Britten 歌劇「ルクレティアの陵辱」
(レジナルド・グッドール/イギリス・オペラ・グループ管弦楽団1946年)


DOCUMENTS 231134  10枚組 3,458円にて購入 Britten

歌劇「ルクレティアの陵辱」作品37

ピーター・ピアーズ(男性コーラス)、ジョーン・クロス(女性コーラス)、オタカール・クラウス(ターキニアス)、エドモンド・ドンリーヴィ(ジュニアス)、オーウェン・ブラニガン(コラティナス)、カスリーン・フェリアー(ルクレティア)
レジナルド・グッドール/イギリス・オペラ・グループ管弦楽団

1946年10月2日/アムステルダム市立劇場にて録音

DOCUMENTS 231134 10枚組 3,458円にて購入

 英国音楽は一般に日本では人気がなくて、そのなかでもBrittenは(知名度はあるが)いっそう人気がない。代表作は旧文部省ご推薦の「青少年のための管弦楽入門」(ヘンリー・パーセルの主題による変奏曲とフーガ)ということになるのでしょうが、それはあんまりじゃないか・・・人気薄だから、中古市場とかオークションなんかでけっこう無競合で、安く入手できたりします。このDOCUMENTSの10枚組は今や貴重盤であって、しかもワタシ入手時の倍くらいに価格が跳ね上がっております。

 旋律サウンドが暗く、激しく、少々晦渋であって、しかも甘さ控え目(皆無)だから馴染みにくい音楽だと思います。戦時中の演奏環境が厳しい時代の作品のようで、小さな楽器編成(ほとんど室内楽+ピアノ+打楽器)による室内オペラとなります。でも、ティンパニー、スネアドラム、テナードラム、バスドラム、銅鑼、吊るしシンバル、トライアングル、鞭、タンバリンが必要、というのも凄い。筋は古代ローマ時代、人妻が陵辱され、とうとう自殺するといった悲惨な内容らしい。第2次世界大戦の悲惨さを比喩したものなのか。

 このDOCUMENTSの10枚組は少々音源情報が怪しいんですよね。CD2に収録される「キャロルの祭典」(1953年/コペンハーゲン少年合唱団)の指揮は作曲者自身となっているけど、実際はモーゲンス・ヴィルディケが正しい(との情報教授有)。レジナルド・グッドールのライヴは1946年と1947年(改訂版による簡略録音/CD一枚分)が存在して、この1946年盤は作曲者自演と同じ録音年だし、キャストも同じ。どこかで情報ごっちゃになっていないか、ちょっと心配です。

 録音はあまりぱっとしません。ノイズはないんだけれど、全体として曇って鮮明さを欠きます。(歌い手の様子はよくわかる)初心者(=ワタシ)には少々ツラいかも。おまけに第2幕 第1場/第2場途中で編集ミスがあって、音楽がちょっと飛んじゃいます(つまり時々トラック分けで休止が入っちゃう)。ネタも知識もあまりありませんし、資料として各歌唱の題名を付けておきますね。

【第1幕 第1場】
1. ローマは今やエトルリアの成り上がり者に支配されている(男の語り手)/2. 国王たちにとって、ある地で犯した悪を(女の語り手/男の語り手)/ 3. 渇いた夕暮れが今や光の酒を飲み干した(男の語り手)/ 4. 極楽境に先ず至る者こそ最上の善人だ(コラティヌス/ユニウス/タルクィニウス/男の語り手) / 5. マリーアは仮面舞踏会で仮面を脱いでいた(ユニウス/タルクィニウス/コラティヌス/男の語り手) / 6. コラティヌスは賢明にも徳高い妻をぬかりなく選んだ(男の語り手/ユニウス/コラティヌス/タルクィニウス)/ 7. しあわせな男が行く!(タルクィニウス/ユニウス) / 8. タルクィニウスが欲しないとき(男の語り手) / 9. 馬だ!馬だ!(タルクィニウス) 幕間 タルクィニウスは待てない(男の語り手)

【第1幕 第2場】
10. 彼女らの紡ぎ車は解く(女の語り手/ルクレティア/ビアンカ/ルチア)/ 11. ほら!ノックが聞こえる(ルクレティア/ビアンカ/ルチア) / 12. 時は女たちの手を踏みつけて行く(女の語り手/ルクレティア/ビアンカ)ピアーズ(ピーター)/ 13. オートミール色の眠りの精が町へしのび込み(女の語り手/男の語り手/タルクィニウス/ビアンカ/ルチア)

【第2幕 第1場】
14. エトルリア人たちの繁栄は、当然ながら祖国を豊かにし(女の語り手/男の語り手/コラティヌス/ルチア/ビアンカ/ユニウス)/ 15. 彼女は夜の薔薇のように眠る(女の語り手/男の語り手) / 16. このおぼろな光のるつぼのなかで(タルクィニウス/女の語り手)/ 17.ルクレティア!-なんですの?(タルクィニウス/女の語り手)/ 18. 間奏曲-今この場でごらんのとおり(男女の語り手)

【第2幕 第2場】
19. ああ!なんて素晴らしい日だろう!(ルチア/ビアンカ)/ 20. この紫ランはルクレティア様がお生けになるようとっておきましょう(ビアンカ/ルチア/ルクレティア) / 21. 年は移っても、花は毎年同じように(ルクレティア/ビアンカ)ピアーズ(ピーター)/ 22. あなたの言う通りだった(ルチア/ビアンカ/コラティヌス/ユニウス)/ 23. ルクレティア!ルクレティア!(コラティヌス/ルクレティア)/ 24. 昨夜、タルクィニウスはあたしを陵辱しました(ルクレティア/コラティヌス) / 25. この蒼ざめた手は落としてしまう(コラティヌス/ユニウス/ビアンカ/ルチア/女の語り手/男の語り手) / 26. エピローグ これがすべてであろうか?(女の語り手/男の語り手)

 かっちりとした構成で起承転結がはっきりした音楽より、ずるずるとモノローグが続くような音楽を好む癖がありまして、しかも編成が小さくてサウンド大爆発しないでしょ。厚みはないが、色合いは多彩であって、リズムも厳しい。Brittenには欠かせないピーター・ピアーズはもちろん、懐かしのカスリーン・フェリアも気品と骨太な声質が見事(圧巻)であります(「 昨夜、タルクィニウスはあたしを陵辱しました」は、ほとんど旋律のない台詞風なんだけど、凄い説得力)〜って、ワタシはオペラのことはほとんど理解していないんだけれど。音質条件云々乗り越えて、何度も何度も繰り返して馴染むよう努力いたしました。グッドールは、なかなか緊張感があって良いのではないか。ラスト辺りのノックの音は非常に衝撃的。

 ラストに向かって、いや増す悲劇的な色合い。ネットで検索すると、ほとんど作曲者自身によるステレオ録音(1970年)しか出現しません。やはり初心者(=ワタシ)には録音条件は整っていたほうが取っ付きやすいでしょう。20世紀は甘美な歌がなくなってしまったのか。Stravinsky 歌劇「ナイチンゲール(夜鶯)」だったら、けっこう色彩も旋律も激しい変化があってたっぷり愉しめたが、この作品はズズ暗い苦渋ばかり。新ウィーン楽派にはもっと妖しい甘美がちゃんとありました。

 Brittenはけっこう棚中にCDを貯めているんだけれど、完全攻略は容易ではありません。

(2009年2月27日)
 

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written by wabisuke hayashi