R.Strauss 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
(ジョルジュ・プレートル/フィルハーモニア管弦楽団)


RCA VD87733 1983年録音 R.Strauss

交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

ジョルジュ・プレートル/フィルハーモニア管弦楽団

RCA VD87733 1983年録音

 2008年のニュー・イヤー・コンサートで思わぬ注目を集めたプレートル(1924-)も高齢故、実質上引退状態かと思われます。特定の定まったポストに就いていないのは、裕福な資産家?そんな想像をしていたら、ちゃんと苦学生だったらしいから、彼の生き方の問題なのでしょう。レパートリー、表現も含め自分の好きなことのみ徹底した生き方なのか。Poulencやら仏蘭西近代の録音の印象があるけれど、著名なDebussyやらRavel の録音ってありましたっけ?Brahms のライヴ音源は入手したけれど、Beethoven の交響曲は見たことはありません。

 タワーレコードでの復刻(+Sibelius )があるけれど、これはCD一枚37分の贅沢収録!って、いまやデータ入手。そんなコメントも無意味になりました。ディジタル時代入った優秀録音。ロンドン・ウォルサムストウ・タウン・ホールにて収録(エンジニア;マイケル・グレイ、プロデューサー;チャールズ・ゲルハルト)。映画「2001年宇宙の旅」(1968年)によって、そのカッコ良い冒頭の金管(自然の動機)+ティンパニのみ有名になった「ツァラ」〜その実、意外と難解な作品か、と思います(なんせ由来は哲学書だからね)。日本では1970年前後ズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルのLP(1968年)がベストセラーになって人気が広がったと作品と記憶。閑話休題(それはさておき)

 緻密細部の描き込みより、作品を大づかみにデフォルメすることも多いプレートル、ここでは鮮明な音質+オーケストラの優秀な機能も含め、わかりやすい迫力演奏になっておりました。Einleitung(導入部)の重低音オルガン響き渡ってトランペットは抑え気味、ティンパニの叩きつけるようなド迫力に押され、例の前のめりっぽい勢い表現に金管も呼応します。Von den Hinterweltlern(世界の背後を説く者について)。弦は濃厚纏綿にヴィヴラートたっぷり、入念に歌われ高揚します。続くVon der grosen sehnsucht(大いなる憧れについて)弦も金管も表情豊かに劇的振幅の広いもの。Von den Freuden und Leidenschaften(喜びと情熱について)はいっそう陰影深まって金管とティンパニ(存在感は一貫して突出!)の衝突+オルガン、ハープが華やかに色を添えております。

 Das Grablied(墓場の歌)。やや落ち着いた風情が加わるところ、相変わらずプレートルのアツい、うねるような表現継続。Von der Wissenschaft(学問について)は低弦がうごめく静謐へ。木管と弦の絡みがわかりやすく表現され、ここでも自在に熱気と明るさが高まる気配有。「自然の動機」(ほとんど冒頭の大爆発)が呼び水となってDer Genesende(病より癒え行く者)へ。この患者はかなり快復して元気ありますね。ここでお得意のちょっぴり前のめりアッチェランド表現登場。ミスを誘発しやすいトランペットの上昇音型もおみごと、ごりごりとした低弦と管楽器の細かい音型の掛け合いもオーケストラの腕の見せどころでしょう。暗→快活な明るさは病からの復活か。Das Tanzlied(舞踏の歌)はヴァイオリン・ソロが優雅に、ハズむようなリズムに乗ってヴィヴィッド。プレートル、かなりノリノリでっせ。オーボエもホルンも軽妙優美、エエ音やな。ここたっぷり盛り上がってますよ。

 Nachtwandlerlied(夜のさすらい人の歌)。消え入るような落ち着いたラスト。ド素人には冒頭の勇壮な冒頭回帰がわかりやすいけど(例えば「英雄の生涯」)Tanzlied(舞踏の歌)たっぷり暴れて(8:55は最大)ラスト佳きクールダウンなのでしょう。

 100人必要な4管編成、オルガン、ハープでしょ?弦のパートは5部どころか更に分割されているそうだし、フクザツ多岐な作品、”緻密細部の描き込みより、作品を大づかみにデフォルメする”プレートルはツボを押さえて、みごとな完成度でした。「ティル」とか「ドン・ファン」の録音はないのか。

written by wabisuke hayashi