Hans Rott 交響曲第1番ホ長調
(セバスチャン・ヴァイクレ/ミュンヘン放送管弦楽団)


ARTENOVA 82876 577748 2  580円 Hans Rott(1858-1884)

交響曲第1番ホ長調
前奏曲ホ長調
「ジュリアス・シーザー」への前奏曲

セバスチャン・ヴァイクレ/ミュンヘン放送管弦楽団(2003年録音)

ARTENOVA 82876 577748 2  580円

 油断すると自分の狭い嗜好にばかり、蛸壺状態に陥りがちになるのが、こういった音楽趣味の気をつけるべきところ。とくに最近、CD激安じゃないですか。こどもの頃〜若い頃には手の届かなかった”大物”がいとも簡単に入手できるから、有り難みも新鮮な気持ちも萎えてしまいがち〜美人も三日見れば飽きる!という先人の名言もあります。苦手も避けちゃいけないし、新しい音楽にも意欲的トライしなくっちゃ、ということですよ。Hans Rott(1858-1884)はやや以前に結構話題となって、そしてブームとはならず沈静化しているように見受けられます。Mahler と同世代(1860-1911)の作曲家、顔もなんとなく似ております。  

ネット検索してみると(例の如しで)”狂気と分裂の音楽”的論評が見受けられて、そうかなぁ・・・と。Brahms 、Wagner、Brucknerのエッセンスが未整理のまま並んでいる印象であって、素材としてはMahler に影響を与えているのでしょう。”未整理=狂気”でもなんでもない。若書きの秀作だから、そう思って聴けば良いんです。Mahler は結果的にもっと完成度の高い、魅力的な作品をたくさん作ったし、「Mahler はRottの剽窃を隠している!」的安物三流週刊誌的コメントには辟易(「音楽日誌」より)
   その昔、若い頃FMにて聴いたのがレイフ・セーゲルスタム盤、このヴァイクレ盤は在庫有だけれど、artenovaは在庫限りだから入手難になっていくのでしょう。おお、デニス・ラッセル・デイヴィスも録音していたのだな、たしか以前BBSでお勧めがあったのはジェラート・サミュエル盤でしたっけ?もちろんNMLでも拝聴可能。いずれメジャーどころのレパートリーに入ってこない。(実演は知らぬが)

 第1楽章「Alla breve(二分の二拍子)」〜爽やかなホルンから、朝の目覚めのような牧歌的な旋律がわかりやすく、親しみやすい。前向きな明るさもあり、Brucknerの第4番の印象、Brahms の着実な歩みにも類似しております。演奏のせいかもしれぬが、やや散漫でさらさらと終わってしまう。第2楽章「Sehr langsam(とてもゆっくりと)」〜弦を主体とした(これも)爽やか清涼な懐かしさに溢れた旋律であります。これは前述に加え、Wagnerのテイスト(タンホイザー?)が漂いました。Mahler に似ている(またはMahler が真似た)というが、彼ほどの練り上げられた語り口やら構成感の上手さはなくて、美しい素材が粛々と流れて、変化が足りない印象有。

 第3楽章「スケルツォ」〜は勇壮な金管のファンファーレから民衆の踊りのような、一方で戴冠式のような立派な雰囲気に溢れます。Mahler の交響曲第1番ニ長調第2楽章のリズムに似ている?いえいえ完成度と洗練が違いますよ、全然。メリハリ、迫力が足りないように聞こえるのはセバスチャン・ヴェイクレの責任か。中間部の静謐デリケートな美しさはRott独自の個性でしょう。そこを経、ようやく不安げなる大爆発+アッチェランドがやってまいりました。この辺りの対比が”狂気と分裂”とコメントされる所以か。後半戦の無遠慮なるワルツもMahler を連想させるでしょう。

 終楽章「Sehr langsam(とてもゆっくりと)ーBelebt(いきいきと)」〜不安げなファゴットのモノローグから(例の)爽やかなホルンが一条の光を差し込みます。やがて木管が静かに絡んで〜って「復活」最終楽章冒頭のテイストか。一連の有機的な流れではない、エピソードの連続と感じるのは作品の問題か、演奏の力量なのか微妙。明るい表情への転調も恣意的であり、せっかくの弦の官能的な旋律(7:30頃)も唐突な感じ。次に出てくる弦の旋律〜全奏はBrahms 交響曲第1番ハ短調終楽章とクリソツ。

 終楽章22分。Mahler だったら長大なる楽章もみごとに、わかりやすく解明されるが、ここでは”唐突感”が付きまといます。さきの”Brahms クリソツ”部分のあとにフーガがやってくるんだけれど、これも取って付けたような印象有。心情がつぎつぎと変遷し、印象が定まらない。美しい瞬間が次々と訪れ、そしてつながらない。フィナーレに向け、熱気を増していくが、転調が”意外性”ではなく”不自然”に止まっている感じ・・・ラストはBrucknerだな、さらにWagnerか。

 ミュンヘン放送管弦楽団は頑張っていると思いますよ。やや軽量薄い響きだけれど、アンサンブルは整って、未知の作品をちゃんと聴かせる、という点で合格でしょう。音質も悪くない。

 Rottは聴く機会の少ない作曲家だから、フィル・アップも貴重です。前奏曲ホ長調は(この時点)世界初録音となる3分半ほどの作品。文句なしの名曲、名旋律。可憐で繊細なる小品は、Mahler 「花の章」によく似ております。初演が1889年だからRottのほうが先か。「ジュリアス・シーザー」への前奏曲は、Wagner「マイスタージンガー」に霊感を受けて、というか出足クリソツでした。その後の展開は行方不明な感じだけれど。

(2011年1月7日)

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written by wabisuke hayashi