Rachmaninov ピアノ協奏曲第2/4番
(タマーシュ・ヴァーシャリ(p)/アーロノヴィチ/ロンドン交響楽団)


(輸入元エコー・インダストリー)CC1048
Rachmaninov

ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
ピアノ協奏曲第4番ト短調 作品40

タマーシュ・ヴァーシャリ(p)/ユリ・アーロノヴィチ/ロンドン交響楽団

(輸入元エコー・インダストリー)CC1048  1976年頃録音(DG音源)  1,000円で購入

 ワタシのサイトは日本一の”駅売海賊盤”情報のサイトだと自負している(自慢にならない)が、ここ最近、急速に棚中在庫処分しつつあります。21世紀は世紀メジャー録音も”激安廉価盤の時代”となってしまい、存在意義を失ったことは千度サイト中に述べました。でもね、音楽を楽しむ上ではなんの不便もないので、こうして久々の聴取確認する機会も有〜で、心底痺れました。現役みたいだから正規盤買い直すか?ピアニスト(ヴァーシャリとの表記も)も、指揮者(ユリ・アーロノヴィチ)も大衆受けするタイプではないようだから、話題にはならぬけれど、これは稀代の名演奏と評してまず間違いがない、と確信。

 ワタシのリファレンスはスヴャトゥスラフ・リヒテル(p)/ヴィスロツキ/ワルシャワ・フィル(1959年)となるのでしょう。深く、濃く、暗鬱であり重厚。そして硬質、粘着。その説得力になんらの疑念もないけれど、音質は(少々)落ちるんです。それに対して、このヴァーシャリ/アーロノヴィチ盤のなんと爽やかで優しいことか。冒頭、鐘を模したピアノの響きから物々しさはないし、なんといってもロンドン交響楽団のアンサンブルは極上に洗練され、憂愁なる雰囲気にも欠けていない。録音も極上(この駅売海賊盤でも)。まるで別作品を聴くかのよう。

 小学生の時に出会ったこの作品は、Tchaikovskyの裏面(当然LP)でした。リヒテル/ザンデルリンク(1959年モノラル録音)〜出会いの感銘を彷彿とさせる感動がありました。テクニックに不足はないが、それを前面に出した方向ではない。もちろん、”深く、濃く、暗鬱であり重厚。そして硬質、粘着”ではなく、もっと優し、繊細で美しいタッチが聴かれます。柔らかい。瑞々しい。

 第2楽章「アダージョ」は、やはりChopin を連想させませんか、この演奏。静謐、かつ含羞に充ちている。最終楽章は、華やかなる技巧が大活躍するところだけれど、”華”にも力感にも不足はないないが、華麗なるパフォーマンスではない。ピアノのタッチには常に知的な抑制が前提に存在します。さりげない歌は流れて、滋味溢れる音色はやっぱりChopin 風・・・違いますか。

 ピアノ協奏曲第4番ト短調は、知名度、馴染みとも少々縁が薄かった作品なんです。これもクリアで、さらりとした表現が流麗であって、アクとは無縁なる演奏。先の第2番ほどの甘美さはないが、細かい音型旋律が個性的な味わいを出して、これも名曲に間違いなし。但し、ピアノの技巧的な扱いが先行して、晩年、少々霊感が不足したかと思います。第1楽章の盛り上げ方も少々ありきたりで、これが亜米利加風なのか。

 第2楽章「ラルゴ」の静謐なる変奏曲も、主旋律がややツマらない。終楽章の激しくもめまぐるしい疾走は、やはり作品的にピアノの技巧前面です。管弦楽の爆発もやや表層の効果狙いっぽい。ヴァーシャリの正確で美しいタッチは特筆すべき水準だけれど、このCDの白眉はやはり第2番ハ短調でしょう。

(2009年3月20日)

 「海賊盤」のトップ・ページに加筆をしましたが、この類のCDの存在価値は急速に薄れつつあります。新しい音源開発も進んでいません。正規盤そのものが価格ダウンを起こしてしまって、「海賊盤」より安い。ワタシは中古で、価格と内容が見合えば買う程度でしょうか。(手持ち在庫は腐るほどあるが)ステレオ初期の録音も含めて、それを専門に復刻するレーベルもたくさん出現しました。しかも安い。

 この協奏曲は名曲中の名曲。2000年のレコ芸「リーダーズ・チョイス」を見ると、依然としてリヒテルの1959年録音が一番人気なんですね。ワタシも(珍しく)異論はないのですが、ごく最近通販にて、よく内容をたしかめもせず「リヒテルの協奏曲集」(DG429 918-2 3枚組)を注文したら、Rachmaninov とTchaikovskyが入っている。SchumannやBeethoven 、Mozart は聴いたことがなかったのですが、この2曲、2枚分は既に所有していました。(エコー・インダストリーの海賊盤)

 正規盤が3枚1,380円ですよ。音質も、やや演奏の印象が変わるくらい明るめで軽い。リヒテルの濃厚な演奏も久々に堪能しましたが、ワタシのHPに掲載するには当たり前過ぎる。(Tchaikovskyは掲載済)で、忘れ去られたヴァーシャリ盤を取り出しました。(かつて全集の正規盤や、1,000円盤も出ていましたが、今何処。輸入盤だったらあるのかも)ワタシは1980年代に、これを購入していたはず。今だったら高すぎて買えません。

 ヴァーシャリは1933年生まれ、ハンガリー出身。DGでは、アリゲリッチやポリーニ等が活躍する以前のレパートリーを担っていて、Chopin の録音が多かった記憶があります。(LP時代のヘリオドール・レーベルとか)Debussyもあったはず。コリンズ・レーベルにショパンの再録音があるが、近年は指揮者として活躍しているとのこと。

 リヒテルの濃厚な演奏に慣れているせいか、スッキリとした流れの良い演奏に思えます。あくまで相対的な印象で、この演奏そのものは充分浪漫的でしっとりとした情感もある。ピアノの音色が繊細で、きめ細やか、いわばChopin 方面の味わいがあります。リヒテルが地の底からわき出るような重厚な表現であったのに対して、親しみやすい。

 音色そのものに色気があって、瑞々しい。細部までていねいな表現、テクニックが売り物ではないにせよ、技術的には申し分なくて、良い意味での「軽さ」が説得力充分。アナログ最盛期の自然な録音の効果も大きいと思います。いくらでもクサく演奏できる旋律だけれど、抑制が利いていて美しさが際だちます。リキみとは無縁でしょう。

 ユーリ・アーロノヴィチは1932年生まれというから、ヴァーシャリと同世代のロシアの指揮者。1972年に西側に出てきて、メジャーにも録音がありましたが、最近はウワサを聞きません。リヒテル盤のバックを務めていたワルシャワ・フィルが、洗練されない素朴な味わいで勝負していたのに対して、ロンドン交響楽団の技量の違いは一目瞭然。ほの暗く、朗々と歌ってRachmaninov の魅力満開です。上手い。輝かしい。(第2楽章のクラリネット・ソロ〜木管の絡みなんてゾクゾクするくらい)

 第4番の協奏曲は、あまり有名ではありません。なんども聴いているはずなのに、ワタシ自身初耳のような印象を持ちました。ま、Rachmaninov の曲はどれも技巧的だけれど、ピアノの妙技性がとくに目立つ曲でしょう。ヴァーシャリは水か滴るような美音に違いないが、清楚感が失われません。そっとため息のように旋律が歌われると、甘い世界に連れていってくれました。(2001年4月7日)


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written by wabisuke hayashi