Gramophone Japan 2000年5月号

世界で一番読まれているクラシックCD批評・情報誌
新潮社 2000年4月発行  1000円

 音楽の友社「レコード芸術」は、ワタシ個人的にもう30年来のおつきあい。長い歴史を刻んでくれることは価値があるし、ここ数年、CD付録、輸入盤解禁、若手ニューウェイヴ評論家の台頭、など工夫も見られます。それでも、ここ数年、正直言って毎月読むのは少々つらくなってきたのも事実なんです。

 なにせ、買ってきたら数時間で読み終わってしまう。もちろん、隅から隅までは読むはずもなく、興味あるところのみを拾って、といった感じ。一番気になるところは広告と、新譜リリース(とくに録音情報と、輸入盤)のみで、本文はほんとうに「気が向けば」状態。グラビア記事には素晴らしいものがあるけれど、やや宣伝臭(提灯記事とまでは言いません)が気になる。

 日本的「和」といいますか、そう酷評されたものは少なく、あった場合には「モロ好き嫌い」水準で読むに耐えない。付録CDは、雑誌BBCに比肩するまでもなく、単なる部分細切れ寄せ集めで資源の無駄。それでも、「これしかないから」と買い続けてきたんですが、とうとう長いつきあいを断つときが来たようです。
 この度、遅ればせながらウワサのGramophone Japanを買う機会を得ました。これが想像以上の出来。

 まず厚さについて。ずいぶん薄いでしょ?でも、内容は充分濃く、豊富。(字数と広告の相対的な少なさで、こちらのほうがテキストは多いはず)執筆陣も(イギリス本国版をベースにしているせいか)多彩。切り口も工夫が多くて、どれもこれも「!?」と興味津々の連続。むしろ薄い分、置き場所にも困らない。

 冒頭、日英の編集長からの文書が掲載されており、これが「CDの価格」問題。レコ芸では「廉価盤特集」(これも宣伝臭を感じちゃう)なんかやってくれてましたが、そのものずばりの価格問題はタブーの世界でした。「安けりゃいい」式の話しじゃないんですよ。「金額に見合う満足」(永井路子さんが、戦後の新婚当初に買った「フィガロ」全曲で、初任給が吹っ飛んだ話し。でも、その嬉しさは今でも忘れられない、という感動)を探すこと。

 広告は、メジャー系ではBMGビクターとEMIのみ。(しかも本文連携)あとは、輸入盤をベースにした広告ですが、国内盤リリースも含めて情報は完備。当然、輸入盤は詳細を究めていて、イギリスでのリリースが詳しいのは当たり前でしょう。ヴァント、ヘレヴェヘのインタビューは「ま、有」でしょうが、ドヴォルザーク「新世界」への旅(連載らしい)は、USA、アイオワ州スピルヴィルというチェコ移民の町の逸話と写真が出ていて、ドヴォルザークが望郷の思いを癒やした、という凝った記事。(提供VISA)

 ヤン=パスカル・トルトゥリエ、アレッサンドリーニのインタビューは渋い。湯浅卓雄の紹介記事が、英語からの和訳なのは、さすがイギリスで活躍する音楽家を大切にする姿勢。(ベルファスト・アルスター管の、主席客演の契約を更新したとのこと。但し、NAXOSからの新譜は酷評されているのがおもしろい)

 「バラの騎士」歴代録音の詳細を究めた分析記事、「牧神」は、ゴールウェイ、パース(女性オーボエ奏者)による楽曲分析、主要録音としてはカラヤンの旧録音、ミュンシュ/ボストン、ハイティク/コンセウトヘボウ、デュトア、それにヤン=パスカル・トルトゥリエ/アルスター管(!)が取り上げられる驚き。

 ネッド・ローレムという現代音楽作曲家の嘆き(パールマンのことをクソミソに言っている)、ジョン・マケイブ(作曲家、ピアニスト、作家)の一ヶ月の日記。(結構おもしろいよ)→メールにて情報をいただきました。VOXBOXにてCDも出ているとのこと。作風は難解ではなく、聴きやすいそうです。・・・・・と書いていたらキリもないので、とにかくどの頁も内容凝縮のおもしろさ。コンサート情報も詳細。

 え〜、問題の「Reviews」。だいたい批評は信じないほうですが(日本では、なにか新しいのが出る度「決定版」になってしまう)、7割くらいイギリス本誌からの和訳で、一歩引いた冷静な分析に説得力がある。かならず、比較盤をつけるのもなかなか。「大絶賛」というのは少なくて、かならず問題点が明示される。取り上げられる演奏(とくに評価が高いもの)には、イギリス関係が多いのもさすが、というか、なんというか。(ラトルなんて大絶賛)

 あまりワタシが興味のない「オーディオ」も凝っていて、「オーディオ・オールディーズ」は、往年の名器が紹介されます。New Releasesには「UKリリース」が紹介されて(これですよ、長年探していたのは)、VOXがまだ生きているのに安心したり、Bマーク(=スーパー・バジェット・プライス)付きなのも嬉しい配慮。

 「最初に聴くならこの一枚」(毎月更新)これも、日英の違いを見せつけられて最高。(ワタシは英国支持。「シュエラザード」がコンドラシン盤とは!)フランスの演奏家がほとんど出てこず、アメリカものも少ない。多いのは(当然)イギリス、そしてドイツ系の演奏。イギリスで現在活躍するハイティンクへの評価が目立つのも、日本では見られない現象でしょう。

 一部、(おそらく翻訳ソフトを使っているせいかな?と想像しますが)、ウィーン・フィルやベルリン・フィルが「ウィーン管」「ベルリン管」となっているのはお笑い。(校正ミス?外注に出した人が音楽を知らないだけか)

 で、唐突な結論ですが、ワタシ、レコ芸は止めることにいたしました。ほんとうに長い間、お世話になりました。もう未練はありません。


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written by wabisuke hayashi