Mahler 交響曲第8番 変ホ長調
(ミヒャエル・ギーレン/フランクフルト歌劇場博物館管弦楽団)
Mahler
交響曲第8番 変ホ長調
ミヒャエル・ギーレン/フランクフルト歌劇場博物館管弦楽団/ロビンソン(s)/マーシャル(s)/ハイヒェレ(s)/ヴェンケル(a)/ラウリヒ(a)/ウォーカー(t)/スティルウェル(br)/エステス(b)/ヘッセン放送合唱団/フランクフルト・カントライ/フランクフルト・ジングアカデミー/リンブルグ大聖堂少年合唱団/ヴァルディンガー(org)
SONY SBK48281 1981年「アルテ・オパー」(旧オペラ座)再建ライヴ 680円にて購入
地味な存在のCDであり、廉価盤の品揃え音源として扱われるには、少々もったいない音源でしょう。パリ・オペラ座を模したと言われる「旧オペラ座」再建を記念する祝祭的演奏会ライヴとなります。ギーレンは当時(1977-1987)フランクフルト歌劇場音楽総監督でした。全72分だから、テンポは遅めではないが、速い、といった印象はありません。こういった大曲、とくに声楽が大規模に活用される作品では録音が重要でしょう。ワタシはショルティ/シカゴ交響楽団(1971年)英DECCA録音での”混沌とした響き(ああ!やかましい)”に閉口した記憶もあります。(録音ではなくて、演奏そのものの問題として/これが”刷り込みとなっている”)
素晴らしくクリアで濁らない。過不足のない残響、奥行き感、各楽器、声楽の定位がしっとり自然なる名録音。全体の響きに埋もれがちになるオルガンも、あちこちしっかりと存在を主張して暖かい。録音もそうだけれど、ギーレンの表現そのものがクリアで浪漫に引きずったものではなく、しかも、カラカラに乾いた骨と皮のような無味に陥っておりません。静謐であり、明快〜後半にいけばいくほどその印象を深めました。じわじわと祝祭的喜びは伝わります。
ライヴとは思えぬ、管弦楽の精密さも特筆すべきでしょう。フランフルトのオーケストラといえば、放送交響楽団ばかり有名(エリアフ・インバルの膨大なる録音の成果)だけれど、歌劇場のほうも立派ですねぇ。おそらくはふだん演奏する機会のない作品だろうが、アンサンブルは精緻を極め、やや怜悧な集中力を誇ります。例えばベルリン・フィルのような官能的サウンドではないが、歌心、技量、洗練、迫力に於いて不足はない。
声楽はもっと凄いですよ。ワタシはノイマン盤(1982年)の声楽の扱いに感心した記憶があったが、おそらくはそれを上回る充実でしょう。大人数(のハズ)の合唱団が、響きの厚みそのままに”少人数?”と感じさせる驚き。声楽ソロは位置関係がはっきりと理解できて、後半ソプラノの抜いた独唱(誰でしょう?)は天空に消える高音の美声(天上別場所に控えているはず)。アクとかクセはもちろん存在しないが、味気ないわけでもない世界はギーレンの表現成果故でしょう。
第1部はさっくりと喜ばしく、延々と長い第2部のわかりやすさは特筆すべきものです。お気に入りMahler 中でも少々苦手系作品だから、あまりたくさん聴いていないけれど、”ヴェリ・ベスト”と評したいところ。明快で、すっきりクール、モダーンな演奏であります。ラストの”救済”は万感胸に、美しく迫ります。ワタシは大好きMahler 中で唯一、苦手としていたのがこの作品でして、それは2006年10月1日岡山フィル特別演奏会でのナマ体験で払拭されました。
(2006年12月22日)