Schumann 「クライスレリアーナ」「子供のための三つのソナタ」
(イエルク・デムス(p))


DOCUMENTS 231752 1960年代後半録音 13枚組1,962円

Schumann

クライスレリアーナ 作品16
子供のための三つのソナタ 作品118

イエルク・デムス(p)

DOCUMENTS 231752 1960年代後半録音 13枚組1,962円

 音楽をもっと安く!大衆のものに!と叫んできた【♪ KechiKechi Classics ♪】も、ほとんど意味を為さなくなった今日この頃の廉価盤状況であります。(原油/物流費/円安?状況で輸入盤相場はちょっとだけ上がり気味だけれど)もとより、かなり旧い既存音源を使い回せる(新たな投資を必要としない)クラシック音楽ではCDの価格崩壊は予測できたことでしょう。(現役音楽家にはまことに申し訳ない)このボックスは2007年末通販にて購入@150也。よく利用するオークションでは、慌ててNuovoEraの旧盤を一枚1,000円程で処分しているのを目撃いたしました。1989年に出たときには定価弐萬円くらいだったそう。諸行無常。

 デムスは日本でお馴染み(ことし2008年も来てまっせぇ、元気に)だし、1980年代(当時熱心に聴いていた)FM放送で馴染みでした〜が、あまり感心できなかった記憶有。Schumannのピアノ作品はお気に入りでして、機会あるたびに少しずつ(様々なる演奏家で)集めて楽しんでいたものです。で、このボックス出現でしょう。作品はまず、音に出して味わってみないと、というのが鉄則です。「子供のための三つのソナタ」作品118は初耳でした。

 Schumannの旋律って、胸が潰れるくらい変幻自在気儘で素敵だと思います。「クライスレリアーナ」は、初耳の時(ルービンシュタインであった)から一発でお気に入り作品に。凝りに凝った旋律味わいの変化連続して、ドキドキしちゃう25分。

 ま、シロウト耳にもそうとうなる難曲っぽくて、研ぎ澄まされた技巧が要求されるのでしょう。棚中数曲の在庫CDでも、間違いなくその辺りの基本線はクリアされている・・・が、イエルク・デムスはもとより技巧をウリにする人じゃないけれど、当時46歳技巧の衰えを云々すべき年齢でもないでしょ。これが、所謂、”指運のキレ”を期待しちゃうとずいぶんと印象が異なります。とつとつとした”味わい系”であり、華やかさには欠ける・・・が、かつてFMで聴いた(記憶がある)「クセ」はないんです。

 ああ、ちょっとスカみたいな演奏かなぁ、と。でもね、その後、数回、ことある度に棚中よりご出馬機会が多いボックスであります。”胸が潰れるくらい変幻自在”ではなくて、もっと穏健派の、フツウの表現か。これが部屋に流れていると、けっこう気持ちがよろしい。こんな演奏こそが、じつは息長いのか。

 「子供のための三つのソナタ」作品118は、平易で素直シンプルな旋律だけれど、作品の魅力が少ないワケじゃないんです。第1番ト長調だって陰影豊かであって(第2楽章「主題と変奏」の味わい深いほの暗さ最高!ほんの2分間の宇宙也)安寧が広がりました。第2番ニ長調だって、第3楽章はまるで「子守歌」の安らぎがある。終楽章には無垢な躍動有。

 第3番ハ長調は、出発進行!みたいな明るい旋律から、やはり陰が生じるんです。「子供のための」というくらいだから、技巧にはきっとムリがなくて、指の幅もあまり必要ないように作られているんだろうが、Schumannらしい”甘さ”ちゃんとあります。デムスのピアノは、ちょっと指がもつれるようなところ散見されんでもないが、それは枝葉末節なこと。優しい眼差しのような味わい溢れました。

 音質は特筆するような凄いものではないけれど、しっとりと聴き疲れしないもの。

written by wabisuke hayashi