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田坂さんからのメール〜ヴィットールド・ロヴィツキとジョルジュ・ジョルジェスク

田坂さん,お手紙ありがとう


 はじめまして、田坂と申します。

 私もかなりひねくれており、カラヤン、オザワには興味なし。 変な指揮者(一般的には変でも、俺には全然変じゃない)の演奏ばかり集めてま す。 自ずとレーベルも怪しいとこばかりで、グラモフォンやデッカといった王道は少 ないです・・・・。

(ワタシの反論) お便りありがとうございます。

 まず「反論」。私もかなりひねくれており・・・・・の「も」は気に食わない、ワ タシは実にまっとうな好みと思っているのですが・・・(誰も思わないか?)

 最近、私がよく聴く指揮者は2人。 ヴィットールド・ロヴィツキとジョルジュ・ジョルジェスク。

 ロヴィツキはワルシャワ・フィルを育てた人として、また、何度か来日もしてい るので、知っている人は知っていますよねえ。
 彼の演奏では、ショスタコーヴィチの第5交響曲が名高く、現在国内で彼の現役 盤はこれくらいしか無いでしょう。
 しかーし、私が今、はまっているのは、ブラームスの交響曲全集です。 もちろん、オーケストラはワルシャワ・フィル。 1番から4番まで、どれも強靱な響きと随所にちりばめられた濃い個性で、聞き 応え満点です。 通り一遍の演奏に飽きた盤鬼には、自信をもっておすすめします。 ただ、あまりに凝縮された、火の玉みたいな強い響きは、体調の良い時でないと ついて行けないかもしれませんが・・・・。

 もう一人、ジョルジュ・ジョルジェスクですが、この人は最近再評価の動きが無 いわけではないですが、まあ、ほとんど知られてませんねえ。

 ルーマニアの人で、特に強烈な個性派というわけでもなかったですし、1960 年代に亡くなったので、完全に忘れられてしまったのでしょう・・・・。 みんな、思い出したれよ!! かわいそうやんけー!  R・シュトラウスの親友で、ニキッシュの愛弟子という、環境的には恵まれた人 だったようですが・・・・。 でも、チェロ奏者だったのが、身体的な理由(何かの病気かな? 詳細は分かり ません)で、チェロが弾けなくなり、R・シュトラウスのすすめで指揮者に転 向、ニキッシュのもとで研鑽を積んだといった経緯なので、ある意味、ここでも かわいそう・・・・。

 そんなジョルジェスクのおすすめ盤は、ベートーヴェン交響曲全集。
 誰の耳にも明らかな個性の刻印は無いものの、注意深く聴けば、細部にまで心を 込めて処理しているのが、すばらしいです。第9はルーマニア語なので、ちょっ と違和感がありますが・・・・。
 シューリヒトやモントゥーよりはオーソドックスで骨太ですが、決して鈍いとい うものではなく、肩のこらない緊張感が持続しています。 あくまで、ジョルジェスクの音楽が鳴っています。隅々まで。 誰が聴いても違和感なく受け入れられ、聞き込めば聞き込むほど、味が濃くなっ て行きます。
 こういった芸風がなくなりつつある今、もっと聴かれてもいい指揮者だと思うの ですが・・・・。

 ロヴィツキ、ジョルジェスク共に、例によってイタリアやフランスの怪しいレー ベルでたまに目にしますので、ぜひ一度、お聴きになって下さい。


(わたしより)

 ロヴィツキはここ最近CDが並んでましたね。CD過疎地の岡山でも見かけましたが、いかんせん価 格が高い。じつはワタシも欲しかったところ。

 LP時代は、件のショスタコ5番、チャイコの「白鳥の湖」(激遅)、ポーランド放 響とのベートーヴェンの7番(ヘリオドール)を所有しておりました。ところがCD時 代になると、廉価盤に(さえ)登場しない。WSOってじつに鳴らないオーケストラで、もう、 たまりませんね。とくにブラームスは聴きたかったところ。

 ジョルジュ・ジョルジェスクは知りませんでした。名前さえ知りません。見たこと もありません。Beeやんの全集さえ出ているとは恐ろしい。まだ世の中は奥深い。


(更に詳細をいただきました。せっかくのメールの臨場感が薄れますので、そのまま追加します)

「隠れた実力派指揮者」

 とびきりの実力を持ちながらも、今では殆ど忘れ去られてしまった指揮者。
けっこうたくさん居るでしょうが、そんな類の人で、今わたしがはまっているのが、 ヴィットールド・ロヴィツキとジョルジュ・ジョルジェスクの2人。

 まずロヴィツキですが、この人はワルシャワ・フィルを育てた人として、また、数度 の 来日公演も行っているので、古くからのファンは御存じの方も多いでしょう。 しかし、日本での現役盤はショスタコーヴィチの第5交響曲が1枚かろうじてあるく ら いで、忘れ去られたといっても過言ではありません。
そんな彼の演奏で、私がいま集中的に聴いているのは、ブラームス。 フランスのDANTEというレーベル盤が交響曲全集というかたちで出しています。

録音状態はあまり良くありませんが、4曲とも強靱な響きがすばらしく、スピーカー か ら火の玉が飛んできそうで、興奮させられました。

あまりに凝縮しすぎて、響きが拡がらないきらいもありますが、決して機械的な無味 乾燥なものではなく、土俗的な濃い味付けが随所にちりばめられ、通り一遍の演奏 に物足りなさを感じる方には、かなりおすすめできます。

同じくDANTEレーベルから、ベートーヴェンやハイドン、ムソルグスキーなどの名曲 を集めた「ヴィットールド・ロヴィツキの遺産」と題されたCDセットも出ています ので、 そちらも一聴の価値ありです。

 もう一人、ジョルジュ・ジョルジェスクですが、こちらは全く聞いたことのない名前 だと 思う方がほとんどだと思います。
1964年に亡くなっているし、レコードもまず見かけないので、当然かもしれませ んが。

ルーマニアの人で、最初、四重奏団でチェロ奏者をしていたようですが、38歳のと き に何かの病気になったらしく、チェロ演奏が不能となり、親友であったR・シュトラ ウス の勧めで指揮者に転向、ニッキシュの下で研鑽を積み、ベルリンでの指揮者デビュー を成功させた(1918年)という経歴をもちます。

以後、ルーマニアに戻り、ブカレスト・ジョルジュ・エネスコ・フィルハーモニー管 弦楽団 を設立し、エネスコは勿論、コルトー、リパッティー、ティボー、カザルス、バック ハウス、 ケンプ、オイストラフ、リヒテルといった、錚々たる演奏家と競演、国際的にも活躍 を始 めます。
しかし、没後いつの間にか忘れられてしまったのが謎です。んー、何ででしょう・・ ・・?

確かに、際だった個性や強烈さはありませんが、その演奏はケレン味のない、骨太で しっかりしたものです。

特にベートーヴェンなどは、オーソドックスではあるが、よく聴くと細部にはあたた かく血 の通った個性がみられ、肩のこらない緊張感が持続しており、誰にでも安心して薦め ら れる名演だと思います。

イタリアのARLという怪しげなレーベルから数枚、CDが出ています。 録音状態はどれもひどいですが、是非、見つけだして、再評価したい人です。

(2000年5月3日更新)


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田坂さん、お便りありがとう
written by wabisuke hayashi