Satie 管弦楽曲集(コンスタン/アルス・ノヴァ合奏団)


サティ管弦楽曲集 Satie

バレエ「本日休演」の幕間「映画」のための音楽(ルネ・クレール監督のフィルム)

(いつも片目をあけて眠る見事に太った)猿の王様を目覚めさせるためのファンファーレ

家具の音楽
・ 県知事の私室の壁紙
・ 練鉄の綴れ織り(招待客の到着の際に。大きなレセプションの場合は、玄関ロビーで演奏される)
・ 音のタイル張り鋪道(昼食の時に演奏する)

ヴェクサシオン(神秘的なページより抜粋)〜ピアノ・ソロのための

マリウス・コンスタン/アルス・ノヴァ合奏団、ダルベルト(p)

ERATO  B15D-39208  1980年録音 定価1,500円(中古500円にて購入)

 こういう音楽で”感動する”というのは、ちょっと違うんじゃないか?もしかしたら”感じる”ということか。「本日休演」は、ほとんど脈絡のない旋律が次々登場して、それが少々苦痛なほど無意味に繰り返され、結果的に無表情、無感情、不思議な感慨へと至ります。18分に渡る素っ頓狂なる旋律/リズム(?)延々淡々と継続し、ついに半分ほど進んだところで哀愁の旋律(葬送行進曲っぽい)が現れました。破壊的ではないが、聴き手を感動させることを拒否する音楽。ビョーキの時代に相応しい佳曲でしょう。それこそ、無声映画の主人公が歩き続けて様々なものと出会う〜そんな情景でしょうか。起承転結などありえない。眠くなります。

 「ファンファーレ」の題名はSatieらしいひねりが入ったものだけれど、2本のトランペットのためのエキゾチックな作品〜わずか1分ほど。いよいよ「家具の音楽」に入るが、「本日休演」によく似て、トランペット中心に無表情、無感情、怠惰なる繰り返し延々連続です。なんせ存在を意識しちゃいけない音楽なんだそうだから。(「壁紙」6:05)「綴れ織り」は弦のアルペジオ(中低音)が怪しく(やはり)繰り返されます。曰くありげな旋律なんだけど、短く、発展せず、展開せず、とにかく同一音型を回しているだけ。(3:05)

 「歩道」はリズムにアクセントが付くが、基本変わらない・・・で、ここまで聴いて気付いたけれど、いつ始めても、終えても問題ない音楽なんじゃないのか。お客様がそこにいる限り繰り返し、継続しても問題ないのじゃないか(2:30)〜で、著名なる「ヴェクサシオン」(VEXATIONS)へ。まさにこの音楽こそ”エエ加減にせえよ”的超絶繰り返し作品であって、”無表情、無感情、怠惰なる繰り返し延々連続”に他ならない。

 「ひとつのフレーズを840回繰り返し、まともに演奏すれば20〜50時間」・・・う〜む、ビョーキだなぁ。精神的に疲れ果てた時、どんな音楽も受け付けない・・・そんな時に”感じる”音楽なのでしょう。ミシェル・ダルベルト(p)はしっとりと、湿度の高い音色で弾き進めていくが、10分弱が少々苦痛であり徐々にいらいらしてまいりましまた。そして眠くなる。

(2007年3月23日)


 この録音は発表当時、けっこう話題となってFM放送でよく取り上げられましたし、のち2枚組2,000円の廉価盤でも登場しました。ワタシの知る限りでは、他では出ていないはず。

 この音楽は「聴かれることを目的としない音楽」「食事の時の沈黙を和らげてくれる音楽」として意図された、実験音楽の類なのです。いまでいう、まさにBGM。「家具の音楽」の初演は、聴衆が聴き入って「失敗だった」そう。

 まるで機械仕掛けような、無機的な旋律の繰り返しで不思議な音楽。「三つのジムノペディ」のようなロマンティックな旋律の美しさはなく、起承転結もなにもない無感情な音楽。難解ではないが、一筋縄では行かないのです。「どう楽しむか」が、じつに難しい。ある意味、ほんとうの前衛音楽家も。

 こんな曲集に演奏の善し悪しもないのでしょうが、コンスタンは作曲家で、アルス・ノヴァ合奏団は現代音楽のスペシャリストだそう。聴くたびに、不思議な気持ちになってしまう、まさに不思議な曲。

 「ヴェクサシオン」は一部マニアには有名な曲で、ひとつのフレーズを840回繰り返し、まともに演奏すれば20〜50時間かかるという、猟奇的なピアノ音楽。曲名は「いらだち」「嫌がらせ」という意味だそうです。LP一枚に納めた演奏があったはずですが、ここでは控えめに10分ほどの収録。助かりました。ビョーキになりそうな曲。(1999年更新)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi