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LP泣き別れの記


 世代的に、ワタシはステレオLPとともに育ってきました。息子はLPを知識でしか知らないし、「小さい頃ウチにあった」だけで触ったこともないはず。LP一枚が月収の1/10だった時代は知りませんが、1970年頃には2,000円だった記憶があるので、いまのCDとそう変わりない金額であり、物価の変動を考えると信じられないくらい安くなっているのも事実。
 文化は大衆化こそ肝要と思っているので、多くの人々が気軽に「音楽媒体」を購入できるようになったのは喜ばしいことです。資本主義の原理や科学技術の進歩に乗っ取って、新しい媒体が出現します。SP→モノラルLP→ステレオLP→デジタル録音→CD→そして・・・?

 CDが市場を席巻したのは1985年くらいだったでしょうか。いつのまにやらレコード屋さんがCD屋さんへ。LPの媒体としての寿命は30年くらいだったとすれば、世の中のテンポが早まっているのでCDの寿命もそろそろかもしれません。

 社会人となってLPがわりと自由に買えるようになっても、こどもの頃の「LPを買う贅沢さ」の気持ちは変わりませんでした。美しいデザインのジャケット、あの独特の香り(レーベルによって異なった)、何十年と鍛えた取り扱いの妙技(レーベル面と縁を押さえて、トレース部分には絶対に手を触れない)、冬になると静電気が埃を呼びやすく、クリーナーの使い方にも工夫が必要、針の交換時期をときどき検討する・・・想い出はつきません。

 LPはもうないのでイモの写真世の中がいっせいにCDへと流れ始めたころ、LPは中古市場へと投げ売り状態で出回りました。ワタシは喜んで買い漁ったものです。(のち相場は上がってくる)一時は小遣いのほとんどをLPに費やしていた時期もあります。というのも「セットもの」が激安で手に入ったためで、「10枚組5,000円」なんてのもザラでした。
 ながらくどこかのお宅で眠っていたであろうコンサート・ホール・ソサエティの10枚組(なぜかすべてモノラルだった)とか、エンジェルの赤盤10枚組(当時は無名だったシルヴェストリの「幻想」とか、コリンズのモーツァルトetc)、ロシアの当時新進気鋭だったピアニスト達のセット(スロボジャニック、イェレシュコ等々)、いまでいうチェスキーの優秀録音(当時はリーダーズ・ダイジェスト)のセットもの、掘り出し物がいくらでもあったのです。京都、大阪、神戸の中古屋さんは隅々まで廻りましたし、東京の出張時にはお茶の水辺りも覗いていました。
 出始めの頃は、CDもCDプレーヤーも高価で手が出なかったのです。

 1990年代にはいるとCDプレーヤーも急激に安くなり、逆にレコード針が手に入りにくくなってきました。カートリッジの型番を指定して通販で買っていましたが、ある日「もうその型番の針はないので、このカートリッジをあげる」と、針ごと送ってくれたのには驚くやら、感動するやら。(もう商売の水準じゃないですよね)
 CDも海賊廉価盤や、円高の進行による激安輸入CDの登場で「LP一筋」だったワタシも動揺してきました。

 もういつの日のことかも忘れましたが、決定的な事件・・・お気に入りだったコンドラシンのショスタコヴィッチ交響曲全集の第2番に「キズ」を付けてしまった・・・・が発生し、「もうLPは贅沢品になってしまった」と判断、レコ芸に「なんでも一枚600円処分」の広告を出しました。

* その後、息子の小さな頃の写真が出てきて、そのバックにLPが写っていたことから記憶が蘇りました。1992年には、かなりのLPの処分を終えながらも相当残っており、CDもかなりの量ラックにのっておりました。1992年か93年にLPを最終的に処分したようです。

 いま考えれば3,000枚くらいあったと思うのですが、ガンガン電話が入ってほとんど売れてしまいました。少し残ったものも「取りに来られる人にプレーヤーをあげる」という呼びかけに、自宅までいらっしゃった年輩の方に全部あげてしまいました。
 1990年頃だったか?と思いますが、それ以来、LPはいちども聴いておりません。「どうしても」愛着のあるLPはDATに録音してあります。

 そのあとは怒濤の激安CD三昧。でも、わたしの貧弱なオーディオのせいもあるかもしれませんが、どう考えてもLPのほうが音は良かった。「良かった」というか、聴き疲れしなかったと思うのです。そして現在、LP時代のコレクションをCDで集めている自分を発見します。

 中古屋さんに行くとLPが売っていて、たいていの店でその1/4くらいはジャケットも含めて馴染みのあるもの。旧い日本コンサート・ホールのLPなんか見つけたら心乱れます。電気屋さんに行くとレコード・プレーヤーもちゃんと売っている。ちょっとしたブームみたいですね。
 でもワタシはLPにはもう手は出しません。じつはCDRを買って、パソコンでLPから自分用のCDを作ることも考えたんですけどね、止めました。やはり、それは贅沢な趣味であって、「音楽をたくさん楽しむ」ということとは一線を画すと思うのです。青春の初恋はもう戻りません。

 たしか中学2年生のクリスマスに、リヒターのブランデンブルク協奏曲の西ドイツ直輸入盤を買ってもらいました。ベージュの布張でワタシの宝物でした。銀色のレーベルも素敵だった。素晴らしく生き生きとした演奏であり、録音だったはずです。
 「大人になったら、もっと上質なオーディオで、ガラスのテーブルでコーヒーを飲みながら、このLPをゆっくり聴こう」というのが、ワタシの夢だったのです。夢は寸分違わず実現しました。コーヒーは当時知らなかったレギュラー・コーヒーを豆から自分で挽いたもの。

 その気持ちは一生失いたくない。音楽に対する神聖な思いは持ち続けたい。

 リヒターのブランデンブルク協奏曲は、LP売却後聴いておりません。(この文書執筆後5年ほどして再聴いたしました)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi