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ロシアのオーケストラ事情


   2002年3月5日(岡山10版朝刊)の朝日新聞に「ロシアの優秀演奏家いかが?」「『国立』ブランドつき!」「『オーケストラビジネス』大盛況」という記事が載りました。切り抜きそのまま掲載すればカンタンだけれど、それでは叱られるので要旨を紹介します。ことのキッカケは我らが西本智美さんが2002年1月「ロシア国立ボリショイ交響楽団の主席指揮者に就任」という記事でして、当のシャラショフ事務局長が「そんな話し、知らんわい」・・・じつは2001年5月に新設された「ロシア・ボリショイ交響楽団ミレニウム」という民営オーケストラ(誤報ですな)のことで、ま、ブランド詐称っぽい〜西本さんには与り知らぬ話しでしょうが。

 この記事の少し前に、テレビのドキュメンタリー番組で、西本さんの活躍が描かれてあって、そこでは「ボリショイ交響楽団」となっていたけれど、さすがのワタシでも「ボリショイ劇場のオーケストラじゃないな」とは気付いておりました。いえいえ、彼女の演奏の評価とは無関係ですよ。そのくらい、ソヴィエット崩壊後のオーケストラ事情は複雑だし、ロシアには優秀なる演奏家が溢れていますから。なんせ「ミレニウム」の演奏会に雇われた(ほとんど臨時編成アルバイトなんじゃないの?)演奏家の日当は2,000円とのこと。

 業界関係者の話しによると「モスクワ音楽院の大ホールを借りて、演奏家の日当、楽器楽譜のレンタル代含め一万ドルでお釣りが来る」とのこと。だから「『オーケストラビジネス』大盛況」となります。だからオウム真理教が「キーレン」なんというオーケストラをカンタンに作ったりできるわけです。それに海外演奏(出稼ぎか)用に団体名を付ける場合もあるみたいだし、臨時編成も、また、ちゃんとした団体でもアルバイトが大多数(それでも優秀な演奏家なのかも知れないが)ということも有、みたいな実状だそうです。

 結論的に「名前じゃなく、音で聴け!」という結論になるが、新聞もひどいですからね。「小澤征爾、ウィーン管の指揮者に就任!」とか「朝比奈、シカゴ・フィルに客演!」とか、かなり意味不明な記事を見掛けることもありますから。ロシアのオーケストラには伝統も実力もブランドもあるから、一層混乱に拍車が掛かるし、ワザとやっている節もありますからね。

 以下、「モスクワの主な常設オーケストラ」(2002年当時)一覧です。朝日新聞記事そのまま。(叱られたら削除します)

名称
主席指揮者
特徴など
チャイコフスキー記念国立アカデミック・ボリショイ交響楽団フェドセーエフ国外では「モスクワ放送響」の旧称で知られる。「チャイコフスキー交響楽団」とも呼ばれる
国立アカデミック交響楽団シナイスキー「ロシア国立響」の別称で知られる
モスクワ国立フィルハーモニー所属アカデミック交響楽団シモノフ国外向けには「モスクワ・フィルハーモニック交響楽団」の名称が使われる
ポンキン国立交響楽団ポンキン「新モスクワ・フィル」とも呼ばれる
ドゥダロワ国立交響楽団ドゥダロワ女性の主席指揮者の名を冠したオーケストラ
ロシア国立交響楽団ゴレンシュタイン若い演奏家が中心のオーケストラ
ロシア管弦楽団ベルデニコフモスクワ市立のオーケストラ
モスクワ交響楽団ジバ民営のオーケストラ
ボリショイ劇場楽団ベデルニコフボリショイ劇場専属のオーケストラ
ロシア国立映画交響楽団スクリプカ旧ソ連映画委員会所属のオーケストラ

 ドゥダロワのオーケストラは、手持ちKalinnikov交響曲第1/2番(1992年 OLYNPIA OCD 511)では、「ロシア交響楽団」となっております。(新しい録音にしては、全体として厚みに欠ける響き。オーケストラの技量かも知れません)ここ最近YEDANG CLASSICS(旧ソヴィエット時代の音源を復刻している)のCDを沢山買ったが、「全ソ・ラジオ・テレビ大交響楽団」「モスクワ放響」などのオーケストラ表記が混在しております。(チャイコフスキー記念国立アカデミック・ボリショイ交響楽団のことですか?)ソヴィエット国立文化省交響楽団→ソヴィエット・フィル→モスクワ・シンフォニック・カペレ→ロシア・ステート交響楽団?はどうなった?だいたい記事中の「ロシア国立ボリショイ交響楽団」は、表中の「ボリショイ劇場楽団」と同一なのかもわかりにくい・・・

 それに、ロシアにはレニングラードという大都市もありますよね。ここのオーケストラ事情も似たようなものでしょうか・・・事態は刻々と動いている・・・かも。(2004年9月19日)


Fさまから追加情報をいただきました。

LP時代に覚えたロシア5楽団だけですが、 指揮者名等を参考に追いかけてみました。
当時は、この5楽団が有名?だったと思いますが。 全部、生き残っているようです。

上段は大昔のレコ芸の記事から、 中段が、林さんの表中の記事。
下段は他のHPから持ってきました。

今回、いろいろ勉強しました。
「ボリショイ」は、固有名詞ではなく、ただの「大きい」という形 容詞なんですね。 逆に「小さい」は「マールイ」とか……。はじめて知りました。
「ボリショイ」が付くオーケストラが3つもあります。
老舗のボリショイ劇場、フェドセーエフのボリショイ、西本さんの ボリショイ、 他にもありそうです。それにしてもややこしいですね。

多分合っていると思うけど。違っていたらご勘弁を。 参考にしていただければ幸いです。

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1) 旧 ソヴィエット国立交響楽団  State Academy Symphony Orchestra of USSR

1936年モスクワで、全ソ放送第一交響楽団の主要メンバーにモスク ワ音楽院の卒業生を加え創設。 (ガウク/Eクライバー→ラフリン→イワーノフ→スヴェトラーノ フ)

現 ロシア国立交響楽団/ ゴレンシュタイン/ 若い演奏家が中心のオーケストラ

現 ロシア国立so./旧ソヴィエット国立so. Russian State Academic Symphony Orchestra
エフゲニー・スヴェトラーノフが長年音楽監督を務めていたオーケストラ。 現在はどうやらマルク・ゴレンシテインが音楽監督をやっているら しいが、かつての勢いは全くなさそうだ。

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2) 旧 ボリショイ劇場管弦楽団 Bolshoi Theatre Orchestra

前身は1776年創設のモスクワ宮廷劇場、「ボリショイ劇場」の名は 革命後に付けられた。 (パイジェルロ/フォーミン/マティンスキー……→ロジェストヴ ェンスキー→シモノフ)

現 ボリショイ劇場楽団/ ベデルニコフ/ ボリショイ劇場専属のオーケストラ

現 ボリショイso./ボリショイ劇場o. Bolshoi Symphony Orchestra
モスクワの老舗ボリショイ劇場オーケストラのシンフォニーコンサート時の 名称。 西本智実の「ボリショイ」とは違う。こっちは老舗のほう。こちら もヴェデルニコフが音楽監督。

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3) 旧 モスクワ国立フィルハーモニー交響楽団 Moscow Stato Philharmonic Orchestra

1951年創設 (サミエル・サモスード→コンドラシン→キタエンコ)

現 モスクワ国立フィルハーモニー所属アカデミック交響楽団/ シモノフ/ 国外向けには「モスクワ・フィルハーモニック交響楽団」の名称が 使われる

現 モスクワpo. Moscow Philharmonic Orchestra
かつてキリル・コンドラシンが音楽監督をしていたオーケストラ。 最近ユーリ・シモノフが音楽監督になってかつての勢いを盛り返し つつあるようだ。

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4) 旧 モスクワ放送交響楽団 Moscow Radio & TV Symphony Orchestra

モスクワ放送には二つのオーケストラがあるが、この第一オーケス トラは1930年に設立された。 (オルロフ他5名→ゴロワーノフ→ガウク→ロジェストヴェンスキ ー→フェドセーエフ)

現 チャイコフスキー記念国立アカデミック・ボリショイ交響楽団 フェドセーエフ/ 国外では「モスクワ放送響」の旧称で知られる。「チャイコフスキ ー交響楽団」とも呼ばれる

現 チャイコフスキー記念国立アカデミー大so./チャイコフスキー 大so./旧モスクワ放送so. Tchaikovsky Symphony Orchestra of Moscow Radio
ヴラディーミル・フェドセーエフのオーケストラ。

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5) 旧 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 Leningrad State Philharmonic Academy Symphony Orchestra

ソ連最古の歴史を誇る名門オーケストラ。前身は十八世紀のペテル ブルグ宮廷楽団。 最初の公開演奏はクーセヴィツキー指揮で1917年。 (……→クーセヴィツキー→Eクーペル→ガウク→シュティードリ ー→ムラヴィンスキー)

現 サンクト・ペテルブルクpo./旧レニングラードpo. St.Petersburg Philharmonic Orchestra

かつてムラヴィンスキーが50年間君臨した鉄壁のオーケストラ。今はユーリ ・テミルカーノフ。

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以上


香港の金田さんからもオモロイ情報をいただきました。

ロシアのオーケストラ事情ということで話題を一つ、出稼ぎです。

香港の隣、中国広東省の深セン(土偏に川)にプロのオーケストラ があります。深 セン交響楽団といいますが、楽団員の1/3位はロシア人ではないかと 思います。他に も出稼ぎしていると思いますよ。

香港日本人倶楽部の合唱団が年に1回オーケストラをバックにコンサ ートをしていま す、というか今までしてきたのですが、その時香港のオーケストラ 、たとえば香港 フィル、ではギャラが高いので、深セン交響楽団を起用してきたわ けです。
はっき り言って技量的には今ひとつです。

マカオのナイトクラブにも大量のロシア人ホステスがいるという話 ですが、そちら の方は自分の眼で確かめたわけではありません。

(2004年9月22日)


さらにこの情報としてはもっとも詳細なサイトを発見しました。

混迷するロシアオーケストラ

やっぱりちゃんとした情報整理される方がいらっしゃるんですね。(2004年10月27日)


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written by wabisuke hayashi