私の仕事と人生
講談社文庫 1999年発行  600円+税

 「本で聴く音楽」休止中です。ワタシのいくつか知っているサイトの更新立ち消えを目撃することがあるけれど、自らがこうなってしまうとは・・・音楽関係の書籍はほとんど読んでないんです。いえいえ、時に新刊に手を付けないこともないが、失望ばかり〜で、ほぼ一年ぶりの更新は、音楽にほぼ無関係なる一冊、というか、全然関係ないのを読んでいたら、音楽が出てきた、ということで。

 鍬本さんは1928年熊本県生まれだから、ウチの親父と一緒くらいですね。(親父は健在だが、筆者は1998年70歳で逝去)戦後すぐが青春であった世代、鍬本さんは尋常高等小学校しか出ていない”ノンキャリア”の刑事さんだったんですね。最近有名どころ「踊る大走査線」を先頭に、刑事ものドラマはいつも放送されているが、事実と似ているようでもあり、もちろん全然違うところもある。それに、時代の変遷もあるでしょう。隣近所の様子が全然わからないですからね、最近は。

 さきほど「筆者」と書いたが、聞き書きだと思いますよ。メモなんか全然書かない、驚異的な記憶力だったらしい。癒着ではなくて、やはりその筋の人々とはちゃんと通じている(付け届けがあれば、必ず半分返した、とのこと)こと。そうじゃないと情報が取れないし、義理堅い人々も多かったとのこと。キャリアとノン・キャリアの対立、全然アホなキャリアとか、激しい縄張り主義、いやがらせ、いじめ、先入観に基づく誤認逮捕もテレビで見る通り。後に検事総長となる伊藤英樹さんとの近しい関係だって「踊る大走査線」を彷彿とさせます。

 給料は安いみたいですね。ドラマで、タクシーをつかまえて「あのクルマを追ってくれ」なんていう場面あるでしょ?あれはちゃんとお金を払うそうです。全部経費で出るかといえば、成果に結びつかなかったものは自腹になったり、他の管轄(他県)の協力を得るときにはお土産持参(当然自腹)らしい。さきの”その筋の人”への礼儀も、マスコミ記者の対応も自腹・・・ここ数年、警察の「裏金」(虚偽捜査費)は大問題だが、もしかしてこうした”自腹”問題の救済策の変貌かも知れません。

 彼は無理で理不尽な捜査や尋問はしたことがなくて、良い人間関係を作っていたみたいですね。(お礼参りもなかった、とのこと)ひょんなキッカケから、独身時代大スター越路吹雪とお付き合いしていた(恋人であった)、というのも彼の人間性を物語ります。美術骨董を趣味(オークションに参加できたくらいだから、たいしたもの)とし、(警官には珍しい)プロテスタントの洗礼を受けた、とのこと。で、音楽はどこへ行った?

 昭和30年頃つかまえたスリが、「ああ、これでTCHAIKOVSKYのアンダンテ・カンタービレが聴けなくなる」と。DVORAKの「新世界」「アメリカ」が大好きで、いまでもその曲を聴くとそいつを思い出すと。それと、鍬本さんの趣味は(美術の他に)クラシック音楽であって、「昭和二十年代後半からレコードを集めた、七十八回転のレコードはいまでも捨てられない、当時は高価でしたからね。」

 「休日などは朝から聴いている。指揮者だとブルーノ・ワルターが好きですね。トスカニーニ、現役ではショルティがいい。カラヤンは好きじゃない」「ベートーヴェンは好きじゃないな。バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディのバロックだな。モーツァルトは大好きです。ピアノ協奏曲二十三番の二楽章を聴くと、これは人間の作った曲じゃないという気がしますよ」「クラシックの好きな刑事なんて、少ないですね。キザになるからみんなの前では言いませんけど」

 「サントリーホールやオーチャードホール、池袋の芸術劇場、上野の文化会館に、よく聴きにいきますが、生はいいですね」・・・凄惨な殺人事件を生涯80件ご担当されたそうだが、人間的魅力+音楽の趣味まで・・・言うことありません。


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