ホロヴィッツ〜ザ・ラスト・レコーディング


SONY SICC 373 Haydn

ピアノ・ソナタ第49番 変ホ長調

Chopin

マズルカ第35番ハ短調
夜想曲第16番 変ホ長調
幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
練習曲 変イ長調/ホ短調
夜想曲第17番 変ロ長調

Liszt

Bach カンタータ第12番「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」による前奏曲

Wagner/Liszt編

「トリスタンの愛の死」

SONY SICC 373 1989年録音(金沢BOOK・OFF)中古250円にて入手

 85歳で亡くなる一ヶ月前の録音。技巧の衰えなど一切なく、例の如しとろけるような美しいタッチが幽玄に響きました。Chopin 、Liszt、どれも個性的な、唯一無二ホロヴィッツの色前面だけれど、けっして恣意的とか不自然には感じさせない。同種の作品をまとめて録音する(例えば「ノクターン全集」とか)のはLP時代以降の風習なんだろうが、こういうコンサートピース的扱いで録音する人も減りましたね。リヒテルも似ているが、あの人はけっこうちゃんとした、まとまった録音がたくさんあります。ホロヴィッツは協奏曲だって、そうレパートリーは広くはない。

 Haydn ピアノ・ソナタ第49番 変ホ長調は、まるで鼻歌混じりのChabrierのように小粋に歌われます。最近気付いたんだけれど、BRILLIANT 99671 10枚組古楽器による/2005年7月19日渋谷にて1,270円入手「ピアノ・ソナタ全集」(BRILLIANT 99671 10枚組/2005年7月19日渋谷にて1,270円入手)が購入数年、なかなか全貌が掴めない、作品の味わいを素直に楽しめなかったのは「演奏そのものに要因がある」と。バックハウス、そしてホロヴィッツのマジックに掛かると、音楽の神髄が楽しげに姿を現しました。

 (余談だけれど、全集中ウルスラ・デュチュラー Ursula Dutschler/fp 2000年録音/フォルテピアノがメカニック的にどういうものかは知らぬが、第1楽章の不自然なるテンポの揺れは、ほとんど技術的不備に聞こえます。ホロヴィッツのほうがずっと流麗であり、流れもテンポ設定も自然。古楽器の素朴粗野な味わいはたっぷりあって、Haydnの作品はツボが押さえられると、懐に深く進入する味わい有)

 甘美なChopin に老いの陰は微塵も感じられない。都会的に洗練されたマズルカ、どこまでも甘美セクシーな夜想曲、練習曲だって正確かつ細かいニュアンスと躊躇い、揺れに充ちて見事なものです。幻想即興曲は、若手でもこれほど流麗に、華やかに表現できる人は少ないはず。亡くなる寸前まで現役であることの凄さ、素晴らしさ。(最晩年の来日公演は酷いものだったらしいが)

 Liszt/Bach 「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」による前奏曲の深遠なる神聖、Wagner/Liszt「イゾルデの愛の死」はピアノ一台にて巨大なる楽劇のスケールを表現して余りある・・・こんな素晴らしいCD、BOOK・OFFの片隅で@250処分を見逃しちゃいけないよ、金沢の音楽愛好家諸君。

(2007年8月15日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi