クラシック名盤大全「オペラ・声楽曲」編

演奏スタイルの流行廃れを、考えさせらます。
音楽の友社 2000年発行  1800円

 この本の前身にあたる「クラシック・レコード・ブックVOL6 オペラ&声楽曲編」の発行が1986年だから、一昔も二昔も前のこと。感慨無量です。ワタシは「CDの紹介本は必要ない」と常々主張しておりますが、こういった本は「流行」が見えておもしろい。声楽方面には弱いワタシも、嗚呼これを買ってみようかな、と思う瞬間が多々有。

 だいたいBACHから始まるじゃないですか。(ま、その前にアダムスの「中国のニクソン」なんかがあるけれど)カンタータは、昔とライン・アップがほとんど変わらない。リヒターの評価がいっそう上がり、リリング、アーノンクール、レオンハルトの全集の評価は揺るがない。鈴木さんとコープマンの全集が揃えば、また様変わりするでしょうかね。

 むしろ、カール・フォルスターとかリステンパルト、ヴェルナー(ワタシLP時代大ファンでした)が復活していて、それどころかモノラル時代のラミン、レーマン、シェルヘンまで遡るのが凄い。これは、BACHの声楽曲に限らずオペラ関係でも、昔の地味な録音が脚光を浴びている不思議さ。(と、いうかCD復刻の成果なのでしょう)

 BACH〜BARTOK、BEETHOVENと来るでしょ。上手い順になっていますね。フィデリオにはワルター/メトロポリタンが登場するし、カラヤン/PO、バーンスタイン(旧)の「ミサ・ソレ」も意外なる初登場。ガーディナーの「レオノーレ」の出場は当然でしょう。

 ベルリーニの「カラス独占!」は昔から。ベルクは、アバド、バレンボイムは当然として、メッツマッハーの「ヴォツェック」に新時代を感じました。バーンスタインが8組も取り上げられているのは、彼の作品が古典化しつつある証明でしょう。超有名オペラ「カルメン」に、ザイドラー=ウィンクラー、パピ、メリク=パシャイエフ(かの壮絶なモナコのイタリア語、アルヒーポワはロシア語、という凄い演奏)、1930年録音のクロエ(?)、等々そうとうにマニアックな品揃えに驚きます。

 ブリテンのオペラが28組とひじょうに多く、しかも新しい録音が多いのは人気の証明。(順番に書いているとキリがないので)ドニゼッティは、(美人!)ゲオルギュー/アラーニャ若夫婦の「愛の妙薬」にパピの「ドン・パスクワーレ」登場。山崎さんはあちこちでこの旧い録音を激賞していて、ワタシも買おうかな、と心動きます。 かなり渋いエルガーの声楽曲が12組登場も感慨無量(一つも聴いたことはない)。

 (ど〜んと飛ばして)プッチーニは、パッパーノ、シャイーあたりが新顔。あとは、昔なじみの演奏ばかり。珍しいのはクロブチャールのドイツ語版「ボエーム」、ベレットーニというひとが1938年にスカラ座で録音した「ボエーム」。ロッシーニもぜいぜいシャイー、ジェルメッティくらいが新しどころ。シェーンベルクは増えましたね。シューベルト、シューマンは、ようやくフィッシャー・ディースカウの呪縛がとけつつあるが、新人の台頭と評価の確定はこれからでしょう。

 作品的には、多種多彩になっていて、ワタシが聴いていないものがかなり(というか正直ほとんど)あります。矢野顕子が2枚入っているのは、いよいよボーダーレス時代の楽しい幕開けかと感心します。


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written by wabisuke hayashi