Brahms 交響曲全集(スクロヴァチェフスキ/ハレ管弦楽団)Brahms
交響曲第1番ハ短調 作品68
交響曲第2番ニ長調 作品73
交響曲第3番ヘ長調 作品90
交響曲第4番ホ短調 作品98 スクロヴァチェフスキ/ハレ管弦楽団 IMP KOS/IMP 110 1987年録音 4枚組 1,690円 Brahms の交響曲には(いろいろな録音に)文句ばかり付けているワタシだけれど、この演奏では、少々音楽愛好家の皆さんに論争をお願いしたい。昼休みに所用で出掛けたついでにタワーレコードに寄ったら、このCDが売っておりました。IMPはクラシック音楽CDの製造を止めたそうだから、手に入りにくくなるかも知れません。 ここ最近、この曲は録音水準が気になります。カイルベルト(全集)もコンヴィチュニー(第1番)も、ワタシは全然良いとは思わなかったが、LPでは音質が違っていて印象も異なる、との情報も得ました。(そういえばそんな記憶もないではない〜ちなみにオーディオ的水準のみに言及している訳じゃないので)スクロヴァチェフスキ盤は音量も小さいし、もとより派手なパフォーマンス・タイプの人じゃないから、ジミに聞こえるんですよ。オーケストラもヴィルティオーゾ・タイプじゃないでしょ。初めて聴いたときには、ややひきましたね。 ワタシが中学生の時に出会ったのがベイヌム/ACOの第4番(グロリア・シリーズ 900円)で、これが一生の好みを方向付けたみたいで、以来、他のどれを聴いてもほとんど気に食わない。スクロヴァさんのも音が痩せて、線が細くて、生真面目で、オーケストラがあまり上手くなくて色気がなくて・・・うぁ、大失敗〜なんて思いつつ第4→第1→第2→そして第3番で目覚めました。 Brahms の交響曲4曲は、ここ最近CD3枚が相場でしょうか。2枚で4曲というのもあってお得だけれど、音楽を楽しむなら4曲4枚が相応しい。(ま、価格次第だけれど)だってヘヴィな交響曲を続けて聴くのはツラいっすよ。ここではフィル・アップがちょうど良い気分転換になってありがたい。一曲ずつ間を空けて、心に余裕を持って聴かなくちゃ。閑話休題(それはさておき)。
交響曲第3番の有名な第3楽章「ポコ・アレグレット」〜これ、たっぷりと豊かに、纏綿と甘くやって欲しいが、思ったほど理想の演奏はないもんなんです。スウィトナー盤だったかな?あれがとても良かった記憶がある。スクロヴァチェフスキは、極限に抑制され、細部に神経を行き渡らせ、静謐・透明であり、純粋と表現してもよろしいでしょう。 この磨き上げられた響きは並じゃない。太って重鈍なヒゲ面爺さん(=音楽室に貼ってあったBrahms の肖像画)じゃなくて、若くて恥じらいのある若者の恋心ですよ、これは。ちょっとしたテンポの自然な揺れも「ためらい」に聞こえます。胸が痛みます。嗚呼、そうかスクロヴァ爺さんの言いたかったのはこういうことなのか、と納得したら終楽章(これは切れ味が快い)もすんなりと腹に染みました。「ハイドン・ヴァリエーション」が、またたいへんよろしい。爽やかで。
ワタシ、Brahms の交響曲に一種共通する「威圧感」みたいのがあかんのです。第1番ハ短調辺りが代表的。ここでは「厳格」「禁欲」(ビンボーに非ず)「修行」「鍛錬」なんていう言葉も浮かぶ表現で、圧倒され畏敬の念を感じてしまう。第1楽章途中からのテンポ・アップのカッコ良いこと。どこにも贅肉や弛緩したところがないんです。(うらやましい) オーケストラの響きに厚みがないのは好悪が別れるところでしょうか。終楽章の緊迫感(ピツィカート・アンサンブル)も凄いが、ホルン・ソロやフルートの音色にそう魅力はないんです。例の「歓びの歌」主題の弦だって深みはそうあるもんじゃない。でも、サラリと速いテンポで、それがどんどん加速するところなんか魅力的でゾクゾクしました。
第2番ニ長調交響曲は、明るく若々しく溌剌と演奏して欲しい。やはり中低音がふくよかな、中欧のオーケストラが似合うと思います。Brahmsはホルンとチェロがキモだと思いますが、やはりその部分だけとればこの演奏は少々弱いと言わざるを得ません。でもね、慣れというか、誠実でまっすぐな演奏ぶりには打たれるものはあるんです。 この作品はC.クライバー/ウィーン・フィル(1988年〜ワタシはFMエア・チェックで所有)の印象が強い。オーケストラのそのものの色気と深みと余裕が違うし、指揮者のリズム感がイキイキと強烈で、細部のニュアンスも文句なし。音楽がうねって、呼吸しているのがよくわかる。それに較べるとスクロヴァ盤はいかにも分が悪い。静的であり、デコレーションが少なすぎます。 それでもスッキリとして、夾雑物がない透明さは貴重です。聴き流しちゃいけませんよ、集中しないと理解できないワザがあるんです。オーケストラの自発的な思い入れ、みたいなものは期待できないし、鳴らないのも事実。でも、スクロヴァチェフスキがとことん〜どんな旋律の端々にまで〜指示を徹底して、曖昧さのないアンサンブルには驚愕します。「雰囲気で流させない」といった決意か。どのパートのどの旋律はこの強さで演奏させる、といった指示の明快なこと。 細部に耳が慣れてくると、造形のたしかさに必ず感動できます。終楽章の(抑制が利いた)勢いのバランス感覚にも感心するばかり。(そういえばクナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルとはある意味対局にあるような演奏だなぁ)「悲劇的序曲」の集中力・緊迫感は、いままでに経験したことのないものでした。
第4番は先のベイヌムとの比較になります。ハレ管とコンセルトヘボウでは、少々可哀想な気もするし、録音自体もあまりに飾らないというか、中低音が暖かなPHILIPS録音とは違っています。この曲は詠嘆のような、大きな吐息をどう表現してくれるかが楽しみ。第2楽章は、途方に暮れたほうな単純なホルンで始まるでしょ。木管に引き継がれ、倍の長さで弦に移った時に魅力が爆発する部分。 これ、たいした音色じゃないんです。実直というか、色気が足りない。ぶつくさ言いつつ、弦に主旋律が引き継がれた瞬間にもう彼の世界に引き込まれて、嗚呼、これはホントに美しい世界だ、と確信できます。騒がしく無遠慮なスケルツォも、押しつけがましさがなくて、機嫌の良い楽章に仕上げております。終楽章「パッサカーリア」の悲劇的な旋律は、スクロヴァチェフスキには一番体質にあっているようで、深い呼吸で知的に清純に表現されて満足感が高い。 ハンガリー舞曲第1・3・10番のノリ、楽しさは交響曲の余韻を味わうにはピッタリの選曲。
買ってから約二週間、あちこちと毎日聴くことによって自分の感性を試されました。ワタシはもとよりこの曲集を苦手としていて、これだけ連続して聴き続けるのは初めての経験。この演奏には「クサさ」「クドさ」がないんです。愕然とした初印象から、聴けば聴くほど新しい発見があって、飽きさせません。よく考えられ、工夫され、磨かれた演奏。威圧感がないので、ジミな響きの渦から「歌心」を聴き取れるようになれば、もう大丈夫。 ワタシのコンポは安物だけれど、できるだけ良い環境で再生した方が魅力を発見しやすいと思います。(2002年3月8日) こんな素敵なレビューもありました。 「クラシックCD雑記帖」というサイトです。
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