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「牧神の午後への前奏曲」


 Debussy 「牧神の午後への前奏曲」〜これ、文句なし名曲です。一番最初に聴いたのはカラヤン/ベルリン・フィルだったかな?中学校の音楽室にあったLP(たしか「春の祭典」とのカップリング)でした。ずいぶんと聴く機会は多くて、わずか10分ほどの官能の世界に浸ることもしばしば。嗚呼、気持ちヨロシ。

 ある日、朝の通勤用に2枚のMDを持っていきました。ウチを出て、停留所の待ち時間含めてもバスで片道20数分。2枚もいらないんですけどね。これが偶然に「牧神」2種〜ブーレーズ/ロンドン交響楽団(1995年5月19日サントリー・ホール・ライヴ)、そしてデルヴォー/コンセール・コロンヌ(LPからの保存分)でした。

 既にブーレーズは1993年のベルリン・フィルとの録音に痺れておりました。このまったり粘着質の蜂蜜系濃厚オーケストラの魅力には抗しがたいが、ロンドン響との演奏もドキドキするほど美しく、洗練されておりました。オーケストラの響きが(良い意味で)カルいんですよ。

 ほとんどイン・テンポで、よけいな飾りを付けない表現は基本的に同じ。アンサンブルの集中力や緻密さはベルリン・フィルに負けないでしょ。でも、オーケストラの個性がまったく異なるのは当たり前で、ブーレーズもオーケストラに任せるようになりました。フルートも、オーボエなんかもっと顕著だけれど、ベルリン・フィルよりずっとスッキリ系の響きで、軽快です。弦も中低音が充実する独墺系とは当然違う。

 自ずとにじみ出る色気は存分だけれど、エッチな雰囲気がないのはオーケストラの個性でしょう。ワタシは1960年頃のモントゥー、クリップスとの全盛期録音を久々に連想してしまいました。嗚呼、幸せ。

 〜なんて思いつつ、デルヴォーのMDに変更してみると「おお!」という驚愕の世界有。いや、もうオーケストラの色が全く違って完全に「おフランス」している。

 ドナルド・キーンさんの本だったかな?「ムッシュ・オッテルゾー/マルセイユ響と小澤/ボストン響では、どちらがフランス音楽に相応しい音を出すのか」旨、書いていて、ようはするに「おクニものなんてまやかしだ」と言う趣旨だったと記憶しております。それはその通りなんだけど、このコンセール・コロンヌは特別だっせ。

 フルートがいかにもけだるくスケベェだし、ホルンのヴィヴラートはもう下半身が痺れます。お尻の穴が緩みます。これ以上の怪しげな音色は未経験。オーボエの薄っぺらい音(例の「ペーっ」といった感じ)もたまらない。弦の色づけ、ハープのアクセントがえも言われぬ雰囲気充満で、ホンワカ最高潮。ま、かなり古い録音だし(1960年頃?)EMIにしちゃマシなほうながら、そう優秀な録音とは言えんでしょ。

 少々の音のつぶれも苦にせず、臆面もなく絶頂を迎えて絶叫します。それも、ホンマに決まっていてテンポも微妙に揺れたり、走ったりする魅力横溢です。最高です。これはフランスの演歌なんです。節回しがあるんですよ。元ちとせに特有の節回しがあるように、おフランスにもきっとあるはずなんですよ。

 パリ管なんて、ミュンシュ以降、カラヤンとかショルティ、バレンボイム、ビシュコフ、こんどはエッシェンバッハ?なにを考えてるんだか。おクニ訛りは大切にしなきゃ。コンセール・コロンヌって、まだ健在なんですか?もう録音にしか残っていないローカルな記録なんでしょうか。(2002年6月15日)


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written by wabisuke hayashi