Stravinsky 「兵士の物語」
(英語版/エマニュエル・ヴァーディ/カップ・シンフォニエッタ)


MCA MCAD2-9820A Stravinsky

「兵士の物語」(英語版)

エマニュエル・ヴァーディ/カップ・シンフォニエッタ
ジャック・マーゴリーズ(v)/セオドア・ワイス(tp)/ルーベン・ジャヴィッツ(b)/チャールズ・スモール(tb)/ウォーター・ルイス(cl)/ローレン・グリックマン(fg)/ブラッドリー・スピニー(打楽器)
メルヴィン・ダグラス(ナレーター)/ジェームス・ミッチェル(兵士)/アルヴィン・エプスタイン(悪魔)

MCA MCAD2-9820A 1,000円

 「英語版」とエラそうに題名に書いたけれど、残念ながらワタシは日本語専任で数十年生きてきたため、結論的に「仏蘭西語版」でもなんでもいっしょです。数種のCDを所有しているが、粗筋をなんとなく知っていることと音楽旋律が馴染みである、ということだけ。なんだったら「台詞なし」でも、そう不自由はない。子供時代にストコフスキーのLPを聴いていて、自分の嗜好を決定付けた所以だともいます。このCDは既に入手困難でしょう。エマニュエル・ヴァーディはヴィオラの演奏家としてCDの存在を知っているが、はたして同一人物か?わかりません。

 筋書きは(いつものように)ネット検索でお世話になりましょう。

ある兵士が休暇で故郷の村に帰る途中、休んでヴァイオリンを弾いていると老人が現れる。老人は自分が持っている本とヴァイオリンとを交換しようと申し出る。その本で未来のことが分かるらしい。兵士は交換し、老人の家でヴァイオリンを教える。

 3日後、兵士は故郷へ戻ったが様子がおかしい。そこで、老人と過ごしたのは3日ではなく3年間だったことに気付き、婚約者は既に結婚していて、絶望した兵士は村を離れ、未来の分かる本を使って商売を始め大成功する。億万長者になった兵士だけれど、心は満たされない。虚しさを感じ、すべてを捨てて旅に出る・・・

 いくつもの国をまわり、ある国の王女が眠れず、食べられず、話すことができない病にかかっていることを知る。兵士は王女を治療して妻にしようと城へ向かうが、そこで同じ目的で来ていた本をくれた老人=悪魔に出会う。兵士はカルタ勝負し、悪魔は負けて動けなくなる。ヴァイオリンを取り返し、王女のために曲を弾く。これを聴いた王女は病が治り、兵士と結ばれる。しかし、このとき悪魔は、兵士がこの国から出たら災いとなる呪いをかけてしまう。

 幸せだった生活だったが、故郷を恋しく思った兵士は二人で出かけようとする。しかし、国境を越えた途端に災いが・・・

・・・「ファウスト」と「杜子春」と「浦島太郎」を混ぜたような筋書きですな。ヴァイオリンが魂なのか。

 編成はヴァイオリン、コントラバス、クラリネット、ファゴット、トランペット、トロンボーン、打楽器の7名であって、打楽器はトライアングル、タンバリン、スネアドラム(2種)、フィールドドラム(?)、バスドラム、シンバルをひとりでこなすという難物。室内楽編成だけれど、とてつもない変拍子の連続だそうで、指揮者必須です。1918年作曲者スイス亡命時(ロシア革命翌年)の作品であり、編成小さくして演奏機会を増やそう(第1次世界大戦中だし)という意図だったみたいですね。そんな作曲経緯関係なく、音楽の魅力は特筆すべきもの。

 「音楽の魅力は特筆すべき」と安易に書いたけれど、甘く優雅な旋律とか、大編成管弦楽の暴力的な大音響の圧倒!も存在しません。乾いて、素っ頓狂な旋律連続でして、常に醒めて、無感情無表情、どこかしこ”パロディ”っぽいシニカルなユーモア(これは打楽器の印象か)を感じさせます。「小さなコンサート」の混沌なる雑踏、続く「タンゴ」「ワルツ」「ラグタイム」・・・いずれも題名を確認して”にやり”とするほどデフォルメされ、怪しい音楽に変容しております。

 起承転結とか、”山場”とか”サビ”を期待するとはぐらかされますね。「The members of Kapp Sinfonietta」というのはもともと「米Kapp」というレーベル名の録音用の臨時団体だったのでしょう。セオドア・ワイス(tp)はストコフスキー盤にも参加していて、もしかしてこの作品のスペシャリストなのか。とにかく各パートはほとんど超絶技巧と呼びたいくらいの(ネット検索では出目探せないが)名手でスムースな演奏ぶり。ま、全員ソロですからね、誤魔化し一切効かないし。

 メルヴィン・ダグラスは、著名な俳優さんでしょう。重厚な語り口であり、渋い声質です。言語の詳細意味不明だけれど、雰囲気はしっかり伝わる・・・ような気にさせて下さいました。残響豊かで優秀録音。日本語による舞台上演もあるようだけれど、逆に(筋書き的に)そうとうに難解なんじゃないでしょうか。筋書き意味合いともかく、英語、フランス語、各々が持つ響きの声優たちも音楽の一部として楽しんだものです。

(2007年7月15日)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi