フリードリヒ・グルダ(p)ルガノ1968年ライヴ
アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ(アンダンテと変奏曲) ヘ短調 Hob.XVII-6 Mozart ピアノ・ソナタ第8番イ短調 K.310 Schubert
即興曲 作品90 D.899 Beethoven ピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ヴァルトシュタイン」 フリードリヒ・グルダ(p) ルガノ1968年ライヴ DOCUMENTS(aura) 224095/CD11 1968年録音 10枚組1,731円にて購入 「GREAT PIANISTS」10枚組は内容価格とも至高の逸品だと思います。いくつかERMITGE/aura時代に単品で入手していて、ボックス集成されたときに再購入いたしました。たしか2007年の始め頃。全体に聴きやすい放送録音が音源なんだけど、これはとくに音の状態がよろしい。痺れました。名曲には名曲たらしめる演奏がちゃんとある、といったシンプルな真理に気付かされます。作品収録も配慮され、盤石な出来の一枚。収録80分近く、音楽に酔いしれます。 Haydnのピアノ作品は馴染み薄いだろうが、珠玉の、ほとんど(哀しい)夢見るような名曲中の名曲也。バックハウスのかなり浪漫的な演奏(これも捨てがたい魅力だけれど!)にて出会いました。グルダはもっと軽快で、いじらしいほどの含羞に充ちて、ゆらゆらとした情感を淡々繊細なタッチで泣かせます。もちろん女性にも効果的だけれど、草臥れ中年オジサンでも(家族に見られぬよう)こっそり涙がにじみ出てくる・・・Mozart のロンド イ短調K.511の浄化に接近しております。ここ最近、出会ったなかでは出色の名曲、14:36。 我らがMozart !イ短調ソナタK.310の衝撃。この悲劇的な慟哭は聴き手の胸に突き刺さりました。まるで前曲(Haydn)の癒しをぶち破るような、精神は不安に充ち満ちて安易な聴き方を許さない。グルダは叩いたり、叫んだり、そんな世界じゃないんです。むしろ、”淡々繊細”路線は継続していて、リズムのノリはヴィヴィッド。旋律は悲劇的だけれど、タッチは浮き立つように明快、流麗に溢れます。それでこそ深遠なる哀しみはいっそう深まる。なんども聴いているお気に入り作品だけど、おそらくはこれがヴェリ・ベスト。 誰でも知っているSchubert の即興曲を聴いていて、原点に帰ったような気分に・・・LP時代の感銘は誰だっけ?アルフレッド・ブレンデルの旧録音(1962年)?いまでこそ「浪漫派苦手」など戯れ言をネット上で書き連ねているが、若い頃はもっと謙虚に名曲名旋律を受容しておりましたよ。第1番ハ短調に於けるいじらしいほどの抑制、メリハリ、安らぎ(それでも陰影は深い)、第2番 変ホ長調の夢見るような疾走、揺れ動く心象、しみじみと懐かしい思い出に浸る(遠い目・・・)第3番 変ト長調、窓辺に佇んで窓ガラスを伝って次々と流れる雨粒をいとおしく見つめている風情の第4番 変イ長調・・・どれも歌謡性に溢れた美しい旋律をデリケートに、さっくりと表現して過不足がない。 「ヴァルトシュタイン」はワリと好きなんですよ。出会いは(この)フリードリヒ・グルダ英DECCA旧録音(もちろんLP。1957年録音)。いくぶんセンチメンタルな旋律が続いたけれど、ラストは一気呵成元気一杯の作品となります。言い方がなんだけど、ドリルで道路工事するようなピアノ連打!で開始され、やがて自在に旋律は発展するが馬力とテンションは落ちず、この前向きひたむきな闘争心は日本人伝統の嗜好であります。グルダは軽快なるノリ+ニュアンスで勝負。短い第2楽章「アダージョ」は纏綿と表情豊かに表現され、再び怒濤の最終楽章「ロンド」へ。 初めて聴いたときからこの楽章、最初っから最後までいかにもフィナーレのアツい期待に充ちた凄い音楽だな、と感じておりました。グルダは、そっと静かに開始して、やがてエンジン全開!これは演奏会のラストを意識させる圧巻のラッシュでありました。タッチはあくまで精緻であり、明快そのもの。素晴らしいテクニック。 (2009年10月16日)
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