片桐 卓也 「悦楽クラシック音楽講座」

グラシを傾けながら聴きたいCD100選
KKロングセラーズ 1990年発行  1200円

 「この曲はこのCDが不朽の名演だ!」みたいなノウ・ハウ本はよけいなお世話!と思います。この本、別な意味で究極のノウ・ハウ本で感心しちゃいます。ちゃんと「おすすめCD」は掲載されていて(監修 三谷礼二さん)、それはそれで時代を反映していて面白いのですが、「こんな時はこの音楽」という、おおいにお節介な一冊。まさか、この通り実践している人はいないでしょうねぇ。試しにやっている見るのも一興でしょうか。

 第1章「日曜の午後にビールをあおりながら」。べつに理論的展開があるわけじゃなく、各章こんな雰囲気の題名で、いきなり曲の紹介で始まります。ヴァイヴァルディの「四季」をチョイトひねりを入れて紹介〜モンテヴェルディ、パーセル、スカルラッティまで飛んじゃうのが偉い。ブラームスは弦楽六重奏曲で、シューマンやクララにも言及していて、ブラームスはじつは若い頃ハンサムであったことにも言及。(お勧めCDにクナ/ケルン放響のブラ4を、という念の入れよう)

 チャイコ、ラヴェルと続いて、「BPOかVPOか」〜スカラ座のオケ辺りまでひっぱりだして、イタリア四天王「アバド、ムーティ、シノーポリ、シャイー」、ハスキル、リパッティ、ルプーらの「ルーマニアの叙情派ピアニスト」、「四季」はもう弾きたくないイ・ムジチ、ヨー・ヨー・マ、サントリー・ホールまで話しは広がって、多彩なこと。(だけどビールとは関係ない)

 いちいち紹介しているとたいへんなので、題名のみ。「ワイン&ブランデーで過ごす、二人で過ごす長い夜に」「いっぱいのリキュール&スピリッツで気分を変えて」「カクテル・グラスを、アダルトに傾けながら」「黄昏のショット・バーでスコッチを飲る」・・・・とまぁ、気障と言うか、いい加減というか・・・。ま、題名と内容を無理矢理くっつけていないのがまだ許せる。

 各々の名曲の逸話の付け方、お勧めCDの選定も凝っていますね。シューベルトの長大なピアノ・ソナタ第21番はアファナシェフ、ドヴォ・コンはフォイアマン、シェーンベルクはカラヤン。「現代音楽をもっと聴こう」と、小澤/トロントの「ノベンバー・ステップス」が出てくるところは納得。

 とにかく、行くところ可ならざるところはなし、といった感じで、月並みな「名曲物語」じゃなくて、演奏者論、歴史的演奏の紹介、オペラ・ハウスのお話し、などかゆいところに手が届くような内容で飽きさせません。
 CDではBEETHOVEN「第9番」はセル。プロコのヴァイオリン協奏曲はベルキン(どこにいったのかなぁ)、美人ピアニスト・ヨウラ・ギュラー、MOZARTの交響曲はもちろんシューリヒト(パリ・オペラ座)、グリーグの叙情小曲集はギレリス(渋い!)、フォーレのレクイエムはフレモー/モンテカルロ(これも渋すぎる)などなど・・・・・。

 題名と内容は関係ないようでもあるが、CLASSIC音楽の楽しみを堪能している筆者の思いは伝わってきます。ちなみに、ワタシはそのまま実践はしたことはありませんが。


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written by wabisuke hayashi