Rimsy-Korsakov 交響組曲「シェヘラザード」
(ロヴロ・フォン・マタチッチ/フィルハーモニア管弦楽団)


EMI LP時代の素敵なジャケット Rimsy-Korsakov

交響組曲「シェヘラザード」

第1楽章「海とシンドバッドの船」(Largo e maestoso-Allegro non troppo) ホ短調 - ホ長調
第2楽章「カランダール王子の物語」(Lento-Andantino-Allegro molto-Con moto) ロ短調
第3楽章「若い王子と王女」(Andantino quasi allegretto-Pochissimo piu mosso-Come prima-Pochissimo piu animato) ト長調
第4楽章「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」(Allegro molto-Vivo-Allegro non troppo maestoso) ホ短調 - ホ長調

ロヴロ・フォン・マタチッチ/フィルハーモニア管弦楽団

EMI  7243 5 680882 6 1958年録音 Yungさんのサイトにて拝聴可能(←かなり厳しい評価でした)

 華麗なる加齢によるノーミソ前頭前野の衰えか、ここ最近どんな音楽を聴いてもそれなり感銘を受け取り、一方で大騒ぎするほどの個性でもないか、そんな不遜な感慨を抱く機会が増えました。若く貧しかった頃、数少ない手許音源を大切に聴いていたまっすぐな誠実さは何処?以下も久々の拝聴に嘆息したことを前提に・・・

 1990年に新星堂がEMI音源を使って1,000円(税込)盤を発売しました。それ以来のお付き合い、久々の拝聴です。1888年の作品、これはTchaikovskyの交響曲第5番とか「眠れる森の美女」と同時期なんだそう。露西亜風情をベースに西欧的洗練と華やかな管弦楽の精華を競う作品が次々生まれていたのでしょう。この作品もオリエンタルな題材を使ってエキゾティック、近現代の華やかなオーケストレーションは泥臭い旋律サウンドに非ず、オーケストラの腕の見せるべき名曲中の名曲、名作也。Testament復刻は現役でしょうか。

 かなり以前十数年程前に聴いたメモが残っていて曰く

骨太で洗練されない演奏だった・・・という記憶空しく、けっこう雄弁流麗で、陰影対比濃く、寄せては返す呼吸の深さ出色。フィルハーモニア管弦楽団の清涼なる響きは絶好調ですね。「洗練されない」とはとんでもない!録音もずいぶんと良好。終楽章怒濤圧巻の推進力に、テレビで拝見した晩年のお姿を懐かしく、感動的に思い出しました。
 なるほどねぇ。リアルに生々しい鮮度じゃないにせよ、時代相応にまずまず自然な聴きやすい音質。やや痩せた響きに低音が弱いのはいつものこと。フィルハーモニア管弦楽団は技術的に優れ(管楽器の繊細さ!)清潔な響きは洗練されております。全体としてオーソドックスというか、色付けの濃い個性ではなく、生真面目、上品と云っても良いほどの出来。Lovro von Matacic(1899-1985)ならば!といった豪快(エッチ)な期待からは外れるかも。(コンマスは調査付かず。やや神経質なヴィヴラートに細い印象。マヌーク・パリキアンはもうちょっと前の時代かも)

 第1楽章「海とシンドバッドの船」は豪快骨太な演奏・・・を期待するとそんなことはない。むしろオーケストラの繊細洗練された響きを活かして、中庸な、というか華々しいド派手な効果を狙わぬ表現でしょう。専門筋の方々には詳細アンサンブルの破綻云々されるネット記事を拝見したけれどこちら、幸いこちらド・シロウト耳には気にならない。但し、期待より推進力とか色彩、力強さが足りないかも・・・ここはもっと目眩く、憧憬に充ちた冒険譚を期待したいところ。(10:22)

 第2楽章「カランダール王子の物語」は楚々と泣くヴァイオリン・ソロにハープが絡む幻想的な出足(シェヘラザードの主題)。交響曲に於ける緩徐楽章なのか、懐かしい3/8拍子の旋律はカランダール王子を表しているんだそう。オーケストラの各パートは繊細なニュアンスに性格を描き分けて上手いオーケストラだと思います。作曲者の技量たっぷり感じさせる変幻自在多彩なオーケストレーション、今一歩の勢いを期待しつつ徐々に熱は高まります。(11:27)

 第3楽章「若い王子と王女」は弦が諄々と清涼に歌って極上な開始、そこにクラリネット・フルートが自在に絡んで、この作品もっとも魅惑の楽章、安寧のデリケート旋律であります。やがて小太鼓の軽妙なリズムに乗って木管群の軽快な舞踏が続きます。トランペットの力強い対比も絶品!そして楚々と泣くヴァイオリン・ソロ+ハープ再現。悠々と大きな演奏に文句なしの色気であります。(10:02)

 第4楽章「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」第1楽章冒頭の旋律(シャリアール王の主題)が二倍の速度で風雲急を告げる開始、それをしっかり受け止めるヴァイオリン・ソロ(シェヘラザードの主題)。やがて激しい「バグダッドの祭り」は切迫感を強め、やがて場面変わって「船の難破」へ。この辺りの受け渡しの上手さ、色彩感と緊張感は素晴らしい作品、そして迫力に充ちたマタチッチの本領発揮、後半戦ようやく調子が出てきたのでしょうか。金管木管のモウレツ細かいパッセージと打楽器の分離も鮮明でしょう。オーケストラは上手いですね。やがて嵐は治まって穏やかな海〜そして優しいシェヘラザードの主題に静かに幕を閉じる。(12:19)

 安易な先入観イメージだけど、マタチッチとフィルハーモニア管弦楽団の個性はちょっと似合わなかったのかもしれません。久々、名曲をたっぷり堪能させていただきました。

(2019年9月29日)

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written by wabisuke hayashi