Ravel ピアノ協奏曲ト長調/夜のガスパール/Debussy 映像第1集/喜びの島
(ミヒャエル・ステューダー(p)/サヴァリッシュ/スイス・ロマンド管弦楽団)


CLAVES 50-2713/18  6枚組 2,042円 Ravel

ピアノ協奏曲ト長調(1979年)
夜のガスパール

Debussy

映像第1集
喜びの島(以上1971年)

ミヒャエル・ステューダー(p)/ヴォルフガング・サヴァリッシュ/スイス・ロマンド管弦楽団

CLAVES 50-2713/18 6枚組/6枚目 2,042円にて入手

 知名度と実力というのは比例しないし、活動がローカルに限定されていれば、認知されるチャンスはますます減ってしまう・・・CDの価格が安ければ、見聞を広げてくださる機会を与えてくださるし、ネットでのデータ提供だったらもっとそうなのでしょう。ワタシの子供時代は往年の巨匠が多く存命だったし、入手できる”名盤”の選択肢は限られておりました。もちろん、貧しかったからLPは贅沢品だったんです。(そういえば若い頃カセットでFMエア・チェックをしていたなぁ、あれが世間一般評価の高い演奏の基準を知る機会となっていた)豊かであること、選択肢が多いこと=必ずしも、幸せとは限らぬのが人生の難しいところ。

 このボックスは安かったのと、演目が素敵だったので注文入手したもの。もとより未知の演奏家を拝聴するのが趣味嗜好でもあります。人生ヴェテランの域に達すると、なんとなく得がたい価値の匂いを(ネット上隔てていても/写真眺めただけで)感じるようになるもの、これは”大当たり!”でしたよ。ミヒャエル・ステューダーはスイスのヴェテラン(1940年〜)らしい。写真を見るとやや枯れ線のオッサン風だけれど、技術的に優れ、知的+ヴィヴィッド+粋+情感漂う演奏であります。レパートリーも幅広いみたいですね。協奏曲はライヴ収録、音質極上。残りは放送用録音かな?

 Ravel のピアノ協奏曲は独墺系の言語とは異なる”粋”が求められる作品でしょう。技術的な洗練は前提だけれど、ごりごりバリバリ豪快に弾けばよろしい、というワケにいかん。ステューダーは粒の揃った繊細なタッチと+軽快なノリで聴かせます。アンセルメ亡きあとのスイス・ロマンド管を聴けるのも一興であって、かつての印象一変、整ったアンサンブルで緻密なサポートぶり(当時の聴衆の評判はよろしくなかったらしい)。きらきらと華やかなピアノではないし、弾き崩しなど一切ない丁寧なタッチながら、生真面目神経質といったテイストでもない。入念な仕上げ、驚くべき静謐な集中力。(第2楽章「アダージョ」)

 終楽章「プレスト」の疾走も見事だけれど、淡々として過不足のない、もちろん力みのないノリであります。意外とありそうで、じつは滅多に出会えない軽快(軽妙に非ず)なるRavel でありました。

 「夜のガスパール」も、これほど見事な演奏は滅多に聴いた記憶はありません。淡々、しっとりとした情感を湛えて、叩きすぎることない知的緻密精密なタッチ。表情の変化、揺れはほとんど絶妙であって、抑制が利いて叫ばない。静かに、音もなく潮が満ちてくるような風情であって、知らず大きな波に揺られている感慨。「スカラボ」にて情感の表出が前2曲との対比を際立たせるが、けっして大仰な動作に至らぬ矜持を感じさせます。

 Debussyも同様だけれど、こちらには一種個性的な甘美華やぎが感じられる作品でしょう。”叩きすぎることない知的緻密精密なタッチ”はRavel と変わらない。ステューダーの表現は作品のテイストを生かして、こちらいっそう官能の度合いを深く感じさせます。ワタシの大好きなベネデッティ・ミケランジェリの漆黒濃厚なる甘美に比べれば、ずいぶんと内省的で淡彩(第3曲「動き」に顕著)。淡々粛々と押し寄せる感銘には別の味わいがあります。「喜びの島」に自在なる指運に粒の揃った音色が出現するが、走らない、テンポは揺れない。そして、ステューダーなりの叫びが出現します。

 CD一枚分全部聴き通した印象は”静謐繊細”ということでした。

(2010年*月13日)

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written by wabisuke hayashi