Schubert ピアノ5重奏曲イ長調「鱒」
(フェスティヴァル弦楽四重奏団/ヴィクター・バビン(p))


** Schibert

ピアノ五重奏曲イ長調D.667「鱒」

フェスティヴァル四重奏団
ヴィクター・バビン(p)/シモン・ゴールドベルク(v)/ウィリアム・プリムローズ(va)/ニコライ・グラウダン(vc)/スチュアート・サンキー(cb)

RCA Living Stereo 60CD Collections/CD1  LM/LSC-2147 RE 1957年録音

 世間がぼちぼちCD一辺倒になった1980年代後半、当時高価だったので手が出ませんでした。中古レコードが安かったなぁ、若くて元気で貧しかったからね。京都の中古屋さんとかあちこち回りましたよ、寺町の床が抜けそうなお店とか、木屋町辺りとか、それはとうに消えて思い出ばかり。やがてキリル・コンドラシンのShostakovich全集(LPだから巨大ボックス)中1枚を誤って傷つけてしまい、それをきっかけにLPをすべて諦めた(←20年前の文章)のは1994年だったと記憶します。やがて21世紀にCDは値が下がって似非金満中年(=ワシ)は山ほどCDを購って、謙虚さを失いました。挙げ句データ拝聴の時代がやってきて、それも処分する日々がやって来ようとは・・・人生因果応報(日本語の使い方が間違っているかも)このネタ【♪ KechiKechi Classics ♪】に千度使いました。

 ・・・そんな使い古された話題を思い出したのはフェスティヴァル弦楽四重奏団による「鱒」に再会したから。若い頃、ぼろぼろのジャケットにLP2枚組激安入手、記憶曖昧だけど弦楽四重奏曲第14番ニ短調 D810「死と乙女」(ザグレブ弦楽四重奏団)と一緒だったような?これはPHILIPS音源だから妙な組み合わせでしたよ、いま考えると。盤質も音質も良好、当時は先人の残した名曲は虚心に身につけようといった意欲がありました。でも「フェスティヴァル弦楽四重奏団」なんて、テキトーな名前の団体やな、安かったから仕方がない、そう思っておりました。

 やがて幾星霜を経、人生半分以上過ぎ去って出会った「RCA Living Stereo 60CD Collections」その一枚目にこの音源がありました。既にフェスティヴァル弦楽四重奏団は往年の名手揃いであったことには気づいて、日本でもお馴染みSzymon Goldberg(1909ー1993)、ヴィオラの名手William Primrose(1904ー1982)等が参加していたのですね。Victor Babin(1908ー1972)は露西亜出身のピアニスト、たしか現代音楽にも熱心だったはず。1957年の録音は立派なステレオ、現在の耳で聴いても現役の音質水準でした。

 もう30年程前?小さかった息子用のカセット(車中用童謡と一緒に収録)に第4楽章「AndantinoーAlelgretto」(「鱒」による変奏曲)も一緒に流しておりました。歌謡性に充ちた美しい旋律溢れ出る名曲中の名曲、あまり拝聴機会はないけれど、細部迄旋律はお馴染み、正直なところ誰の演奏でもかまわない。どんな演奏でもたいてい満足するのは出会いがよろしかったのか。いつ聴いても愉しく、美しい。コントラバスの存在が作品の幅を広げ、リズムにメリハリを付けていると思います。

 第1楽章「Allegro Vivace(快活に速く)」はまるで春の訪れを宣言するように明るく、朗らかに弾むような開始。音域の狭いピアノが可憐であり、寸分の陰りもない優雅な旋律の対話が続きます。ピアノも弾けぬ自分には無縁な話だけれど、これってあまり超絶技巧を披瀝!みたいな世界とは無縁なんじゃないかな?ご自宅で演奏して愉しむような音楽かと。(10:26)第2楽章「Andante(歩く速さで)」は平易、淡々として温かい風情、安寧に溢れた緩徐楽章であります。(7:49)

第3楽章「Scherzo Prest(急速に)」は喜びが吹き出すような快活な躍動でしょう。溌剌として力強くリズミカル、ここはコントラバスが効いております。(4:20)第4楽章「AndantinoーAlelgretto(Andanteより速くーやや快速に)」。シンプルな「鱒」の旋律は静かな開始。やがてピアノが輝かしく疾走、中低弦がそれを受け渡して、ピアノは更に動きを速めます。激情に充ちた短調へのちょっぴり暗転もアクセント、変奏曲はほんまド・シロウト(=ワシ)にはわかりやすいもの。ここは変化に富んで、Schubertの歌心いっぱいでした。(8:27)第5楽章「Allegro Guisto(正確な速さで)」。愉悦に充ちて、急激な変化もなく、わかりやすいフィナーレは意外と淡々として、ちょっぴり力強く優しい。終わったのかな?と思ったらまた繰り返してくださって、徐々にアツくなるのも一興。(6:52)

 バビンのピアノは暖かくもリリカル、弦の名人たちの饗宴になんの不満があるでしょう。若い頃LPで愉しんだ気分はそのまま蘇りました。これ以上のコメントは不可能です。

(2018年6月9日)

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written by wabisuke hayashi