Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調
(ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィル1977年)
Mahler
交響曲第5番 嬰ハ短調
ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー
SUPRAPHON SU 3880-2 1977年録音 11枚組6,581円(ポイントも活用)
以下のコメントは8年ほど前のもので、(当時在住岡山の)図書館で借りたCDとなっております。2008年5月、贅沢にも全集を6,600円程(目標3,000円だったんだけれど)入手済。アナログ最盛期の録音は極上であって、プラハ・ドヴォルザーク・ホールの豊かで瑞々しい残響も聴きもの。記憶というか先入観では”大人しい穏健派演奏”だったんだけれど・・・んなことはない!悲痛なる切迫感やら情感を優先させる方向ではないにせよ、この集中力、充実して鳴り切ったチェコ・フィルのサウンドは素晴らしいものでした。結論的に昔の印象とそう変わらない。ゲヴァントハウスとの1966年録音も魅力タップリだけど、音質的にも、オーケストラの個性という点でこちら一日の長有。(1993年最後の録音は残念ながら未聴)
先鋭的ではなく、良く歌ってオーケストラの響きは涼風が過ぎるように爽やかで柔らかい。第1楽章冒頭のトランペットから、びのびした清潔な響きに魅了されます。テンポは微細に動いて繊細だけれど、大見得を切るような派手な表現ではない。細部微に入り細を穿つようなニュアンスなんだけど、一聴、粛々と音楽は自然体で進んで、時に大きな絶叫があっても響きは濁らず、迫力にも不足しない。第2楽章「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」という指示に忠実ではあるけれど、ごりごりと遠慮会釈なく爆発させるのではなく、誠実に、細部描き込んでいくと、やがて聴き手を知らず感銘の渦に巻き込んじゃう、といった風情か。
第3楽章は優雅なレントラーですよね。ホルンの牧歌的なサウンドはチェコ・フィルの伝統でしょう。けっこう几帳面にリズムを刻んで、ノイマンは安易流麗に進まない。粘着質ではない”歌”に溢れて、冷静な表現だと思います。テンポもやや遅め。途中、静謐に落ち着いていく場面ではホルン・ソロ、木管やら弦の優しいピツィカート、そして例のトランペットが存在を主張します。なんと柔らかく、美しい。
期待の第4楽章「アダージエット」も清涼で、情念と官能からは遠いところにある。さらさらと淡彩なるクールな幻想。終楽章は安寧の色がうっすらと広がって、落ち着いた味わいのまま歓びが広がりました。爆演や激しくも鋭い爆発を期待する人には無縁な、優しく語り掛けるようなボヘミアのMahler 。弱いのではない、優しいんです。興奮ではない、落ち着きと安らぎのための演奏であります。 (2010年3月12日)
1977年録音 図書館で借りたCD(SUPRAPHON)
ノイマンは、最晩年のMahler 全集が完成しなくて残念でしたね。第1回目の全集は、思い切った廉価で出てくれないのでほとんど聴く機会を得ませんでした。第8番くらいかな、FMで聴いたのは。で、この度、いつもの幸町図書館で借りてきたのがこのCD。いや、この演奏はまったく素晴らしい。
まず、録音が明快なこと、暖かいこと、奥行きと残響が適度なこと。ほんまに気持ちヨロシ。でもね、チェコ・フィルの素朴でコクのある響きがあってこその録音。以前、クレツキのBeethoven で「チェコ・フィルは音が変わってしまった」なんて言ったが、前言撤回です。やや現代的になっているとはいえ、ここでも魅力タップリの伝統有。
冒頭のトランペットね、もう、ここから一種特有の都会的でない響きが快くて、一気に引き込まれます。弦にザラリとしたコクがあって、ウィーン・フィルとかベルリン・フィルなどとは方向性が違うが、これはこれで恐るべき個性なんです。オーボエのちょっとしたヴィヴラートにも、ホルンの粗野でチカラ強い音色にも「嗚呼、これチェコ・フィルだね」と、気持ちヨロシくなるばかり。
ノイマンってなんとなくユルい、といったイメージがありました。強面の人じゃないし、アクとかクセを前面に出す人じゃない。ここからあとはワタシの(ここ最近の)の好み前面だけれど、結局ハイティンク/コンセルトヘボウの1980年代、クーベリック/バイエルン放響、などに対する嗜好とほぼ同じなんです。
自然体であること。恣意的な解釈を持ち込まないこと。リキまないこと。細部まで明快であって、けっして流さないこと。なにもしていないように見えて、じつは極上のオーケストラの自発性が信じられないようなニュアンスを作っていること。ヒステリックに叫ばないが、存分なる厚みと迫力があること。トータルとして、オーケストラの個性が生かされていること。
いくらでも濃厚にできそうな「アダージエット」。メンゲルベルクのむせ返るような録音もたまらない魅力だけれど、ここでは官能性はなくて「ワタシのオーケストラの弦を聴いてください」といった風情でしょうか。ひじょうに美しい、中低音が主体の落ち着いた空気が感じられる演奏でした。
終楽章は、第1楽章〜第3楽章までの悲愴なる緊張感が、すべて解決されたような歓びが溢れました。ここは金管を聴いていただきましょう。そうとうな音量だけれど、切れ味とか威圧感を与えない演奏は意外とないものです。全集3,000円ほどで出ないものでしょうか。(2002年5月31日)
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