由良 三郎 「運命交響曲殺人事件」

”運命”の冒頭主題が鳴ったとき、指揮台が爆発する。
文春文庫 1987年発行 400円(古本で100円)

 ネタ切れ丸見えで、前回に続いて推理小説です。でも「神宿る手」に関しては、2通もメールをいただいちゃって、この地味渋サイトでは画期的な反応でした。やっぱり気軽に読める本は良いな、と出張時の空き時間に買ったのがこの本で、帰るまでに読了しました。非情に良くできた筋書で、「神宿る手」より面白いかも。

 由良さんは、本職がエラいお医者さんで、それこそ東大教授とか歴任された方とのこと。大正10年生まれですから、まだご健在なのでしょうか。解説を柴田南雄さんが担当していらっしゃって、学生時代のアマ・オケ仲間らしい。いやぁ、才能のある方はなにをやっても立派なもんですね。「運命交響曲」という呼び名そのものが少々時代を感じさせるが、音楽に対する博識振りは内容を読めば一目瞭然。

 舞台は中部地方の南見市(これ、どうも松本市を連想させる)で、南見交響楽団というアマ・オケを舞台にして事件は発生します。そこに日本では実力人気とも最高とされる指揮者・小倉 朝一郎が、新しい豪華ホールのこけら落としに客演することとなり、地元音楽ファンは熱狂する〜事件を担当する白河警視も、そのひとりとして事件に遭遇してしまう。

 「神宿る手」と違って、派手な殺人事件は起こるし、セックス絡みの話題にも事欠かきません。(直接の描写がないのは大学の先生の見識?)ま、舞台設定的に「革新知事」とか、新しい豪華ホールを建設すること自体が話題になるような、少々時代を感じさせることもないではないが、あちこち散りばめられた音楽知識も効果的に使われていて、興味深い。

 アマ・オケ内部の人間関係、小倉 朝一郎を巡る音楽大学内部(+妻達)の葛藤も描写が上手くて、ムリがないんです。白河警視の甥(彼も大の音楽ファン)が登場して、謎解きに大きな役割を果たします。ま、音楽に関係する者ならではの殺人の手口であり、また、その解決にも音楽を愛するものが必要であった、といった作品。飽きさせません。

 第2回サントリーミステリー大賞受賞。続編があるらしくて、気を付けて探しましょう。ここ最近、肩のこらない本がありがたい。(2002年4月10日)


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written by wabisuke hayashi