リーダーズ・チョイス

-ワタシの愛聴盤-読者が選ぶ名曲名盤100
音楽の友社 2000年発行  1400円

 「レコ芸」の定期購読は止めてしまったけれど、ONTOMO MOOKはたいてい買います。これはレコ芸のなかの「リーダーズ・チョイス」を8年分集めたもの。ワタシは投稿したことはないが、常連も多いらしくなんども同じ人が出てきます。こういう本を見てCD購入の参考にしようとは思わないが、世間の好みや、専門の評論家がチョイスしたものとの比較・違いが出て本当におもしろい。

 1曲ごとに「評論家の目」というコメントが付いていて、これがまた一興。どうも編集方針が徹底していないようで、評論家によって論評の視点がまったく違っているのもお粗末。大物評論家U氏はいつものように自分の好みを全面的に開陳しているだけだし、藤田由之さんは「クリティカル・エディション」にこだわっていて、ワタシにはほんとうに勉強になりました。

 若い読者の中にU氏と言葉遣いがそっくりな方がいて、微笑ましい。また、いつものことではあるけれど、盛大な校正ミスがあって(人のことはいえないが)いろいろと探してみるのもヘンな楽しみ方です。

 ワタシが小学生頃から、中年になってしまった現在まで、評論家の評価の変遷は呆れるほどで、それを不審に思っていました。でも、この本を読んで少々見方を変えましたね。全体を通して言えることは、読者は昔馴染みへの固執と、好みの多様化(ワタシも)への二極分化、評論家には「クリティカル・エディション」研究の成果と、演奏スタイルの流行廃れを反映しているから違いが出てくるのは仕方がない。

 圧倒的にカラヤンが強い。それとバーンスタイン、ベーム。最近いろいろと評価が厳しいはずのアバドも上位常連でした。もしかしてこれは「ジャイアンツ・ファン」といっしょで、「テレビではジャイアンツの試合しかしない」=「レコード屋さんにはカラヤンのCDしか存在しない」ことを反映しているのかも。こういう本って、たいてい男性ばかりが投稿しがちですが、女性もちゃんと出てきます。

 バッハではリヒターの圧勝で、評論家からは完全に無視される現代楽器の演奏に多くの支持が集まっています。(これ、ワタシも同感)無伴奏チェロ組曲の一位がロストロ盤というのも意外というか、なるほど状態か。ベートーヴェンはクライバー(息子)とフルトヴェングラーで終了してしまうが、交響曲第8番が(小差ながら)イッセルシュテットがトップであるのは驚き。第6番がワルター(2位がベーム)というのは、オールド・ファンの票を集めているのかと思ったら、意外と若い人からも支持がありました。

 「皇帝」がバックハウス、ヴァイオリン協奏曲がオイストラッフというのには、やや呆れました。(保守的すぎ)ソナタでもバックハウスは人気がある。「幻想」もミュンシュ/パリ管が圧倒的で出来レースっぽい。ブラームス辺りになると、票が割れてきて、バルビローリも顔を出すし、おもしろくなります。ピアノ協奏曲第1番では、ルービンシュタイン/メータ盤が小差ながら一位なのは日本の音楽ファンの敬老精神でしょう。クラ五がウラッハ、というのはさすがというか、これは評論家の方々とピタリと一致する。

 ブルックナーは第4番がベーム、第7番がカラヤン/VPO、第8番が朝比奈(1994年)、第9番がシューリヒトという興味深い内容であり、また票が分散しているのも日本の音楽ファンの成熟を物語っているような気がします。(いまだったらヴァントに集中するかも)ショパンはアルゲリッチで独占。(おもしろくない。あたりまえすぎて)

 ドビュッシーにおけるデュトアの人気は理解できるが、マルティノンが健闘しているのは予想外。ドヴォルザークの第8番のセル、第9番のケルテス(VPO)の評価揺るがず。(ここでの藤田さんの「版」のコメントがじつに深い)ドヴォ・コンは、ロストロ・カラヤン盤がフルニエ/セル盤を振り切っているのは個人的に納得です。

 フォーレのレクイエムがクリュイタンス、フランクのニ短調交響曲がカラヤン、ガーシュウィンはバーンスタイン(旧盤)というのはあまりに平凡な結論。グリーグとシューマンのピアノ協奏曲でルプーが優勝しているのは、驚くべきことでしょう。マーラーはバーンスタインとワルターで独占なのは、まったく意外。(これ、昔から変わっていないのかな?バーンスタインが新盤になったとしても)

 シューマン、ショスタコ、シベリウスでバーンスタンが強いのは呆れるばかり。(正直信じられない。凄い人気)モーツァルトでベーム、ワルターが(未だに)トップの座というのも言葉を失います。R.シュトラウスはカラヤン独占。「春祭」でドラティがトップになったり、いまや評論家からは忘れ去られたコリン・デイヴィス盤が上位に来るのはなんと義理堅いこと。(新譜で出たとき凄い人気だったんですよ)

 「カルミナ」がヨッフム、「ダフニス」はクリュイタンスというのも予想通り、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番がリヒテル、チャイコはムラヴィンスキー・・・・・・・とまぁ、ワタシより若い人も含めてほんとうにおもしろくない選択。(というか、心底名演なのかもしれません)

 ブラームス・ブルックナー・バッハ辺りにおもしろい結果が出ているが、やはりワタシが追い求める演奏群とあまりに違いがありすぎて、こりゃ世界が違うわい、というのが感想。昔馴染みの演奏ばかり人気では、新しいCDは売れないだろうし、「少数派」(個性派、ワタシも)は少数だからCDは売れないでしょう。 


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