Beethoven ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」/第18番 変ホ長調/
第21番ハ長調「ヴァルトシュタイン」/第19番ト短調(アルフレッド・ブレンデル(p))


BRILLIANT 93761  35枚組総経費込5,400円ほど Beethoven

ピアノ・ソナタ
第17番ニ短調「テンペスト」
第18番 変ホ長調
第21番ハ長調「ヴァルトシュタイン」
第19番ト短調

アルフレッド・ブレンデル(p)

BRILLIANT 93761 35枚組 1962-64年録音

 ほんのこどもの頃から音楽を聴いてきて、じつは系統的に身についていないものはけっこうたくさんあります。例えばBeethovenの弦楽四重奏曲、そしてピアノ・ソナタ集、いくつか馴染みはあるけれど一曲ずつ集中して、馴染んで掌中に収めた手応えのある作品群に非ず、LP時代、CD時代、こうしてデータで聴くことも多くなった21世紀に至って、音源は入手済でも”ちょろ聴き”の粋を出ていないことを反省いたしましょう。LP時代はヴィルヘルム・バックハウスの立派なボックスを抱えていたものですよ、しかし、ほとんどどんな手応えだったか記憶もなし、それ以来一度も拝聴しておりません。

 ピアノ・ソナタ全集を三度に渡って録音したのはアルフレッド・ブレンデル(1931-)のみでしょう。最初の録音は懐かしいコロムビア・ダイヤモンド1000シリーズだったし、CD時代も(音質よろしからぬ)VOXにて数枚拝聴しておりました。メジャーになったPHILIPS以前の録音を集めた50枚組ボックス(BRILLIANT 93761)を入手したのが2009年頃?音質に改善有、との手応えはカンチガイだそうで、オーディオに造詣の深い人によると”あまり変わらない”とのこと。いずれ鑑賞に支障ない音質でしょう。苦手意識のあるピアノ・ソナタも聴けば必ず、知的興奮を感じるものです。今回の更新は、テレビドラマ「さよならドビュッシー」にて岬洋介が「テンペスト」の第3楽章「Allegretto」演奏して、哀しみ迸る無窮動に感銘があったため。名曲でっせ。

 第17番ニ短調「テンペスト」は指慣らしのような序奏から、終楽章同様の無窮動風旋律めまぐるしく、さらにMozart ピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457の冒頭主題によく似た上昇旋律も登場します。変幻自在、緩急をデリケートに上手くつけた劇的な第1楽章「Largo - Allegro」。第2楽章「Adagio」には落ち着いて、牧歌的なコラール風旋律+に低音の囁き(Wikiによるとティンパニ風とのこと)が時に絡みます。終楽章は先に書いた通り、哀しみ迸る無窮動〜これはBeethoven唯一無二の個性でしょう。

 作品を幾つも聴き比べる経験をしていないので、演奏云々不可。ブレンデルは知的な風情+万全なテクニックに裏打ちされ、瑞々しいタッチに溢れました。

 第18番 変ホ長調は第1楽章「Allegro」の開始、不安定に調性が確定せず、やがて晴れやかな〜Mozart風な〜明るい旋律が主役となりました。「Allegro」と云いつつ一筋縄ではいかぬテンポやら表情の陰影がみごとなもの。第2楽章「Scherzo, Allegretto vivace」は軽妙なスタッカートに充ちて快速、やや躊躇いもありつつ、やがてしっかりとした打鍵に躊躇ない確信を感じさるもの。第3楽章「Menuetto, Moderato e grazioso」Wikiによると”Beeやん最後のメヌエット”とのこと。音楽の革新者であるBeethovenもこんなオーソドックスに美しい旋律を作るのですね。

 終楽章「Presto con fuoco」ノリノリの付点リズムは陰影に充ちて、ユーモラスに快活でした。

 第21番ハ長調「ヴァルトシュタイン」。第1楽章「Allegro con brio」〜これでっせ、道路工事のドリル風。ブレンデルはご近所配慮してずいぶんと抑え気味なドリル(打楽器的な和音連打)であり、明るい表情のコラール旋律との比較も効果的な名曲!道路工事は断続的に続きます。第2楽章「Introduzione. Adagio molto」は静謐なモノローグっぽい暗鬱(わずか4分に足りない)そのままアタッカで終楽章「Rondo. Allegretto moderato - Prestissimo」颯爽として堂々たる主題は、いかにもBeethovenの個性であって、スケール大きく、幾度繰り返されてアツい世界を構築します。いくらでも煽れそうなところだけど、ここでもブレンデルは知的なバランスに響きを濁らせない。厳つい低音(Bach風か)+目まぐるしい高音の細かい音形は、いかにも超絶テクニック!

 第19番ト短調は「Andante」「Rondo. Allegro」の2楽章わずか7分ほどの小体な作品。メランコリックな出足も、すぐに変ロ長調の平易に明るい風情に入れ替わる第1楽章。なかなかフクザツな深さを感じますね。細かい音形が淡々とユーモラスな第2楽章、あっという間に終わりました。

(2016年3月21日)

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written by wabisuke hayashi