Beethoven 交響曲全集
(クルト・ザンデルリンク/フィルハーモニア管弦楽団)


D CLASSICS	HR704632 Beethoven

交響曲全集

クルト・ザンデルリンク/フィルハーモニア管弦楽団・合唱団

D CLASSICS HR704632 1981年録音 5枚組2,750円(1998年11月21日購入)

* その後ワルツ堂で2,500円で発売!ちょっと悔しい。→中古だったら@1,800。持ってけ泥棒!

 タワーレコードで発売が予告されていながら、2枚目第4番冒頭の音が途切れるトラブルのため、発売が延期されていたもの。「のちほど交換」で話が付いたらしく、ようやく購入しました。

 1980年代初頭に、たしかデジタル録音されながら、ほとんど話題にならなかった全集の復活です。少し前におなじ会社(ROYAL CLSSICS HR703732)でクリュイタンス/ベルリン・フィルの全集を買っていて(2,600円)、まだまともに聴き通していないうちにまた買ってしまったもの。ま、全集でCD一枚分の値段ですからね、お小遣いの範囲ですよ。(と、云いながらじつは単発の交響曲も更に数枚買っている)

 1枚目の1/3番のうち、第1番の第4楽章が入りきらず、5枚目の9番の冒頭に回されているという恐るべき乱暴な全集。テンポが遅いのが理由のようですね。

 まだサラリと聴き通しただけですが、考えさせられるところの多い演奏でした。1981年の1・2月に集中して録音されていて、演奏にはややムラがあるようです。(同時に買ったジンマンの最新盤を先に聴いたのが悪かったみたいで)愛想の悪さに、苦しんで聴きました。

 まず、録音は気に食わない。
 デジタル時代という期待もあるのですが、低音の腰がない、音に潤いを欠く、残響に深みがない。オフ・マイクというんでしょうか、遠くから頼りない音が聞こえてくる感じ。
 録音はうんと旧いモノラル録音でも、聴きやすい音というのはありますよね。例えば、クリュイタンスのベートーヴェンの全集は録音は、かなりの劣化も濁りもあるのですが、音の重心が低く、音の「芯」みたいなものはちゃんと捉えられていると思うのです。

 フィルハーモニア管の明るくて切れ味のあるサウンドと、ザンデルリンクは古色蒼然たるドイツの伝統の固まりのような重い指揮ぶり。例えばクレンペラーなんかもフィルハーモニア管との立派な録音をたくさん残していますし、かのフルトヴェングラーだってなかなか整ったいい味で競演しています。個性が違うからといって、どういう結果が出るかは一概に云えません。

 ここでは両者の個性は、必ずしも最善の形でかみ合っていないと思うのです。全体として弦は厚みを欠いて洗練されず、透明な木管とはサウンドがとけ込んでいない。地味で渋く、アンサンブルの濁るフィルハーモニア管なんて想像できますか。それでも、聴いていくうちに妙に納得してくるから凄い。

 (4楽章が泣き別れている)第1番は、引きずるような相当遅い冒頭アダージョと、アレグロの主部の対比は鮮やか。アンダンテにおける旋律の息の深さ。メヌエットのリズムのよい意味での重さ。フィナーレは堂々たるスケールながらも地味な印象。全体として懐の深い、暖かい演奏といえるでしょう。

 第3番は、力まず流すように始まって、じょじょに勢いを付けていく味わいある開始。葬送行進曲における劇的な弦と透明な木管の対比、スケルツォも意外と抜いた軽い感じで始め、主部の重さはさすが。
 最終楽章の一つひとつの変奏曲を、じっくり噛みしめるように遅いテンポで念入りに表現していく味わい。ラストの追い上げはわざと泥臭く仕上げたような感じ。スケールは大きいのですが、むしろ静かな印象です。

 第2番における序奏の圧倒的な大きさ。主部に入ってもリズムはゴツゴツと重い。ラルゲットの無骨な「泣き」、スケルツォのホリの深さ、最終楽章の重厚なコクのある音の魅力。

 第4番は、ものものしい序奏からなんとなくモッサリしていていますが、木管の透明さとの対比は思わぬ効果を上げています。旋律の息は深い。最終楽章はゆったり過ぎるテンポと、リズムの重さの違和感に慣れるまでたいへん。オーケストラは戸惑っていることでしょう。

 第5番は音の密度の弱さは感じるものの、かなり重厚で率直な演奏。最終楽章のゆったりとした幅の広い演奏ぶりも満足。ホルンの音色が最高の充実ぶり。

 第7番は、第1楽章に力が入っていない。アンサンブルに緊張感がない。リズムが遅れて重く引きずる感じ。第2楽章は、抑えに抑えた静かな始まりからやがてスケールの大きな盛り上がりがやってきます。スケルツォの軽快な足取り、最終楽章の勢いに乗ってしっかりとした推進力が立派な演奏。後半に行けば行くほど調子が出ているようです。

 第6番もほかの演奏と似たような、引きずるような後倒しのリズム。
 やがて聴き手が根負けして、まるで鈍行列車で田舎の景色を眺めているような音楽の流れに慣れて、ついにはフィルハーモニア管の美しい木管のソロを心待ちにする心境に至ります。嵐の場面は意外とド迫力さが決まっていて、終楽章の感謝の気持ちが染み入るばかり。

 第8番は、ザンデルリンクのリズムの重さが良好な方向に向かったもので、重厚で迫力ある重戦車のような勢いを堪能させてくれます。3楽章における、しみじみとした牧歌的な歌の魅力。(特に弦)

 第9番は説得力がいまひとつ弱い。終始、中低音が弱く腰が据わらない。テンポは中庸だけれど、フィルハーモニア管の鳴りが充分ではない。
 数々の美しい部分がありますが、重いリズムを要求する指揮者とオーケストラの信頼関係がいまひとつのようです。3楽章はもっとも期待したところですが、録音の薄さが弱点でしょう。集中力が続かず盛り上がらない。最終楽章も合唱を伴う圧倒的な推進力は感じられません。
 この演奏に「熱狂」を期待していけないのです。

 「結論」 長らくおクラ入りしていた理由がわかるような、地味な演奏でしょう。録音も悪い。きっとライヴで集中して聴けば感動はもっと大きいはずです。聴きはじめはやや後悔しましたが、やがて一癖ある個性的で聴き応えのある演奏と納得できました。

 ベルリン響とかコンセルヘボウ管辺りと再録音してくれれば、この頑固ぶりが徹底して極め付きの演奏ができたはず。録音状態が良ければ全く印象も違ったことでしょう。
 値段を考えれば、そうとう楽しめる5枚。聴けば聴くほどダシは出ます。


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written by wabisuke hayashi