Holst 組曲「惑星」(バーナード・ハーマン/ロンドン・フィル1970年)


この画像は英DECCAのLP PFS 4184 Holst

組曲「惑星」

バーナード・ハーマン/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/合唱団

Eloquence Australia 4802323 1970年2月録音

 子供時代に聴いていたベルナルト・ハイティンク盤(1970年3月?録音)を久々に拝聴して、落ち着き払った遅いテンポに少々驚いておりました。ロンドン・フィル、1970年録音って(これもLP時代憧れていたPhase4)バーナード・ハーマンと同じオーケストラ、同じ時期の録音じゃないか、と気付きました。じつは昨年2013年6月に聴いていて、そのコメントはなんとも頓珍漢。曰く

たしかに雰囲気はあって、妙に奥行き広がりが強調されて、悪くない音質也。演奏はまったりしているというか、オーケストラのコントロールがいまいちスムースではない感じ。例えば「火星」のリズム感、「水星」にもキレが足りない。「木星」はかなり頑張っているけれど、アンサンブルはもたつきます。オーケストラが上手くないのか、と感じるくらい。う〜む、残念賞。
 恥ずかしい・・・なに聴いとったのか。新天地での生活に四苦八苦、先も見えず、ちゃんと音楽を受け付けぬ”耳”になっていたのかも。久々の拝聴は感銘深い、立派なものでした。映画音楽に活躍したBernard Herrmann(1911-1975)詳細はネットを参照ください。なぜPhase4録音に登場したのか、経緯はわかりません。(スタンリー・ブラックとか、ヘンリー・ルイス、カルロス・パイタ、カマラータ等、ちょっと他では聴けぬ録音取り揃えておりました。一番著名なのはストコフスキーだけれど)

 ハイティンク盤の音質はPHILIPSらしい、中低音充実して自然なもの(ウェンブリー・タウン・ホール)。こちら英DECCAご愛用のキングスウェイ・ホール、全体にやや草臥れ感はあるけれど、ロンドン・フィル売り物である金管の生々しい表情など、華やか効果的な音質であります。ド・シロウトが期待するところの「惑星」に応えて充分な雰囲気と鮮度有。全体に遅めのテンポはハイティンクに似ており(どちらが影響受けたのか?)「火星」と「天王星」にドラが付加されているとのこと(オリジナルではない?)。

 「火星、戦争をもたらす者」(Mars, the Bringer of War)。遅めのテンポにゴージャスな表情付けも貫禄たっぷり、厚みがあってテンションは極めて高い。金管の迫力、早くも全開であります。変拍子リズムの刻み、テンポの揺れ、タメも極めて劇的効果的。これって所謂映画音楽の手法が存分に活かされているのでしょう。聴き手を一気に興奮の渦に叩き込みました。「水星、翼のある使者」(Mercury, the Winged Messenger)は緩徐楽章。ここも低音を効かせて、ムーディーな広がり奥行きたっぷり、繊細かつ豊かな表情付がわかりやすいもの。マルチ録音の成果かな?甘美なヴァイオリン・ソロはロドニー・フレンド?この時期、ロンドン・フィルは絶好調でしょう。

 「水星、翼のある使者」(Mercury, the Winged Messenger)はスケルツォ楽章。ユーモラスかつ軽快なリズムは「魔法使いの弟子」を連想させます。シンプルな旋律が種々様々な楽器に受け渡され、どれも腕の見せどころ〜それが全奏に成長し、また、各楽器の囁きに戻る〜各パートの存在感をしっかり捉える録音も成果を上げております。これほどわかりやすい「水星」もめったに経験できない。そして一番有名な「木星、快楽をもたらす者」(Jupiter, the Bringer of Jollity)へ。

 じっくり構えて堂々と表情豊かな「Allegro giocoso」、かなり遅めのテンポに細部ゆったり描き込んだ(この作品最大のヒット旋律)「Andante maestoso 」は瞑想的な落ち着きがありました。この辺り、ハーマンは語り口上手ですね。終盤はかなりテンポを落としたり、タメたり走ったり、それは成功して説得力ありました。タンバリンの存在感は不自然なほど生々しい。金管は余裕の爆発であります。

 残り3曲は暗く、妖しいものばかり。女声合唱調達の都合もあって?バルビローリの演奏会は「木星」で締めくくったそうです。「土星、老いをもたらす者」(Saturn, the Bringer of Old Age)。ピツィカートに乗った暗鬱な旋律は地味、でも、けっこうカッコ良い感じ。絶海の孤島とか、孤独の惑星、みたいな映画を連想させる不安と絶望に充ちた旋律は、時に怒りに爆発します。金管は暗いまま爽快に鳴り渡りました。弦の陰影もおみごと。低音の強調も効果的であります。ここは「木星」を超える長さ、瞑想的といえばこちらがいっそう、そんな風情でしょう。ラスト、安寧の救いも深い。

 「天王星、魔術師」(Uranus, the Magician)。「魔法使いの弟子」な感じはこちらだったっけ。複雑なリズムは朗々とわかりやすい、これもスケルツォ?冒頭の怪しさ一変!ユーモラスな歩みはけっこう華々しい、そして遅い、重い(表現が抜群に説得力有)。ここの打楽器(ティンパニ腕の見せどころ)の存在感も凄い。ドラはハーマンの付加ですか?「海王星、神秘主義者」(Neptune, the Mystic)へ。フルートのデリケートな囁きから始まって、まさに神秘的。瞬く星(ほんまは宇宙空間では瞬かないそう)、遠い宇宙の果ての寂寥を連想いたします。挙句(英国音楽名物)「雪女」の呼び声妖しく登場〜若い頃は「火星」「木星」ばかりハデなところを好んでいたけれど、華麗なる加齢を重ねると「水星」「土星」とか「天王星」、静謐かつ繊細な響きを好むように・・・英DECCAの録音って、市井の安いオーディオ愛用の音楽ファン(=ワシ)にもわかりやすい配慮だったんですね。

 驚くべき立派な演奏、作品を際立たせる一枚でした。

written by wabisuke hayashi