Brahms ピアノ協奏曲第1番ニ短調(ルドルフ・セルキン(p)/
ジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団1968年ライヴ)


クロアチア VIRTUOSO 93008  3枚組1,990円 Brahms

ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15

ルドルフ・セルキン(p)/ジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団(1968年4月18日ライヴ)

クロアチア VIRTUOSO 93008  3枚組1,990円

 (p)2003となっているから、その頃購入したんでしょう。定評ある正規録音は(少なくとも20世紀中は)高価で入手をためらったと記憶しております。このライヴと同時期録音でしょう。このライヴ3枚組は各々ピアノ協奏曲第1番/交響曲第2番(1967年)/第4番(1969年)1曲ずつ贅沢収録。ここ最近、集中力が続かんのでこのくらい収録がちょうどよろしい。音質はやや乾き気味、平板奥行き不足、粒は粗いながら、そう不満もありません。ワタシのオーディオ評価は一般に甘いんだけれど。

 これが涙が出るほど素晴らしい。ゼルキンのピアノは(所謂ド・シロウトが考えるところの)独逸的サウンドであって、質実であって剛直、甘美流麗からは縁遠い”やや渋”タッチがたまらぬ魅力、というか、ほとんど”この作品にはこの音!”的確信は深まるばかり。ゼルキン当時65歳、技巧的にも万全の構えであり、これにいつも変わらぬ厳しいセルが水も漏らさぬサポートぶり〜熱狂した聴衆は最後の音が終わらぬうちに拍手喝采・・・これですべて言及終わり〜では、ちょっと手抜き過ぎなので以下蛇足を。

 第1楽章「Maestoso(堂々と、威厳をもって)」〜速度表示がない。でも、どの演奏を聴いても(記憶にある限り)落ち着くべきべきところに落ち着いて、唯一グレン・グールドが異様に遅いテンポを採用しております。ジョージ・セルの切迫感、迫力、充実ぶりはいつも通り、ゼルキンは華やかではないが、落ち着いたスケール誇って、優しい部分でのテンポの落としかた+デリカシーに不足はない。1985年出版の某雑誌には(スタジオ録音のほうへのコメントだけれど)「速めのテンポを取りがち/ゼルキンはいかにもバリバリ弾いている」とあるが、少なくともこのライヴではそんな印象皆無。全47:18、たしかにタイミングではやや速めだけれど、聴いた印象ではそうとは感じさせない。

 ジョージ・セルはライヴでも基本スタイルを変えない(まま、アツくなったりする)から、おそらくセッション録音でも「速め」「バリバリ」ではないと類推いたします。テンポの揺れは旋律テイストに沿っていて、自然そのもの。Brahms の大規模管弦楽を伴う作品は一般に苦手系なんだけど、ここでも粛々とした味わいの歌に胸打たれます。そして満を持して激昂する部分でのダメ押しにとどめを刺されちゃう・・・

 第2楽章「アダージョ」。ここでもクリーヴランド管弦楽団の緻密精密なアンサンブルが素晴らしい。静謐な部分をしっかり、力感を以て聴かせるのが真の実力でしょう。その流れになんのムリも作為もなく、そっと入り込むゼルキンのピアノ。タッチは質実でキラキラしたものではないが、誠実静謐なる歌に溢れてバックとの粋の合方も絶妙です。やがて10分辺りの昂揚に溢れる喜び、そして囁くような弱音への転化は絶品。

 終楽章、冒頭ロンドのリズム感の良さ、明確厳格なるアクセントのノリ〜それは威圧感ではない。力みはどこにもないんだけれど、しっかりとした足取りからじわじわと盛り上がって、そしてテンポの揺れ、躊躇いも絶妙です。

(2010年12月18日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi