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Satie ピアノ作品集 三種



 サティは好きですね。ピアノ作品では、Bach の厳格なる構成、天衣無縫なMozart は別格として、フランス音楽を聴く機会が多くてお気に入りなんです。どれも長くないのがよろしい。「3つのジムノペディ」で出会って、ほかの作品にも馴染んでいった、というありがちなパターンでした。濃密な官能があり、一方で無表情、無感情、無感動であり、無機的でもあり、リリカルでシニカル(曲名を見よ!)でもある。不思議な魅力テンコ盛り。

 「AKI PLAYS Satie」(EASTWORLD CC38-3111 1983年)〜高橋アキ昨年2004年に「AKI PLAYS Satie」(EASTWORLD CC38-3111)〜高橋アキ(p)(1983年)を購入しました。(p)1984となっていて当時の定価は@3,800(20年前か!)・・・それをBOOK・OFFで@250で購入した感慨はともかく、当時彼女はSatieのスペシャリストとして全曲演奏を既に実現していたし、その後録音もしたはずです。(現役CDかどうかは不明)収録曲は

5つのノクチュルヌ/最後から2番目の思想/金の粉/スポーツと気晴らし/びっくり箱/(犬のような)ぶよぶよした本当の前奏曲
 ちょっと収録がマニアックかな?(何枚目かのアルバムらしい)方向としては過度な思い入れもなく、むしろ淡々とした、それでいて自信と確信に充ちた世界だと思います。ほんわか妖しく聴かせようということではなく、しっかり腰が入って、明快に着実に表現される世界。走らない、流さない、抜かない。音にしっかりとした(重い)芯を、音間には静寂も感じさせます。これぞ正統派真正面表現か。

 「金の粉」って、懐かしいワルツなんです。これは若い頃を回想するような、思い出ワルツ風の切なさ〜そっと優しく、昔語りのような暖かさ。「スポーツと気晴らし」は、もうほとんど旋律らしい旋律がなくなって(調子外れの)機械仕掛けみたいな音楽。「ぶよぶよした〜」は不安げな世界が広がりました。

 オン・マイクで鮮明な録音だけれど、弱音、中低音域のふっくらクリアな味わいに比して、大音量部分や高音では(ほんの少し)音が割れ、響きがチープに広がって濁る場面が散見されます。(安物オーディオの責任か)デジタル録音の経験不足、CDそのものが媒体として初期だった時代の、仕上げの甘さ(全体として音がカタい)かも知れません。(ヘッドホンより、部屋に響かせたほうが気持ちよく聴けるようです)

 NAXOSはかつて、1990年キングより日本語解説+帯を付け1,450円(税込)で発売されておりました。ワタシが一番最初に出会(買)ったNAXOSが「Satie ピアノ名曲集」〜クララ・ケルメンディ(p)(8.550305 1989年)。「Satie ピアノ名曲集」〜クララ・ケルメンディ(p)(8.550305 1989年)もう十数年来のお付き合いとなりましたね。収録は

(犬のような)ぶよぶよした本当の前奏曲/童話音楽の献立/絵に描いたような子供らしさ/でぶっちょ木製人形へのスケットとからかい/あらゆる意味にでっち上げられた終章/自動記述/乾からびた胎児/3つのジムノペディ/パッサカリア/1906-13年の間の6つの小品/ラグ=タイム・バラード
 選曲も有名どころを揃えて、音質も演奏も文句なし。やや早めのテンポで、サラリ達者な技巧です。細部弾き流しているわけではないが、細かいニュアンスがあちこち散りばめられていて、ゆらゆら(頼りないほど)揺れて小粋な味わいがある。こうして続けて聴くと、高橋さんって硬派だったんだな、と理解できますね。日常聴きにはこちらのほうが、ずっと耳あたりがよろしいでしょう。透明クールな音色が魅力です。

 自然な残響と奥行きがあって、優秀録音。15年もお付き合いしているから、どこを取り出しても馴染みの旋律、といった安心感もあります。「自動記述」辺りが例の如しの無機的音楽であって、(もっとも有名な)「ジムノペディ」は官能派の代表となります。ワザとすっきり、そっと流したような演奏でして、胸の内を擽る甘い苦悩を余すところなく表現してくださいました。

 「聴きたくてサティ」(BELART EJC 2011 1977年)〜ラインベルト・デ・レーウ(p) @250つい先日、五反田BOOK・OFFの非・クラシック音楽売り場で入手したもの。「聴きたくてサティ」〜ラインベルト・デ・レーウ(p)+クセニア・クノーレ(p)(BELARTE EJC 2011 1977年)。PHILIPS原盤。収録は

3つのジムノペディ/6つのグノシェンス/おまえが欲しい/冷たい小品集(逃げ出したくなる歌3曲、ゆがんだ踊り3曲)/オジーブT/バラ十字教団のファンファーレ(教団の歌)/舞踏のための小序曲/天国の英雄的な門への前奏曲
 陳腐な副題が付いてはいるが、演奏は極上。遅いテンポ、ひとつひとつの音符の「間」とか「余韻」を味わってください。ひんやりと静謐なる空気を湛(たた)えた、漆黒の闇を感じさせる表現。「3つのジムノペディ/6つのグノシェンス」辺りはSatieの代表作品だろうが、これほどの気品を感じさせる演奏はそうザラにあるものではない。ケルメンディ盤との優劣は安易に論じられないが、「ジムノペディ」は7分強に対して、デ・レーウは15分を越えます。「グノシェンヌ」だって14分ほど(ケルメンディ)と21分(デ・レーウ)という驚くべき差異。

 明らかにスタインウェイ系ではない、やわらかくデリケートな響き。聴き手を遣る瀬なくも、妖しい気分へと誘います。「冷たい小品集」など、選曲もその方向を助長させるものになっていて、安易な「癒し系」(これも陳腐な言葉だ)ではない。しっかり一枚分聴いていると、Beethoven の前向きな闘争!みたいな音楽がどんどん縁遠くなっていくんです。

 「おまえが欲しい」のみ、クセニア・クノーレの演奏となります。ちょうど全体の真ん中に配置され、このゆらゆらと楽しげなワルツは見事な気分転換に。(違和感ではない、息抜きみたい)さらりと粋で愉快な作品であり、演奏でもあります。この曲が一番好き。(2005年1月28日)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi