Villa-Lobos 「ブラジル風バッハ」第1−3番(アンドルー・モグレリア
ケネス・スカーマーホーン/ナッシュビル交響楽団)


NAXOS 8557460/3枚組 Villa-Lobos

ブラジル風バッハ第1番(8本のチェロのため)
アンドルー・モグレリア/ナッシュヴィル交響楽団チェロ・セクション

ブラジル風バッハ第2番 「カイピラの小さな汽車」(室内オーケストラのための)
ブラジル風バッハ第3番(ピアノと管弦楽のための)
ホセ・フェガーリ(p)/ケネス・スカーマーホーン/ナッシュビル交響楽団

NAXOS 8.557460 2004-2005年録音

 多作家であったHeitor Villa-Lobos (1887ー1959伯剌西爾)の作品は機会があれば聴くようにしていて、その土俗的哀愁の旋律、濃厚濃密高温多湿なリズムにたいてい魅了されるもの。Bachianas Brasileirasは彼の代表作。種々の楽器や声楽の組み合わせ、伯剌西爾の民族的旋律とBachの様式を融合している(らしい)9つの作品集、CD3枚分中これは1枚目。ソプラノとチェロ8本による第5番が一番有名でしょう。

 ほとんど知名度のないKenneth Schermerhorn(1929ー2005亜米利加)は、テネシー州ナッシュヴィル交響楽団のホールには彼の名を冠したほど、地元では敬愛されたそうです。(1983−2004年在任)第1番のみアンドルー・モグレリアが担当しているのは、録音途中で逝去してしまったからでしょう。残念。香港フィルとの「ショーロ」も以前聴いておりました。

 第1番(8本のチェロのため)は、序奏(Introducao: Embolada)ー前奏曲(Preludio: Modinha)ーフーガ(対話 Fuga: Conversa)。チェロ8本のみとは思えぬ軽快ノリノリなリズム感と色彩、官能あふれる旋律が魅惑の陰影、南米風情にわかりやすい序奏(8:03)。詠嘆に懐かしくもしっとり切なく、ゆったり歌う前奏曲(7:12)。ちょっぴりGriegの「二つの悲しい旋律」を連想いたしました。「フーガ」がBachにインスパイアされたということかな?例の民族的旋律素材のまま、音楽の構えはバロック風であります。(4:34)

 第2番(室内オーケストラのための)は、前奏曲(O Canto do Capadocio ならず者の唄) -アリア(O Canto da Nossa Terra 祖国の唄)ー踊り(Lembranca do Sertao 藪の思い出)ートッカータ(O Trenzinho do Caipira カイピラの小さな汽車)。前作とは打って変わってサクソフォーンのエッチな音色も遣る瀬ない、冒険活劇映画音楽風に始まる前奏曲。それはアマゾンの密林を舞台にしたロマンスが絡む・・・みたいに甘く濃密に妖しく始まり、やがて中間部に軽快なリズムが物語の展開を予感させます。(7:11)悲劇的にスケールの大きなアリアはチェロ・ソロが朗々雄弁と歌って、Villa-Lobosはこの楽器が好きなんでしょう。ゆったりと纏綿な風情に再びエッチなサキソフォーン乱入!して不安な事件を予感させる切ないスケールへ。(5:50)踊りの主題はトローンボーン、これも妙に濃密な感じ。ちょっと激しい嵐のような音楽。(4:52)「トッカータ」というのがBachへの敬意なのか、ここが有名な「カイピラの小さな汽車」単独で演奏されることもありますね。Honnegerの「パシフィック231」と並ぶ”機関車”描写音楽の傑作!瑞西の鉄道に非ず、こちら南米の密林を駆け抜ける、安っぽい山岳鉄道の雰囲気最高、車輪のリズム(各種打楽器)調子外れな汽笛連続、楽しさ抜群でっせ。(4:26)低音響く大太鼓はなにを表現しているのか。

 第3番は30分に及ぶピアノ協奏曲。Jose Feghali(1961-2014伯剌西爾)は初めて聞く名前でした。前奏曲(Ponteio ポンテイオ) ー幻想曲(Devaneio 脱線)ーアリア(Modinha モディーニャ) -トッカータ(Picapau きつつき) 。Rchamaninov風でもあり、ワルソー・コンチェルトにも似てスケール大きい劇的なもの。例の如く切なく甘い前奏曲はキラキラ輝くよう、それはピアノという楽器の個性か?端正でもあります。(8:28)幻想曲は題名とはちょいとイメージが違って、輝かしい濃密な表情にしっかりとした足取り、力強い音楽、オーケストラの詠嘆が雄大な風景を感じさせる中間部、イングリッシュ・ホルンのソロも美しい。旋律の甘さは「アランフェス」ばり、オーケストラとピアノの掛け合いがちょっぴりバロック風か。(7:08)アリアは緩徐楽章でしょう。深く沈溺するピアノは秘めたる情熱を感じさせ、旋律はシンプルにわかりやすく平易、やがてしっかり盛り上がります。(8:30)ラストトッカータは楽しげな舞曲風。もともとの意味は”速い走句(パッセージ)や細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲”なんだそう。まさにその通り、フィナーレに相応しい疾走感のある躍動音楽であります。(6:51)

 もともとの作品がそうなのか、この録音の個性なのか、ピアノ前面、伴奏がやや引っ込んでいるように感じました。

 音質は極上。ナッシュビル交響楽団の技量に不満を感じさせません。演奏云々するほどの聴手に非ず、たっぷり、存分に堪能いたしました。

(2020年4月25日)

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written by wabisuke hayashi