Mendelssohn 劇音楽「真夏の夜の夢」(9曲)
(ギュンター・ヘルビッヒ/シュターツカペレ・ベルリン)


Mendelssohn

劇音楽「真夏の夜の夢」作品21,61

ギュンター・ヘルビッヒ/シュターツカペレ・ベルリン/女声合唱団/マグダレーナ・ファレヴィッツ(s)/インゲボルグ・スプリンガー(ms)(1976-7年)

演奏会用序曲「美しきメルジーネの物語」作品32
演奏会用序曲「静かな海と幸福な航海」作品27

クルト・マズア/ゲヴァントハウス管弦楽団(1974年)

Berlin Classics  0093122BC 990円にて購入

 17年ぶりの更新、幾度か断続的に聴いていた音源でした。「真夏の夜の夢」はお気に入り中のお気に入り作品、ここでは序曲-(1)スケルツォ-(2)妖精たちの行進曲-(3)妖精の歌-(5)間奏曲-(7)夜想曲-(9)結婚行進曲-(11)無骨者の舞踏-終曲計9曲収録。タワーレコード990円の値札が残って、CD収集始めた初期1990年台入手でしょう。後にBOOK・OFF@250出現して悔しい思いをした記憶も鮮明、永く快く音楽を堪能すれば価格の多寡は問題ではないでしょう。

 こんな書き出しになったのは、2019年3月長寿を全うして親父が亡くなり、シミジミ人生について考えてしまったから。1990年前後より熱心に集めたCDは10年ほど掛けて在庫1/5ほどに圧縮、データ拝聴機会も充実してきたことだし、もうこの際全部一切合切整理するか、そんな思いに至って昔懐かしいCD在庫を順繰り確認している一環です。断捨離の準備ですね。

 それとクルト・マズア(Kurt Masur, 1927ー2015独逸)についてずいぶんと失礼なことを書いたな、と。当時はゲヴァントハウス管弦楽団への評価も勝手に低く見積もって、現在ではすっかり宗旨変えをしております。

 Gunther Herbig(1931-捷克→独逸)は未だご存命なのか。ベルリン交響楽団(現コンツェルトハウス管弦楽団)ドレスデン・フィルの芸術監督を務めた後に1980年代西側に脱出、デトロイト交響楽団トロント交響楽団ザールブリュッケン放送交響楽団の音楽監督を歴任・・・って、日本じゃぜんぜん人気も知名度もなかったんじゃないの?Brahmsの交響曲4曲(ベルリン交響楽団/ほとんど知られていない)はなかなか聴き応えがありましたよ、最近聴いていないけれど。

 序曲 ホ長調 作品21はわずか17歳の作品、天才でっせ。真夏の寝苦しい夜、夢うつつに妖精がそっと囁いて・・・やがて目眩くおとぎの世界へ華やかに旅立つ・・・そんなイメージにピッタリ!シュターツカペレ・ベルリンはここ最近、バレンボイム辺りで聴くと「あんまり上手くないオーケストラやなぁ」なんて、勝手にそんなことを感じるけれど、オトマール・スイトナー時代(在任1964-1990)は質実木目の暖かいサウンドがステキでした。フルートの呼び掛け、弦の静かな細かいパッセージ・・・そして破顔一笑に弾(はじ)ける躍動!金管あくまで柔らかく、アナログ録音末期+しっとり豊かな残響に聴き惚れる出足であります。気分はウキウキ、エエ音やなぁ、このオーケストラ。(11:53)

 スケルツォに於ける不安げな風情の変化、リズムのおもしろさ、木管が絡みあう妙。(4:31)ほんの短い妖精たちの行進曲も似たような、もうちょっと切迫した風情にさわさわとしたオーケストラのデリケートな響き最高。(1:14) 妖精の歌の言語意味は理解不能だけど、女声によるデリケートに妖しい風情はたっぷり堪能できますよ。インゲボルグ・スプリンガー(ms)ですか?(3:27)間奏曲は糸車が回るような流れに、ちょっぴり遣る瀬ない気持ちが漂います。(5:50)

 夜想曲のキモは幻想的なホルン重奏でっせ。この辺りWeber-Beethoven以来の独逸の伝統を痛感させますよ。ジミ臭いというか質実剛健というか、これが求めていた独逸の音色。落ち着いた弦の味わい。(6:16)そして誰でも知っている結婚行進曲ここはトランペットの華やかな出足から、美しい旋律が喜びいっぱいに溢れます。ここは金管の腕の見せ所でしょう。バランスサウンドに文句なし。永遠の名曲也。(5:02)

 無骨者の舞踏は序曲の主旋律と同じなんですよね。盛り上がった結婚行進曲からのクールダウンかな?(1:35)そして景(メロドラマ)と終曲。ここに再び女声陣登場。馴染みの旋律に陰が射して、ゆったり静謐さに戻っていくような風情であります。(4:20)

 演奏会用序曲は以前失礼なコメントをしたクルト・マズア/ゲヴァントハウス担当。こうして久々に拝聴すると「美しきメルジーネの物語」も「静かな海と幸福な航海」も夢見るように美しい旋律、溌剌躍動する音楽。オーケストラの個性は違って、もうちょっとかっちりと芯のあるようなサウンドなんですね。リズム感が不自然で、いわば「ガチャガチャ」状態なんて、どうしてそんなふうに聴いたんでしょうか、当時の自分。以前は苦手としていた浪漫派の音楽も、心安らかに聴けるようになったのも華麗なる加齢の成果か。

(20019年4月7日)

 「浪漫派は苦手」なんて、自分で勝手に垣根を作っちゃいけない、と自省しております。Mendelssohnに対する苦手意識は「イタリア」「スコットランド」辺りの印象から来ていて、有名なるヴァイオリン協奏曲ホ短調だって、この「真夏の夜の夢」序曲だって、むかしから大好き。あまり有名でない室内楽なんかも悪くない。

 で、中毒のようにCDを探して、安かったら購入したい毎日でしょ?ちょっと地元のタワーレコードに寄ったら「半額処分」でこのCDがありました。ヘルビッヒはBrahms がとてもよくて、注目しておりました。どうしてこんなに話題にならないのか、不思議。ジミだからなぁ、演奏も存在も。

 このCD、今更ワタシが言うまでもないが、オーケストラの滋味深い響きを堪能すべきものです。序曲〜そっと耳元で囁くように、木管の溜息と弦のトレモロが「あのね・・・」とお伽噺を語り始めます。その微弱音から奥が抜けるんです。もう夢見心地。オーケストラが爆発すると、一気に幻想の世界に突入します。その奥床しくも、柔らかい味わいの深さ。

 「これほど美しいオーケストラって、ここ最近経験しないなぁ。ベルリン・フィルなんかの超豪華激甘濃厚蜂蜜方面とは、世界が違うんです。田舎風非洗練野暮サウンド、と呼ぶほどではないが、これは『ローカル』でしょ」〜コレ、ヘルビッヒのBrahms を聴いたときのワタシの率直なる感想です。オーケストラはベルリン響(旧東)。「これほど美しいオーケストラって・・・」〜この思いはここでも変わりませんね。嗚呼、ワタシもますます地味渋系好みが深化してきているのか。

 でも、シュターツカペレ・ベルリンの音色って、もっと漆黒に底光りする高貴な特徴があって、ベルリン響より贅沢でしょう。でも、とにかく地味であることに変わりはない。木管の深く輝く響きには、目眩を覚えるほどの感動が存在します。アンサンブルは精密。特別なる変化ワザなどどこにも見られないが、必要にして充分なる(抑えに抑えた)歌を感じさせます。ザワザワと胸のなかで騒ぐ、怪しい魅力がある。

 そのあと「スケルツォ」でしょ。これほど艶やかな木管は聴いたことがない。リズムがしっとりと瑞々しく弾んでいて、弦の暗く奥行きのある表現(重心低い、しかも重すぎない)が、極上のビロードのような肌触りがあります。二人の歌い手はメルヘンに相応しい落ち着きを感じさせて好ましい。

 ワタシ「結婚行進曲」が大好きです。軽快に、派手派手しく、思いっきり元気に演っていただきたいもの。(たしか、これ劇中では幻想というか、夢なんですよね。いかにも結婚式に相応しい!)ヘルビッヒの表現は、中音域が厚くて金管が金属的にならない、素晴らしく立派な演奏でいつもの(自分の)イメージとは異なります。この「バカ騒ぎ」に感動を持ち込んじゃ、ね?

 フィナーレは合唱が静かに結末を語って、弦が再びの眠りに落ちるような静謐さで幕を閉じます。

 「Mendelssohnのスペシャリスト」と評価されるマズアの2曲。ファンの方々には申し訳ないが、オーケストラと指揮者の技量の違いに愕然とせざるを得ません。リズム感が不自然で、いわば「ガチャガチャ」状態。ゲヴァントハウス管弦楽団も歴史と実力ある団体だけれど、アンサンブルの集中力も落ちて、これは録音の加減でしょうか。

(2002年11月29日)

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written by wabisuke hayashi