Chopin 「夜想曲」「練習曲」(ギオマール・ノヴァエス)


Chopin 「夜想曲」「練習曲」(ギオマール・ノヴァエス) Chopin

夜想曲 全20曲
ピアノ・ソナタ 変ロ短調 作品35
練習曲集 作品10/25全曲

ギオマール・ノヴァエス(p)

VOXBOX CDX3 3501 1950年代の録音 3枚組2,190円で購入

 Chopin は苦手な作曲家ではないが、聴く機会は少ないかも知れません。古今東西有名無名個性的演奏目白押しだけれど、それなりに聴いた範囲では”好き嫌い”が明確に別れそう・・・久々、おそらくは5年ぶりのノヴァエスは、ココロにしっくりくるものがありましたね。以下の文書は1998年頃のものかもしれないが、「パッとしないもやついた音質。そこだけ我慢して」となっているが、芯はちゃんとあって、残響瑞々しく聴きやすい音(モノラルだし、バックにノイズは乗るけれど)だと感じました。収録もたっぷり贅沢な3枚組。

 「暖かくて、骨太で懐の深い演奏」「重心の低い芯のある音色」「上品で暖かい気品とスケール、華やかさ」〜ああ、夜想曲を聴き始めると、そんな(以前からの)評価は外れていないですね。甘い旋律連続横溢の世界であり、繊細な配慮(細部のワザ)もたっぷりだけれど、神経質になりすぎない。味は濃いが甘過ぎない。陰影に富んで(かなり個性的か)、静謐なつぶやきが延々継続するけれど、1時間半聴き続けて飽きさせない。少々”Chopin 相性不良”気味だったが、こんな素敵な世界だったのか・・・と、再認識いたしました。

 ピアノ・ソナタ 変ロ短調は少々音質が落ちる(そう聴きづらいものではない)けれど、低音が響いて少々劇的豪快な印象も強まりました。作品の個性もあるのか、濃厚な味わいがあってチカラ強い。一つひとつの打鍵にやや粘着性があって、さっぱり爽快系の演奏じゃないんです。例えば第2楽章中間部のワルツだって、微妙に揺れて説得力が強い。ワタシは「葬送行進曲」は大好きでして、ズズ暗く深刻な行進から急に表情が明るく(というか、やさしく)なるでしょ?あそこ。この辺りの味付け、たっぷりダシが濃厚で説得力最高です。でもね、上品な味わいは崩れない。

 「練習曲」は、LP時代(ヴァーシャリだったか?)からCD時代(アルゲリッチ)に至るまで、どうもぴん!と来なかった作品なんですよ。(聴き手の成熟問題でしょう)ノヴァエスは”技術が先に立つ”人ではないけれど、テクニック的にも立派なことはこの作品で理解可能。各曲性格の描き分け絶妙でして、単なる練習曲としてではなくて、ルバートやら見栄を切ったりで、「おおっ!」と感じるところ多数。シンプルなアルペジオでさえ微妙な粘着質(あわてない、流さない)があって、味は濃いと思います。

 このCD現役ですか?渋谷のタワーでは見かけたような気もするが、ネットでは探せないみたい。アマゾンで手にはいるそうです。

(2005年9月30日)


 ノヴァエスは1950年代迄に活躍し1979年に逝去した、南米ブラジル出身の女流ピアニスト。VOXでは4巻9枚に渡って、1990年代の中盤までにCD復刻されています。ヴァンガード・レーベルでも見かけますので、たくさん録音はあるのでしょう。

 タワーレコードは当時「VOXと独占契約!」と銘打ってキャンペーンを張っていて(それに素直に従って全部買ったのでした)、その後「投げ売り」は見たことはないので、それなりに在庫は掃けたのでしょうか。でも、ブームは起こらず、忘れ去られたピアニストになってしまったようです。

 録音がすべてモノラルで、音が飛んだり、かすれたりすることはないものの、パッとしないもやついた音質。そこだけ我慢して下さい。(いつものVOXらしい)

 どれも暖かくて、骨太で懐の深い演奏だと思います。無名ピアニストでも、録音の新しいChopinを買うことがありますが、小さく、こぎれいにまとまって線の細い演奏になりがち。

 ノヴァエスは、技術的に安定しているのはもちろん、重心の低い芯のある音色で聴かせます。テンポはややゆったりながら常識的であり、恣意的な揺れもありません。そこからたちのぼる上品で暖かい気品とスケール、華やかさは出色です。

 「夜想曲」の甘い旋律をタップリ堪能させてくれます。「練習曲」も最近では聴けないような、濃厚な味わい。全体にやや大時代的な、グランド・マナーさえ感じてしまう。

 3枚分のCDをいっきに聴いても、聴き疲れしません。音の悪さは、だんだん気にならなくなります。3枚組のボリュームあるセットですが、レギュラーの1枚分に満たない価格でしたし、見かけたら買って後悔しないCDと思います。

   


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written by wabisuke hayashi