罪悪感海賊盤(駅売海賊盤)に書いたように、こういった類のCDは音楽界の発展には寄与しないどころか害悪さえある、とのご批判、もっともだと思います。既にほとんど市場からは消えつつあり、中古市場に格安で流出しております。ワタシは確信犯的に購入しているから罪は深いが、なにもわからず買っている方、「怪しいから」と相手にされない方〜こちらが多数派でしょう〜だから、市場価値は下がる一方。
言い訳というか、開き直りの弁ではありますが、1990年頃CDは高かったんです。1990年代前半に最終的にLPをあきらめて処分しましたが、ああ、ワリと安いCDも出ているんだねぇ、と、みつけたのがPILZ(Pilz Media Group)〜大阪寝屋川ジャスコで@1,200でしたね。それとエコー・インダストリー(これは一時どこにでも売っていました)、FICなどの「著作隣接権」切れCD〜いわゆる海賊盤(駅売海賊盤)〜当時は1,000円でした。(それでも存分に安かった)一般のレコード屋さんにも売ってました。でも、当時はそれがなにを意味するか理解できませんでした。
2000年にはいると、メジャーレーベルでさえ廉価盤大増勢状態から、ワタシみたいな廉価盤フリーク一筋でさえ価格に対する感覚がマヒしてきました。つまり「正規盤のほうが安い!」なんていうことがしばしば発生して、ここに海賊盤(駅売海賊盤)の意味は消えたと言ってもよろしいでしょう。(さらに私家版海賊盤の横行〜つまりCDRの普及もその裏に有)新規プレスはもうないでしょう。在庫流通+中古のみ。
ワタシは恥ずかしながらずいぶんと、こういったCDについてサイトに掲載してきたし、いまさら隠す(消却する)のもなんですから、サイト原稿そのままにしております。中古で安かったら〜感覚的には@250迄〜見どころのあるCDなら、買うつもりです。いえいえ、正規盤もたくさん購入してますから。閑話休題(それはさておき)。グダグダ言い訳ばかりだけれど、ワタシがCD収集初期に購入した「バカ高い」海賊盤の報告です。後悔と、あきらめと、開き直りです。ごめんなさい。
ザ・サウンド・オブ・ホロヴィッツ
Schumann
こどもの情景、トッカータ ハ長調
Scarlatti ソナタL.430/483/209
Schubert 即興曲 変ト長調 作品90-3
Scriabin
練習曲 嬰ハ短調 作品2-1/嬰ニ短調「悲愴」作品8-12
ホロヴィッツ (p)1989 EYEBIC.inc (おそらく出て即、くらいに京阪寝屋川駅前の本屋にて)1,600円で購入
紛れもなくCBS(1962年スタジオ)録音。オリジナル収録のまま。法外な価格で買わされた、ということになるが、へんな話し、正規盤はいまだにこの価格では買えないかも知れません。海賊盤としても「こどもの情景」単独収録はあっても、オリジナル収録のまま「海賊盤」というのは、おそらくこれのみか?
ワタシはホロヴィッツに特別なシンパシーは感じてはいないが、一種トロトロの甘い音色、流れの流麗さにココロ奪われることもしばしば。当時ホロヴィッツ59歳で、彼としては端正なスタイルだと感じました。変幻自在の表情の変化は楽しめるが、抑制と節度もちゃんとあります。夢見るような「こどもの情景」〜「トッカータ」は喜びがハジケ飛びました。
しかし、このCDの白眉はScarlattiでしょう。これを聴くまで、ワタシはかなり音質の悪いLP、しかもチェンバロ(演奏者は既に記憶なし)でシンプルな演奏を(それはそれで)楽しんでいたはず。正直、痺れましたね。バロック・スタイルがどうの、とか屁理屈抜きにして、密やかで艶やかで、そして上品にとろ甘い。こんなんで馴染んじゃうと、オリジナルを聴いたときに拒絶反応が出ないでしょうか。しょうもない心配をしちゃいました。
Schubert に於ける、シミジミとした情感〜作品90-3たった一曲のみ収録というのがニクい配慮か。即興曲中、ピカいちの名残惜しい作品でしょう?ラストはホロヴィッツの十八番(おはこ)Scriabinです。幻想的で官能的、隅々までエッチで、しかも、ラストは誰でも知っている哀愁の旋律に激情も迸る・・・
こういったコンサート・ピース的アルバムを録音できる人は、最近いなくなりました。音質は年代相応、といったところ。悪くありません。でも、オリジナルじゃないから真実はわからない。
Mozart
ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331/第10番ハ長調K.330/第4番 変ホ長調K.282/第5番ト長調K.283/第12番ヘ長調K.332
バックハウス(p) Della.inc (c)(p)1991 中古1,200円にて購入 1955〜1966年録音
英DECCA録音。芯があって、重心の低い良いピアノです。録音も良い。正規CDでは+ロンドK.511だけれど、オリジナルLPでは第11番は収録されなかったはず。京都・新京極の小さなレコード屋(京都には行きつけのお店がたくさんあった)で購入したなぁ。いやぁ、ぼったくられました。もしかしたらLPと一緒に買っていて、少し負けてくれたかもしれません。あの親父、元気で商売しているだろうか・・・
バックハウスといえば「鍵盤の獅子王」(あ〜あ、このキャッチフレーズ超恥ずかしい!)でしょ?Beethoven 、Brahms といった印象有。で、このMozart を(おそらく)10年ぶりくらいに聴いたと思うが、数々腐るほど聴いたはずのピアノ・ソナタが、ここまでしっくりハラに落ちる演奏も珍しい。
とくに「トルコ行進曲」付きね。ナント1955年の録音だけれど、自然体、粛々淡々と弾き進めて、飾り付けもなくて地味だけれど、骨太くて滲み出るようなほのかな味わいが溢れます。重心が低いといっても〜べつに重苦しい訳じゃないんです。
1960年代の演奏には少々色気、というか揺れもあるけれど、音楽が進むに連れ、いつもの「粛々淡々」スタイルに馴染みます。これが枯淡というのかな、いや枯れていないか。「無為の為」かな?Mozart に過度の味付けは禁物です。若手の華やいだ味わいも悪くないでしょう。無駄をそぎ落として、音楽の本質がそのまま現れるような、ヴェテランの味わいは貴重なんです。しかも、どこかセクシー。
テクニックがねぇ、しっかりしていると思います。細部の弾き流しがない。「バリバリ腕が鳴るMozart 」というのは異常だけれど、曖昧さは皆無〜正直、Mozart のソナタは(素直にさえ弾いてくだされば)なんでも良いんです。たいてい感動はちゃんといただける。スタインウェイじゃないでしょ?このピアノ。漆黒だけれど、暖かい色合いを感じました。(2004年2月11日)