Holst 組曲「惑星」
(マルコム・サージェント/BBC交響楽団/女声合唱団)


パブリックドメイン音源より。これはLP時代のデザイン Holst

組曲「惑星」
「火星、戦争をもたらす者」「金星、平和をもたらす者」「水星、翼のある使者」「木星、快楽をもたらす者」「土星、老いをもたらす者」「天王星、魔術師」「海王星、神秘主義者」

マルコム・サージェント/BBC交響楽団/女声合唱団

EMI 1957年録音 パブリックドメイン音源

 稀代の著名作品、華やかな管弦楽効果顕著な名曲はあちこちネット上系統的な言及もあって、こちらド・シロウトが云々すべきこともありません。このところ温故知新路線邁進状態、5-60年前の音源でも驚くような音質を再確認、いったい人類テクノロジーの進歩ってなんでしょ?そんな感慨に浸っております。一昔前の音楽評論雑誌に「音質はすっかり古めかしくなった」という言及を見掛けて、たしかに手許にある1970年前後のアナログ録音(CD)を久々に聴いたら、こんな音だったっけ?みたいなことはようありますよ。一方で、LP時代に苦しんだ音質が、じつはびっくりするほどみごとに再生されるのも事実。オーディオ問題は厄介でっせ。

 林 侘助。の生誕を記念して録音された(ウソ)サージェント( Malcolm Sargent, 1895ー1967)の「惑星」は以前から知っていたけれど、なんや残響過多芯のない音やなぁ、そんな記憶ばかり。久々に聴いたら仰け反っちまいました。こりゃ立派な現役音質、そして演奏でっせ。英国音楽らしからぬ華やか効果的なオーケストレーション作品をたっぷり堪能いたしました。

 「火星」は5拍子の激しいリズム(小太鼓先頭)を刻み続けて興奮の渦に叩き込む暴力的な開始。アンサンブルを整えることより、粗粗しい推進力+やや速めのテンポに前のめり、サージェントって穏健でユルい?そんな先入観を吹っ飛ばす迫力快演であります。かなり破壊的な不協和音?調性不明なところだけど、その説得力や抜群。「金星」は「平和をもたらす者」といった副題が示すように、しみじみデリケートな緩徐楽章。あまり気付かないけれど、じつは4/4拍子と3/4拍子を繰り返すんですね。甘美な管楽器の囁き、夢見るようなヴァイオリン、チェロのソロ+ハープ、ここでは打楽器はお休みです。アンサンブルはしっかりしているから、前楽章の「粗さ」は狙ったものなのでしょう。

 「水星」は怪しげユーモラスなスケルツォ楽章。ここも流れるようにテンポ速め。調性が次々入れ替わる(ホ長調と変ロ長調)そうで、細かい音型旋律が種々いろいろな楽器に受け渡されるところ、いかにも”現代音楽”であり、演奏者の腕の見せどころ。いちばん有名な「木星」はスケルツォっぽい開始(前楽章に比べてぐっと雄弁)カッコよい華やかな開始ですよね。ホルン先頭にBBC響の金管大爆発!上手いもんでっせ。中間部「Andante maestoso」のしみじみ勇壮な旋律はあまりに有名、平原綾香ちゃんが「Jupiter」として歌うほど売れ筋であります。ここも心持ち速めのテンポ、推進力重視の熱気演奏也。ラストのリズム変化もわかりやすいデーハーな楽章でしょう。

 ぐっとジミな「土星」は静謐瞑想。「老いをもたらす者」という副題が示すように深く沈溺するような、暗鬱な雰囲気もあります。ベースラインに乗ってやがて登場する木管アンサンブルはモダーンであり、ゆったりとした行進曲風でもあります。渋く盛り上がって、ここは作曲者がもっとも気に入った楽章とのこと、大人気華やかな「木星」の後に配置された”通”向けの音楽でしょう。

 大音響と静謐デリケートな対比に、鮮明な音質は必須です。

 「天王星」もスケルツォ風ですね。冒頭の金管、そしてティンパニ4音も衝撃的(ラストもカッコ良い*この辺りの音質驚異的)あとは「魔法使いの弟子」連想させるリズムが続きます。こちらのほうが重いけどね。ユーモラスであり大仰な爆発も伴って堂々たるド迫力、ここの金管、木管の細かい音型も上手いなぁ、1950年台のロンドンでしょ?BBC交響楽団ってこんな腕利きでしたっけ。サージェントの統率の成果かな?ラスト「海王星」は神秘、宇宙の果てを連想させ、妖しい女声合唱によるヴォカリーズは消えいくように、宇宙船から放り出された絶望のようにも聞こえました。

(2017年10月1日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi