Bach 作品集(ジャック・ルーシェ・トリオ)J.S.Bach
インヴェンション ヘ長調BWV779 ジャック・ルーシェ・トリオ(ジャック・ルーシェ(p)/クリティアン・ガロス(dr)/ピエール・ミシェロ(b)) ERMITAGE ERM140s 1966年録音(ルガーノ・ライヴ) 購入価格失念/個人輸入だったか? 2008年、ほぼ10年のスパンで再聴。例えば高熱にて寝込んでいるとき、柄にも合わぬ苦しい長距離走をしているとき、精神的に行き詰まったとき、脳裏に浮かんでくる音楽ってあるでしょ、誰でも。ワタシの場合、「アリア」のジャズ・バージョンだったんです。やや脳内で自由に変奏されていたけれど、このCDの記憶であったことを確認できました。ピアノ、ベース、そして静謐なるドラムにて奏でられる至福のBach 。 ERMITAGE/AURAの貴重なるライヴ音源は2006年、激安ボックスとしてほぼ復活再発されました。ところが、再度日の目を見ないものもあるんです。リヒテルのロカルノ/聖フランチェスコ協会1966年ライヴがそうだし、ニカノル・サバレタのハープ、エドウィン・レーラーによるRossiniの小荘厳ミサ曲(1968年)、そしてこのジャック・ルーシェもそう。ま、オリジナル音源はまとめて復活しているんだけど。(欲しい!) 音楽のジャンル分けには意味がなくて、ワタシは流行歌(はやりうた)も大好きです。日本の若い世代には思わぬセンスと技量を持った音楽家が育っているんです。たまたまクラシックという流行廃れの少ない、使い減りしないジャンルを中心に聴いてきたけど、ジャズ(?)だって例外なく大好き・・・LP時代はキース・ジャレットに入れ込んでいたし、ウェザー・リポートも大好きでしたね。ましてやBach !どんなスタイルでも、間違いなく感銘を保証していただけること必定。 再聴再コメントでは、前回印象と大きな変更を伴うことがフツウだけれど、以下とまったく変わらないどころか、むしろその方向で感銘が深化している手応え有。静謐と洗練、軽快なるリズムと粋。そして会場から伝わるノリ、抑制された観衆の興奮。おおよそ馴染みの旋律が一巡したら、即興演奏が始まるんです。もちろんピアノが主役なんだけど、ベースの雄弁さ(通奏低音)が下支えしているのはバロックと同様でしょう。インヴェンションに於ける中間部インプロヴィゼーション(即興演奏)は驚くべき自在さ。 白眉はやはり「アリア」だなぁ。馴染みのベース・ラインがちょっとだけシンコペーションして、主旋律のピアノがちょっとずつ変容していく・・・それでもBach であることを止めない音楽のマジック。神髄を構成する感動の質が変容しない。わずか3:27のなかに昂揚あり、沈静も存在する驚き。「目覚めよ」は、神からの至福の呼びかけがスウィングして自由に、前衛的に変奏され、まったく別のジャズ作品へ(ドラムの思わぬ活躍有)〜これぞ現代に生きる畏敬の念なのでしょう。衣装や時代が変わっても、人間の感性や幸せの本質は変わっていない。 臨場感溢れる音質抜群。聴衆の暖かい拍手も、息遣いが伝わるよう。これはワタシの自慢の秘蔵”無人島への一枚”CDであります。 (2008年7月4日)
偉大なるBach の音楽は、どんな楽器を使っても、演奏スタイルが変わっても、骨格が崩れません。古楽器全盛期のバロックに於いて、ピアノによる演奏や録音は普通に行われていますし、ストコフスキーによる管弦楽編曲も現役で通用すると思います。永遠のメロディ・メーカーであるBach は、誰もが知っているポピュラー音楽としても現代に生き残っています。 1980年代に、MJQのジョン・ルイスがBach を録音しましたね。平均率の前奏曲を原曲通り演奏した後、フーガは自由な編曲になっていました。FMのクラシック番組にも盛んに取り上げられて、エア・チェック・テープ(今は昔)を車で聴いていたことを思い出します。新鮮でした。さすがにジョン・ルイスは廉価盤で復活しそうもないのが残念。 1960年代に、キングから数枚のLPを出していたジャック・ルーシェが、ERMITAGEから復活していたのは衝撃でした。1960年代でしょうか、ブランデンブルク協奏曲第5番をRPOと共演していたものを聴いた記憶があります。当時はべつにこれといった、特別な感想はありませんでした。 このCDは1966年録音とのことですから、ちょうど盛んにLPを出していた頃でしょうね。シンプルなトリオによる、感興に溢れた演奏ばかりで、泣けます。ピアノ協奏曲第1番ニ短調は、Bach のなかでは比較的気に入らない曲でしたが、この演奏で好きになりました。速いテンポでノリノリなんです。 有名な「G線上のアリア」における夢見るような、はかないピアノ(ハラリハラリと枯れ葉が舞い落ちるような)の静謐な美しさ。「目覚めよ」の後半、完全に自由でジャジィな即興演奏となって、聴衆の興奮した拍手も納得。平均率の第1番は前奏曲だけだけれど、ルーシェのピアノが繊細で、それに自由なベースが絡んで3分少々で終わってしまうのがもったいない思い。 粒立ちの良い、軽妙で即興的なピアノ、ベースとドラムのリズミックでありながら控えめな表現。ジャズの基本ともいえある、最低限の構成による集中した表現。Bach の旋律を生かした、美しい演奏と思います。ふだん、ジャズを聴く機会はあまりありませんが、1時間たっぷり楽しめます。 弾むような、軽いリズム。即興的で自由な味わい。インプロヴィゼーションの見事さ。これこそBach の(バロックの)本質に近いのかも。ストコフスキーも好きだけど、こちらのほうが興奮の度合いは大きい。 なかの解説を真剣に読んでいないのですが、このトリオはもう活動していないのでしょうか。音質極上。 講談社現代新書「J.S.Bach 」(礒山雅さん著)に、ジャック・ルーシェの素晴らしいBach 演奏について触れられています。
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