宇野・中野・福島各氏共著「クラシックCDの名盤」

ようこそ!素晴らしい音の世界へ
文春新書 1999年発行 880円

 既に「演奏家編」という続編も出ているから、この種の本の中では売れているのでしょう。音楽評論で個性ある主張を繰り広げている3人が、立体的に「名演奏」を推薦していて興味ある内容になっております。

 個人的には「名曲名演お薦め本」には興味はありません。ま、聴いたことのない演奏のクレジットには充分留意するが、それでCDを買うことはまずないんです。21世紀を迎えて、定まった「名盤」を知識として書籍にするようなことが価値有、とは思えません。

 この本は、クラシック音楽演奏の嗜好の多様性を反映していて、やはりレコード屋さんは経営が大変だろうなぁ、と想像がつきますね。流行歌(はやりうた)も含めて、CD業界は全体に売り上げが年々減っていて、いっぽうでメガ・ヒットは連発する。つまり、(ウチの高校生の息子を見ていても一目瞭然)皆、同じものばかり買っているんです。

 一方で、クラシック音楽は絶対的な価値ある名盤を見失い、多様化し、市場を劇的に縮小させているのでしょう。この本を見ると、そんなことが類推できます。

 例)かつて新旧のイ・ムジチ盤を挙げておけばよかった「四季」。若手の福島さんは、いきなり「カルミニョーラ/ソナトーリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカ」盤を出します。スイスDivoxレーベルだそうですが、ワタシは見たことも聴いたこともない。

 ヴェテランの中野・宇野両氏は、イ・ムジチ/シルブ盤、ミュンヒンガー/シュトゥットガルト盤という、わざと旧態としたところで対抗するのも興味深いもの。(じゃ、ワタシはストコフスキー/NPO盤で)

 「マタイ」といえばリヒターだが、福島さんはシェルヘン盤(大穴狙いか)、中野・宇野両氏はメンゲルベルク盤という切り札で攻めます。(ワタシは、ミラー/グッドウィン盤のすっきりとした古楽器で)

 「フィガロ」の選択もすごい。福島さんはいきなり「マルゴワール/王室厩舎・王室付き楽団盤」、宇野さんはクレンペラー(1970年録音。いかにも、という感じ)、中野さんはなんとカラヤン盤(1950年録音)という渋いところで。

 BEETHOVENの交響曲全集。宇野さんは予想通り朝比奈/大阪フィル(1996〜1997年録音)で、中野さんがトスカニーニ/NBCのRCA盤、福島さんはなんとレイボヴィッツ/RPO盤(リーダーズ・ダイジェストによる伝説的な録音)・・・・・ここまで来ると「カラヤンはどこにいったの?」という思いが心を過ぎります。

 キリがないので、サン・サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。福島さんがパレー/デトロイト盤(異議無し)、宇野さんがコバケン/チェコ・フィル盤(な〜るほど)、中野さんがマルティノン盤というオーソドックスなところで。(ワタシはLP時代の印象だが、アンセルメ盤を推奨したいもの)

 ようはするに手に入りにくいCDが多く登場するし、相対的に都会の方が売っている確立は高いものの、「どこでも売っております」状況ではないのは何処も同じ。こう価値観が多様化すると、レコード屋さんの品揃えにも苦労するし、売れ残ればどうしようもないでしょう。(300円以下で放出されればワタシが買ってあげます)

 情報も、調達もインターネット時代です。海外、国内問わず、価格と在庫を調べて通販でしか買えない時代となりました。珍しい音源は、できるだけ安く手に入れて冒険するしかないでしょう。

 この本を読みながら、難しい時代となった、との思いを深めました。アンチ・カラヤン、アンチ・メジャー、激安狙いで裏街道を歩んできたが、いつのまにかそれが普通の時代となったみたいで少々恐い。(浜崎あゆみのBESTを聴きながら)


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written by wabisuke hayashi