベルリンは深い、ふか〜い響きに魅了されたが、クレンペラーもなんとも言えぬ貫禄に充ちた表現で一歩も譲りません。

 フィルハーモニア管は、明るくて歯切れが良くて、軽快なる響きが魅力です。これがクレンペラーの芯のある、やや重量感のあるほの暗さと微妙にマッチしして素晴らしい。リズムはしっかりとして、やや重めか。呼吸が深い。先のドレスデンのような痺れるような深みはないけれど、これはこれであちこち名人芸が・・・・例えば「夜想曲」におけるホルンの軽快な音色、「スケルツォ」のフルートの歌心。弦のスッキリとした響きも悪くない。

 繊細なる「序曲」〜「スケルツォ」〜幻想的で夢見るように美しい旋律の連続だけれど、走りたくなる雰囲気あるでしょ。クレンペラーはしっかり噛みしめるように、一つひとつの音を大切に紡ぎます。けっして流さない。でも、流れを損なうこともなくて、独特の「揺れ」「節回し」(物理的な変化とは捉えにくいが)が感じられて、なんやら深い感じ。(代表例「間奏曲」)

 ワタシ「結婚行進曲」大好きです。Wagnerの「心を込めて先導いたします」と双璧の寿名曲。めでたくて幸せで、胸に込み上げる喜びが溢れます。ここでもなんやら一歩引いたような、若干の重い表現が滋味深い。トランペットも弦も、ホルンも抜群に上手い。これ、劇中では「幻の結婚式」なんでしょう?この曲が日本中の結婚式で使われているのも、じつは深遠なる意味合いがあるのか?


 「イタリア」交響曲を苦手とするのは、おそらくなんらかの先入観があるからでしょうか?出会いは・・・・そう、ショルティ盤でしたね。オーケストラは失念した(イスラエル・フィル?)が旧録音。やたらとテンション高く、速いテンポでキンキンやっていた記憶有。爾来、この作品を聴く度その印象が・・・・どうも好きじゃない。名曲を名曲として楽しめないのは悩ましいものです。

 で、これまた有名なるクレンペラーさんの録音を初めて聴きました。これ、ややテンポゆるり目、というか、しっかり腰を割った表現で、コクもタメもある。堂々たるスケールの「イタリア」なんです。フィルハーニア管の明るく、歯切れの良い響きは、まさに「イタリア」向きでしょ。でもね、クレンペラーは、そうそう意味もなく走らない。

 遅い、とか、重すぎ、鈍重〜みたいな印象はありません。馬力とトルクのある高級車が余裕の走行しているみたい。急いた印象はないが、第1楽章で、じょじょにスピードを上げていく迫力には、感慨を深くして拝聴するしかない。

 第2楽章のなんとなしの暗さ、第3楽章のしっとりと落ち着いた、優雅な表情。終楽章「サルタレルロ」は明快なる(というか、なんというか)アクセントで表現されます。このしっかりとした足取りは、従来のMendelssohnの印象をかなり変えます〜というか、クレンペラーの演奏は昔から評価高いし、これが王道なのかな?(2003年4月18日)  


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written by wabisuke hayashi