Wagner 「リエンツィ」「さまよえるオランダ人」序曲/ジークフリート牧歌/
「ローエングリン」前奏曲(クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィル)


MCA	MCAD2-9811-A Wagner

歌劇「リエンツィ」序曲
歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
ジークフリート牧歌
楽劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー

MCA MCAD2-9811-A 1963年録音 150円(中古)

 ほんの子供の頃、「さまよえるオランダ人」序曲/「ローエングリン」前奏曲が裏表になった17cmLPを所有しておりました(おそらく当時600円!)。もしかして、社会人になってからLP2枚分を購入していたかもしれない(記憶曖昧)。いずれ、残響も奥行きもない乾いた劣悪音質、流麗とはほど遠いヘタクソ演奏に驚き呆れた記憶ばかりであります。やがて幾星霜、人生の荒波に流され、もまれ、このCDに出会ったのが2006年5月16日新宿DU・・・とのメモが残っておりました。

 子供の頃の記憶力、集中力は驚くべきもので、ワタシの基本的嗜好はほぼその時期に確立しております。英国音楽好きだって「グリーンスリーヴス」がルーツですから。Mahler だって、ワルター/コロムビア交響楽団の「巨人」が刷り込みなんです。久々の邂逅印象は、まず音質がマシ、ということ。昔聴いた17cmLPの音質が酷すぎたのか、もともとがこの程度であったのか、いずれちゃんと聴ける水準であります。優秀録音とは言えぬが。

 オーケストラの響きが素朴、牧歌的であること(あまり上手いオーケストラじゃない)。リズムが重いというか、たどたどしい歩みがあって、まことに耳あたりが悪い。細部アンサンブルの縦線をきっちり合わせようと意欲は元よりないようで、ひたすら悠々たる巨魁な流れが、重々しくうねる演奏であります。スタイリッシュとかカッコ良さとはほど遠いものがあって、ま、他のクナッパーツブッシュ演奏を聴いても印象は変わらないから、これがスタイルなんでしょう。

 「リエンツィ」から始まって、その雑然としたアンサンブルに最初戸惑いつつ、やがて「オランダ人」に至って耳慣れ、怒濤の迫力にココロ奪われました。噛み締めるようなテンポのタメがあって、アンサンブルの磨き上げ云々するのは空しい行為と自覚いたします。ミュンヘン・フィルは明るく、暖かく、重苦しくないサウンドで鳴っております。

 「ジークフリート牧歌」は絶品。ま、一般に遅いテンポの人だけど、ここではさらりと、そっと繊細に音楽は流れます。あくまで素朴さは失わない、甘すぎたり、雰囲気で聴かせるワケじゃない。誠実に、丁寧に歌うんです。まさにこの作品のヴェリ・ベスト。

 この「ローエングリン」前奏曲は、ワタシが子供の頃には理解できないものでした。どれがどれだか主題が見えない、天使の囁きのような弦の旋律がキレイに絡み合わない、ついにやってくる官能の爆発が有機的に導かれない・・・といった記憶だったはずが、たった今現在の耳では、それはすべて充足されている不思議。ここでも特別にテンポが遅かったり、粘ったりせず、自然な流れが揺れて呼吸しております。

 素っ気なく、表面は磨かれないが、粗削りな美しさに溢れます。金管楽器は時に乱れる(それも粗野な味わいが悪くない)が、弦の清涼な歌は賞賛されるべき水準でしょう。

 子供の頃の記憶はいったいなんだったのか。 

(2008年11月28日)

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written by wabisuke hayashi