Sibelius ユモレスク/セレナーデ/バレエの情景、他
(ドン=スク・カン(v)/ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団)


BIS-CD-472 Sibelius

ユモレスク第1番ニ短調 作品87-1/第2番ニ長調 作品87-1/第3番ト短調 作品89a/第4番ト短調 作品89b/第5番 変ホ長調 作品89c/第6番ト短調 作品89d/2つのセレナード 作品69/2つの荘重な旋律 作品77/序曲ホ長調 JS145/バレエの情景 JS163

ドン=スク・カン(v)/ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団

BIS-CD-472 1989年録音

 Dong-Suk Kang (1954-)は母国・韓国、日本でも活躍するヴァイオリニストとのこと。十数年前、Elgarへのコメントが残っておりました。このCD2枚分しか聴いていないけれどElgarとかSibelius、デーハー華やかな作品より、鬱蒼として内省的なものが似合っているでしょうか。Sibeliusのユモレスクはヴァイオリン協奏曲に負けぬほどの名曲と思うけど(自分の知る限り)あまり録音を見掛けません。ほか、カヴァコスとかネーメ・ヤルヴィDGへの再録音シリーズにイリア・グリンゴルツが録音していたくらい。マニアックなアーロン・ロザンドを忘れておりました)humoresqueとは「気まぐれでユーモアのある器楽曲」とのこと。

華やかきらきらなヴァイオリンに非ず、技巧に不足はなくて、むしろ叙情的な味わいが身上なのでしょう。内省的ジミ目な旋律ばかり、これだけ揃えたCDって他にありましたっけ。美しい、繊細なテイストが続いても陰々滅々とした風情に、聴き手は遣る瀬ない気持ちに至るのは必定です。

「序曲ホ長調」/「バレエの情景」は颯爽としてカッコ良い、父ヤルヴィ面目躍如とした充実したアンサンブルでした。(2016年1月「音楽日誌」より)

 ユモレスクは各々3-4分ほどの愉しい弦楽伴奏による小曲集、もともとヴァイオリニスト志望であった作曲者らしい、小味でもかなり技巧的な細かいパッセージが続いて、どれもほの暗く寂しげ、そして”気まぐれでユーモア”たっぷり旋律が美しく、静かに胸に染み入るもの。ドン=スク・カンのヴァイオリンは上記印象通り、技術的な不足を感じさせないのは当たり前、キンキラ華やかな音色に非ず、繊細しっとり地味めな音色が北欧の鬱蒼とした風情に似つかわしいでしょう。彼の姿勢は”ユーモア”というより端正清潔、リズムもきっちりとして、細部曖昧さのないもの。ネーメ・ヤルヴィ(在任1982ー2004)時代のオーケストラは親密なサポートぶりが期待通り。BIS自慢の臨場感たっぷりな音質も良好。

 セレナードに入ると管楽器+ティパンニも入って、音楽の構えは大きくなります。ヴァイオリン・ソロは引き続きドン=スク・カン、ほの暗く、不安げな旋律はSibeliusの個性横溢、劇性に変化のあるもの。この辺り、独墺系音楽とは話法が異なって、難解に感じるかも知れません。第2番ト短調は付点の軽快なリズムが不安な曲想とアンマッチなのがいかにも個性的。主導は当たり前にネーメ・ヤルヴィ、知名度低いオーケストラを一躍有名にした手腕に納得できる洗練、みごとなアンサンブル。(2曲で13分ほど)

 2つの荘重な旋律 作品77は「雅歌」「デヴォーション(敬虔)」併せて9分弱、これも鬱蒼と暗く、ジミで不安げなサウンドやなぁ。ハープも入って神々しい雰囲気+ティンパニの長いトレモロが効果的にヴァイオリン・ソロを支えます。序曲ホ長調は打って変わって明るい憧憬に充ちて「カレリア組曲」をちょいと思い出させる管弦楽作品(10:51)。交響曲として当初企図された初期作品とのこと。「バレエの情景」も同様の経緯なんだそうです。ヤルヴィらしい、ヴィヴィッドに歌うステキな作品、演奏であります。もう後年の民族的な風情が顔を出しておりました。(8:12)

(2018年4月9日)

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written by wabisuke hayashi