木村恵美子 「バッハの音楽的宇宙」

歴史、生活、国家・政治、宗教
丸善ライブラリー 1994年発行 600円

 BACHのカンタータはタップリあるから、好きになると楽しみが絶えません。BRILLIANTのレーシンク盤だと全部集めても2万円でお釣りが来るはずだから、思い切って買ってもよろしいかも。ワタシもほぼ全曲揃えましたが、どのCDでも音が鳴り出したとたん悦楽の世界に突入状態。でも、聴けば聴くほど歌詞の意味合いや、演奏された機会の背景が知りたくなるものなんです。

 じつはこの本、出てすぐ購入して、手に負えなくて引っ越しの時に一度処分しておりました。BACHのカンタータを中心に、歴史、生活、国家・政治、宗教と分類して一曲ずつ適切な解説がなされているのですが、いきなり、そのまま読んでもなんのことやらワカラんのです。こんなこと言っては失礼だが。

 ところが!・・・・・これ、実際にCDなどで音で聴くときには必携書籍に早変わり。逆に、この本に掲載されてる曲を読みながら聴いたりすると、とてもわかりやすいというか、お勉強(とても楽しいお勉強)になります。だからもう一度買いました。

 筆者は東京バッハ合唱団で、30年以上の実演を経て執筆されています。全71曲分、小さなモテトからマタイ受難曲まで、たんなる解説文としてではなく、ご自分の感想も含めて簡潔に、ポイントを示されます。ま、ワタシがグダグダ書いても仕方がないので、少々引用すると・・・・・

 「花婿の到来を夜通し待つ乙女たちに対して、暁を待ち、花婿との到来という喜ばしい期待を促す物見の声である。人生は平面ではない。いつ何時でも、突如として神の側からの働きかけが、地球を取り巻くオゾン層を突き破って、私たちのもとまで届いて来る。それをキャッチできるよう、目を覚ませというのである」

 「冒頭合唱の付点音符による入場行進曲的な形式は、バロック風な王侯貴族の入場になぞらえた、花婿、すなわち神の子の人間歴史への登場を象徴する。」(カンタータ「目覚めよと呼ばわる物見らの声」BWV140)

 有名な曲だけど、これを読めば音楽の印象一変、なるほどの感動が深まること必定。曲によってはわずか数行、という解説もあり、「ヨハネ」「マタイ」「クリスマス・オラトリオ」「ミサ曲ロ短調」辺りになると数頁に渡るが、多分に「ピン・ポイント」的コメントになってやや物足りない。

 BACHのカンタータ関係の書籍(ちゃんとした音楽大辞典、みたいな専門書はあるのでしょうが)は、なかなかシロウトには手に入らないし、日本語HPも意外とないもんなんですよ。ま、そのなかでもこの本は手に入りやすくて、なかなか貴重な一冊なんです。


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written by wabisuke hayashi