Beethoven/Brahms ヴァイオリン協奏曲(ヨゼフ・シゲティ)


Beethoven

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61
ドラティ/ロンドン交響楽団(1961年録音)

Brahms

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77
メンゲス/ロンドン交響楽団(1959年録音)

シゲティ(v)(もともとPHILIPS)

 これ、エア・チェックとはいっても、珍しくもなんともない、オールド・ファン系のひとにはよく知られた演奏。ワタシ、この演奏はもちろんLP時代からお気に入りでした。安く出てくれなくて、カセットのエア・チェック音源を大切に保存しておりました。この度、5年ぶりくらいにMD化すべく聴いてみると、痺れました。染みました。もうダメ。

 せっかくの短い夏休み、一発大物(例えば「リング」全曲なんか〜スワロフスキーので)とか、難解破壊的な現代音楽なんかを制覇しようか、などという野望も費えて、「顔見知り」に走る安易さ。もともとお気に入りの2曲だけど、最近、ヌヴーの2枚組を買いましてね(MUSIC & ARTS CD9837)Beethoven(1949年ロスバウト)、Brahms (1949年ドラティ)は、ウワサ通りの爽やかな色気に溢れていました。

 で、やはり思い出すのはシゲティ晩年の録音。ダンボールの底で眠っていましたよ。もともとの録音も上質なステレオ、エア・チェックも上手く行っていて、保存状態良好。当時のLSOはモントゥー時代で、絶好調。もう、技術的にはヨロヨロ〜指も回らない〜のシゲティ爺さんの至芸が聴けます。いったいこの演奏はなんなんだ?どういうマジック?

 1892年生まれ。もともと流麗なテクニックとか、水の滴るような美音を売り物にしていた人ではないし、この録音をしたときには70歳近くでしょ。ま、ナタン・ミルシテインみたいな凄い人もタマにはいるが、こんなもんだと思います。メニューインがケンぺ/ベルリン・フィルと録音したBrahms があるでしょ?あの演奏も、技術的に相当厳しくて、聴いていてツライ演奏でした。音色が汚いのが気になったもの。でもね、シゲティのは違う。聴いていて、熱いものがこみあげてくる。力が入る。

 「ヴァイオリンの美しい音色」ってなんでしょうか。粒が揃っていて、ヴィヴラートも爽やかに、滑らかで、濁りのない音色か。この演奏、もう腕の筋肉が衰えているのか、力強い響きは期待できないけれど、抜いたところの歌が自然で、旋律の神髄〜ひとつひとつの音〜を大切に、心から感じ入って弾いています。シゲティの演奏を聴いていると、いつもヤバイんです。「真実の美とは」「本当のテクニックとは」を感じさせて、呆然となってしまう。両曲とも、とくに第2楽章がいい。陶酔します。

 有名な管弦楽の録音、しかも最新の優秀な録音を聴いていて、「上手すぎる」と思うことがあります。安易に音が出過ぎて、耳に快すぎてなにも残らない。通り過ぎるだけ。「精神性」なんていってしまうと、もうおしまいで、演奏云々を人々と語り合うことを拒否してしまう結末かも。でも、この演奏絶対に、なにか、が存在する。(もしかして昨今話題の「ヘタウマ」系?)。

 アマオケにおける、燃えるようなな誠実な演奏に一脈通じるのかも。「最近の若手はテクニックばかりで、味わいがなくなった」みたいな(一方的な、非建設的な)論議には与するつもりもありません。自分の審美眼が問われているかのような、聴き手を真摯な思いに誘う演奏。シゲティは、同世代の現代作品もたくさん取り上げていて、いわゆる古典的なものばかりやっていた人じゃないんです。もっと、幅広く音楽の可能性を考え、訴えてきた〜その思いがこの演奏には反映しているはず。


 なんか、訳の分からん文書で申し訳ない。一言で言うと、「技術的にはヤバイが、なにかとてつもない深さがある」ということです。エア・チェックのカセットはいくつか出てきて、Bach の「無伴奏」全曲(これ、この人の十八番)、Mozart のヴァイオリン・ソナタ3曲ほど、シューベルトも3曲ほど、タルティーニのヴァイオリン協奏曲ニ短調、ストラヴィンスキー、プロコヴィエフなど。やはり、相対的に若い頃のほうが技術的には安定していて、彼の個性はわかりやすい。

 CDは意外と手に入りにくいかも知れません。FIC inc.(海賊盤) ANC-1005Cで「ヨーゼフ・シゲティ」というのがあって、1927年から1961年までの演奏が〜細切れながら〜聴けます。500円くらいですから、目にしたら買うことをお勧めします。(2000年8月18日)


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written by wabisuke hayashi