黒田 恭一 「オペラへの招待」

みなさんお馴染みの、回りくどくも念の入った文章。
朝日文庫 1992年発行 480円

 黒田さんは、ワタシが子どもの頃から評論活動をされていたはずで、その独特の味わいある文章はまったく変わっていない。論旨を徹底させるために、重要点はなんども繰り返し、別な側面から展開しなおします。平易ではあるが、クドいといえばそう。でも、好きです。必ず納得します。FM放送で聞かれる、彼のお話しぶりは、文章の味わいと寸分変わらない。

 「オペラは長ったらしい、外国語は分からない」・・・・・その通り。この本にも出てきます。(いまや絶滅寸前の)LD、これから普及して行くであろうDVDは、オペラの普及に大きな力を持つでしょう。残念ながらワタシは映像方面に熱心ではなくて、つまみ食い・・・ならぬつまみ聴き専門です。抜粋盤なんかもお手軽でいいですね。で、音楽は楽しいお勉強なので、こんな本は必ず読むようにしています。

 前書きで「史上初のミリオン・セラーはカールソーのSPであった」という事実を紹介。有名な「衣装をつけろ」(1902年録音)ですが、オペラって多くの人に愛されているんですね。茂木さんの本に「ドイツにはコンサート専門のオケは少ない」旨の話しが載っていて、ようはするにオペラ・ハウス付きの管弦楽団ばかりなんですね。欧州では、それほどオペラは日常生活に密着しているんですね。映画「プリティ・ウーマン」で、サンフランシスコ・オペラが出てくるし、アメリカでもけっこう盛ん。南米でも立派なオペラ・ハウスがあるそう。

 で、有名かつ超名曲の「フィガロ」「椿姫」「ニーベルングの指輪」「カルメン」「薔薇の騎士」の粗筋が、そうとう細かく・・・・・いつものように、念には念を入れて説明されます。いくらオペラ方面に弱いワタシでも、粗筋くらいは・・・・・と思っていると、けっこう目新しい情報も豊富。

 「フィガロ」は、ボーマルシェの3部作の2番目に当たっていて、筋書き的にはロッシーニの「セヴィリアの理髪師」が前となる、といった話しは有名ですよね。では第3作は、というと「罪ある母」(これはオペラ化はされていないはず)だそうで、伯爵夫人がケルビーノの子どもを生む、という流れになるそうです。(個人的にはこの話しはFM放送で黒田さんの話を聞いたことはある)*この件、「ミヨーの作品がある」との情報をいただきました。La mere coupable (罪ある母) / 1965年の作品

 「モーツァルトのオペラでは、たとえばそこでうたわれていることばを理解できなくとも、物語の推移であるとか、はたまたそこにいる人物がいかなる人物であるかを、把握できる。音楽が登場人物の性格とか行動などすべてを十全に語るからである。」→名言。

 「ラ・トラヴィアータ」と「椿姫」の違い(!?これは読んでのお楽しみ)。ヴィオレッタという名前はヴァイオレットのことで、「すみれちゃん」とでも訳せば日本人にも親しみやすい。男性の扱いにかけては百戦錬磨の花柳界の彼女は、朴訥な田舎青年に迷ってしまう。「女は男の、男は女の、まっすぐなことばに弱い」→名言。美人薄命、はいかにもの筋立て。

 「息子の将来のために」という父親の願いを聞き入れて、身を引く女。無理に作り上げられた悲しき別れ。そして、ヴィオレッタの生命が尽き果てんとするときにすべてが明かされる真実。今時はやらないし、どちらかというと演歌の世界だけど、この陳腐さを補って余りあるヴェルディの音楽。「すぐれた指揮者できくと、アンニーナとヴィオレッタのやりとりのあいだに、ヴィオレッタがあんなにも待っていたアルフレードのきたことを知る。」「切迫していく音楽に耳をすますききては、病気で弱っているヴィオレッタの心臓が、今にもはりさけそうに脈うっているのを感じる。」

 「指輪」は、知っているようでなかなか複雑な筋立てが理解しきれないワタシ。じつに詳細に、要領よくまとめてくれて、納得します。そして「指輪攻略法」のノウハウが明瞭に示されます。ふだんなら「よけいなお世話」と思いがちのワタシも試してみる価値あり、と思いました。ここではネタは明かせませんが、まず全曲CD15枚買え、対訳も揃えろ・・・・とのお達し。(ワタシも準備しました)

 「カルメン」「薔薇の騎士」と続き、「アリアの楽しみ」「序曲・前奏曲はエッセンスである」「オペラの贅沢さを検証する」「ビデオディスクの利点と問題点」〜ラスト「参考書」で締めくくられます。ホント、かゆいところに手が届くような配慮ある本。

 「推薦盤」は、代表的な一枚のみ示していて、逆にそれが見識を示していると思いました。


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written by wabisuke hayashi